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リリーは散財することに、した

 今日は日の出と共に目が覚めた。昨日は湯浴み後にサーシャに香油で全身マッサージを受けてから、あまりの気持ちよさにことりと落ちるように寝てしまった。夢も見なかったしかなり上質な睡眠が取れたと思う。


 目覚めの時間にはまだまだ早いからベッドから降りて絨毯の上でヨガのポーズをとる。バストアップに効果的なコブラポーズは特に特に念入りに。途中起こしに来たサーシャに見られて恥ずかしかったけど。




「リリー様、申し訳ございません!仕立屋達がどうやら来れなくなったと先ほど使いの者が参りまして…。ど、どういたしましょう。」


 ハムエッグをもぐもぐしてたら、慌てた様子のエリンちゃんがやって来た。あらま、王族のお召しを断る御用達商人ねぇ。


「なんですって!商人風情が王族のお召しを断るなんて、この国で商売辞めたいのかしら!その使いの者を今すぐ連れてきなさい!」


 あたしが怒るより先にサーシャお姉さんが青筋立てて怒ってしまった。美女が切れると迫力あるね。


 すぐさまエリンちゃんが使いの人を連れてきた。やってきたのは20代後半くらいのスタイルいい平凡な女の人。サーシャのキツイ睨みに背を丸めてびくびく怯えている。


「リリアン殿下の御前よ。嘘偽りなく理由を述べなさい。」


「は、はい。リリアン殿下におかれましてはご機嫌麗しく。ご、ご尊顔を拝し恐悦至極にございます。本日、マダム・ピートーは、陛下とアリアンナ殿下の元へと招かれていまして…えっと、その…。」


 この女性はあたしを前にそれ以上言えないようで、口をパクパクさせていた。マダム・ピートーはどうやらアリアンナちゃんを優先するらしい。まあ陛下も一緒じゃそっち優先しても仕方がない。なんだろ。アリアンナちゃんにドレスと宝石でも買ってあげるのかな。いいなー。


「それ以上言わなくても大丈夫だよ。あなたにも言い辛い事を尋ねちゃったね。ところで、あなたの着ているその服はマダム・ピートーのデザイン?」


 さっきから気になってたんだ。紺色のお仕着せみたいな地味ワンピースなんだけど、貝の飾りボタンといい裾から動く時だけちらりと見えるレースといい、布製の青い薔薇の髪飾りといい地味にオシャレなんだよね。それに高めの位置からウェストを絞っててすごくスタイルよく見える。


「えっと、い、いえ、こちらは私が…。あの何か?」


「素敵だなと思って。あなたはマダム・ピートーのところのお針子さん?お針子歴はどのくらい?」


「は、はい。15年ほどになります。」


「そう。じゃあさ、私が出資するから独立して私の専属にならない?」


「「「はあ?!」」」


 サーシャもエリンちゃんも女の人も揃って驚きの声を上げた。ふふふ。


 あたしが出資すると言っても今までお金を持ったこともないし、払ったこともない。何にいくら必要だとかもわかんない。だって王女だもの。てなわけで、あたしの手には負えないのでエリンちゃんに女の人ーーシアさんを連れてあたしの専属女官のマーサの元に行ってもらった。


 専属女官とは女性王族につく文官だ。前世で言えば秘書みたいなもの。サーシャたち侍女はあたしの身の回りの世話が仕事だから、家政婦さんみたいなもの。ヒッキーのあたしの専属女官は基本暇してるはずだから、突然訪ねても大丈夫だろう。そこで事業計画とか話し合って決まるといいなぁ。


 きっと時間がかかるだろうからあたしとサーシャは図書館へ行くことにした。こっちの世界の恋愛観を学ぶため何冊かベッタベタの王道恋愛小説借りたいんだよね。リリーの記憶には恋愛のれの字もないし。


 図書館は正殿の二階にある。あたしの私室は西翼二階の端だからちょっと遠い。扉の前に控えてた護衛騎士を横目でチラリと確認してから、歩き始めた。


 2人のうち1人は昨日と同じキツ目騎士だった。もう1人は平凡な顔立ちの騎士。こっちは食指が動かないな。キツ目騎士、なんて名前だったっけ。前にチャラ騎士と一緒に挨拶を受けた記憶はあるんだけど、忘れちゃったみたい。あとでサーシャに確認しとこう。


 西翼から正殿に繋がる回廊を過ぎれば、巨大な水晶で作られたシャンデリアに出迎えられた。雫型にカットされた水晶が陽の光を反射してキラキラ綺麗。赤い絨毯が敷き詰められた大階段を降りればそこは吹抜けの宮殿のメイン広間、暁の間だ。舞踏会だけでなく、戴冠式など王族の式典もここで行うため千人は楽に収容できそうなほど広い。


「リリー様の婚約披露もここで行われるのですよ。楽しみでございますね。」


 婚約披露まであと一ヶ月。衣装と装身具は既に母の手で決められていた。そのうち仮縫いに呼び出されるかな。あたし自分で選びたかったなぁ。


 図書館は思ったより地味だった。サーシャ曰く、ここは宮殿勤めの文官たちや魔術師たちくらいしか使わないらしくて、実用性重視なのだとか。王都にある王立図書館は超広くて楽しいらしい。読書は好きじゃないから行く予定はない。


 隅の方に女性が好みそうな恋愛小説の一角がひっそりあって、サーシャお薦めの本を3冊借りた。お姫様と騎士の物語とお姫様と王子様の物語、お姫様と下級貴族の身分差物語だ。全部お姫様がヒロインのやつ。だってあたし、お姫様だもの。


 1番に読むのは勿論決まってる。お姫様と騎士の物語だ。実際にイケメン騎士が側にいるしね。ふふふ。今日もエリンちゃんに髪を巻いてもらってサイドにまとめて結ってもらった。でも露わになったうなじに感じたのは冷たーい視線だった。残念。


 エリンちゃんとシアさんが戻ってきたのは夕食前だった。シアさんがあたしに似合ういつくかのデザイン画を後日確認してから本契約する運びになった。それに御用達の宝石屋とは別にシアさんお薦めのお店を紹介して貰うことにした。楽しみだー。


 エリンちゃん曰く、マーサはあたしの案に眉を顰めたらしい。散財に些か思うところがあるようだ。エリンちゃんはアリアンナ殿下に比べたら些細なものです!ってぷりぷり怒ってた。可愛い。


 明日の護衛はチャラ騎士がいたらいいな。今日もサーシャの香油マッサージを受けてからヨガでリラックスして眠りについた。

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