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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おなつとお千代

作者: 星海 あい

 昔、とある村に、仲の良い2人の少女がいたそうな。


 1人は、普通の村娘。

人懐っこくて、家族や村人たちから可愛がられて育った娘、おなつ(・・)


 もう1人は、この村の外から移り住んできた娘。

月夜のような美しい黒髪の、口数の少ない娘、お千代。

 このお千代が不思議な娘で、どこから来たのか、いつから村に住み始めたのか、村人の誰も知る者はいなかった。ただ1つ、村人全員が知っている事といえば、一番最初にお千代と会ったのは、おなつらしいということだけだった。



 特に戦もなく、村は平和な日々を過ごしていた。


 ところがある晩、村の平和は破られてしまう。

 数人の村人が、その晩、恐ろしい咆哮と男の叫び声を聞いたというのだ。

村人たちがその男の家に駆けつけてみると、血まみれの男が倒れていた。まるで大きな爪にでも引き裂かれたかのような傷に、駆け付けた村人は青ざめたそうな。そしてその普通はあり得ない傷跡から、男は鬼に殺されちまったんじゃあないか、という話になった。

 殺された男は、お千代を良く思っていない男だった。


 そして次の日の晩、また鬼が出た。

今度は、おなつに恋心を抱いていた若衆が行方知れずになっちまった。

村外れの森と村の、ちょうど境界の辺りで、無惨に裂かれ血の付いた若衆の着物が見つかったらしい。持ち主の若衆の姿は、どこを探しても見つからず仕舞いだった。

 鬼に喰われた。村人達はそう(おのの)いて噂した。


 二晩続けて起こった惨劇に村は恐怖のどん底、たまらず勇猛と名高い、町のお侍に助けを求めた。

そのお侍は鬼退治のための屈強な仲間六人を引き連れ、すぐに村にやって来た。


 村人達の歓迎もそこそこに、早速そのお侍達は鬼の居場所を探しに掛かった。

 鬼が居た場所には、鬼特有の“気”が残る。それを感じ取れるお侍の仲間の一人が、村中隈無く探し回った。するとなんと、鬼の気がお千代の家の周囲から感じ取れたと言うじゃないか。


 お侍達は、お千代の家の辺りに張り込んで夜を待った。

日暮れにゃ微かに漂っている程度だった鬼の気も、夜が更けるにつれ、だんだんと強く濃くなっていく。けれども、待てども待てどもまだ鬼は現れない。

 

 お侍の仲間の一人がしびれを切らし始めた、丑三つ時を少し過ぎた頃。

しんと静まった空気のなか、突然お千代の家の戸がスッ…と開き、恐ろしい程緊張で張り詰めた顔をしたお千代が姿を現した。

 そして、ただの少女ではあり得ない速さで走り出したではないか。その姿は、まるで飛んでいるかような走りだったという。


 お侍達は慌ててお千代の後を追ったが、お千代はそのあり得ない足の速さで夜の闇に紛れ、お侍達はお千代の姿を見失ってしまった。


 だが、鬼の気を探し感じ取れる仲間がいる。

その仲間が、微かに漂っている鬼の気を探って鬼の居場所を突き止めようとした、その時。

 大きな板を乱暴に壊すような、腹に響く派手な重低音が聞こえてきた。直後に闇夜を切り裂く鋭い女の悲鳴も聞こえてくる。


 お侍達はすぐさま音が聞こえてきた方へと駆けていった。

すると今度は、「やあぁぁぁーーーッ」と、怒気が籠められた少女の声が聞こえてくるじゃないか。



 駆けつけたお侍達が見たのは、赤黒い血溜まり倒れゆく赤鬼と、その前に立つ、二本の白肌色の角を生やした、お千代だった。


 お千代の後ろには、戸口と壁の一部を壊されたおなつの家。

家の中にはおなつの家族が、戸口の近くには驚きに目を見張ったおなつが立っている。


 ハッと各々(おのおの)の武器を構えるお侍達に、お千代は静かに言った。


「その鬼の首を落とし、胴と分けて塚に入れてください。…それと、月に一度でいい。きちんと供養してやってください。」


 言い終えたお千代の姿が、ふぅっと人間に戻る。


 現状から、お千代が自身の倍の背丈を持つ鬼を倒したのは明らかだった。お千代の力の強さを認識したお侍達に、緊張が走る。


 だから、お千代がおなつの方を向こうとするのをお侍達は遮った。


「御前は、鬼であろう。何故この様な事をした。話せ。」

「………その鬼が、おなつちゃんを襲おうとしたから、倒したまでにごさいます。」


 お千代はおなつに、切なげで、いとおしそうな目を向けた。


「その鬼さえ出なければ、ただの人としてこの村に居とうごさいました。……でもこうして、この村の人間に正体を見せてしまった。だから“お千代”は、この村を去らねばなりません。」


 お千代はひとつ、悲しげな儚い笑みを浮かべると、目礼してその場から去ろうとした。けれども、お千代に駆け寄って、それを止める者がいる。

 先程お千代に助けられた、友人のおなつだった。


「お千代ちゃん、あなたの正体ならば、私は誰にも言わないわ。家族にも、誰にも言わないでほしいって頼むから!だから、だから…どうか行かないで。もうお千代ちゃんと会えないなんて、寂しいよ…!」


 必死にお千代を引き留めようとするおなつに、その場にいる人々は信じられないものを見る目を向けた。いくら赤鬼を倒したとはいえ、鬼を村に留めるなど、おなつは良くともおなつの家族の心情は良いはずがない。

 鬼と人はどこまでいっても相容れる事は無いのだと、人は信じているからだ。


 そんなおなつを、お千代はそっと抱きしめた。

穏やかな顔で、何やら二言三言、おなつと言葉を交わす。

そして、お千代は泣き出しそうな顔になったおなつから離れると、その場にいる者達に向けて目礼し、静かに歩き出す。


 こうして、月明かりの中、「口数の少ない娘、お千代」は、去っていった。




 

 ◇◆◇◆◇◆◇





 翌日、お侍と村人達は、鬼を埋める塚を造った。

おなつとその家族には、村を去っていったお千代の事は他言無用にしてもらい、お侍は村人にこう話したんだと。


「夜、胸騒ぎがしたお千代がおなつの家の様子を見に行くと、おなつが鬼に襲われそうになっていた。お千代はおなつを庇って、鬼に喰われてしまった。」


 まぁこの話なら、村から居なくなったお千代の説明もつく。


 村人達は、身内の居ないお千代のために、お千代の墓を造った。お千代の家に残っていた着物をお千代の代わりにして、墓に入れてやった。

 おなつは足繁(あししげ)くお千代の墓に通った。

友を失い墓に通うその姿は、村人達の同情を誘うものだったそうな。


 不思議な事に、その後村は二度と、鬼や妖の類いの被害は受けなかった。


「きっと、お千代ちゃんが守ってくれているのね。」


 後におなつは、悲しげな微笑みと共にそう言ったらしい。


 だが、村人達がお千代の事を語ろうにも、何ぶんお千代は口数の少ない娘だったから、おなつ以外、誰もお千代の事を語れなかった。

けれど1つだけ、事件の事で村人全員が言えるのは、「お千代は友達想いの良い娘だった」という事だけだった。







 ……ふぅ。こんなものかね、ばぁばが知っている鬼の話は。

 …え?他言無用の話なのに、なんでばぁばがお千代の真実を知っているのか、って?

 そりゃあ、“他言無用”と言われていない人から聞いたからさ。


 この、人間の少女と鬼の不思議な友情の話は、ばぁばのじぃ様から聞いた話だ。

ほら、鬼の気を感じ取れる仲間がいただろう?あれは若かりし頃の、ばぁばのじぃ様だ。

 じぃ様が見聞きした人と鬼の友情なんて、後にも先にもこれぐらいだけ。珍しい事だったから、じぃ様はよく覚えていたんだと。



 ……ほらほら、昔ばなしはもうお仕舞い。

もしこの話が気に入ったのなら、また話してやろう。人と鬼が育んだ、この不思議な友情の話を。



 

 「おなつとお千代」はいかがでしたでしょうか。


 元々この話は、童話にしようと思って書いていたのですが、書いているうちに流血描写やらが入り、一応R15タグを付ける話になってしまいました。そのため童話として投稿するのは憚られ、ローファンタジーとしての投稿に至った話です。

 小説が昔話の語り口調だったのは、そんな理由があるためでした。


 誤字・脱字や表現の誤り等がありましたら、ご指摘くださると嬉しいです。

 まだまだ拙い文章でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。


 2017,1/3 脱字を修正しました。

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