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リリーは浮気を非とは認め、ない

 興味本意で、巷に流行中の吟遊詩人の唄うちょっと脚色された皇子様とアリアンナちゃんの恋物語を聞いたことがある。拙いながら唄ってくれたのは城の下級使用人で、あたしの反応にビクビクしながらも唄ってくれた。


 それを聞いてあたしが思ったのは、なんかデジャブだなぁってこと。


 前世の少女漫画とか乙女小説まんまの内容だなって思った。これから本命当て馬が現れてアリアンナちゃん攫っちゃってさー、皇子様が取り戻しに行くんだよね。それで途中で発覚するアリアンナちゃんの出生の秘密ー…!


 そうアリアンナちゃんの出生の秘密だ。あたしの勘がピコーンってした。アリアンナちゃんって本当に平民との娘なの?って。


 少女漫画ならご都合主義よろしく実はどっかの国の高貴な血を引いてるパターンとか、乙女小説ならこれまたご都合主義よろしく神に選ばれた聖なる乙女だったーとか。これ、あたしの偏見ね。


 最終的な謎が明かされて二人の障害は取り除かれて皇子様とお姫様はラブラブめでたしめでたしで終わりそうな物語だ。


 あたしの妄想だし考えすぎかなって思ったんだけど、なんか気になるんだよね。だから念のため。


 だって、もし妄想通りになっちゃったらあたし悲惨じゃない?二人は祝福されてさ、あたしは正式な婚約披露後に捨てられる惨めな女になっちゃうじゃん。その後の結婚相手のレベルもだだ下がりそうじゃん。


 まあそこまでならいいよ。どうせ政略結婚する身なんだから、受け入れる予定だし。けどさ、恋のお邪魔虫ポジションだよ?もし強引に排除されるなんてことになったら。非のないあたしと婚約破棄するために手段を選ばなかったら。あたしは皇子様ならやりかねないって思ってる。あ、あたし浮気してたや。これって非になるかな。ふふふ。


 だから、確かめときたいの。受洗礼者名簿って要は教会管理の戸籍のようなものだ。この世界の人たちはほとんどアルバニア教の信徒で、みんな産まれてすぐに教会で洗礼を受ける。教会にはどこの誰のどんな赤ちゃんがいつ洗礼を受けたかって記録が残るんだ。


 赤ん坊の死亡率が高い世界だし、洗礼後に死んじゃう子も結構いるから国はこれとは別に徴税用の戸籍制度がある。こっちには15才から記載されることになってる。


 教会管理の名簿だから、国王でもどうにか出来るもんじゃない。ここにオリヴィエの名前があったら、あたしの考えすぎだってことで気にしないことにする。


 もし、なかったら。うーん、皇子様の思考が読めなさすぎてどうしようかな。危なくなったら逃げちゃおう、かな。


 さて、お爺ちゃんにはどう言おう。こんなこと言ったら頭のおかしい王女だって思われちゃうよね。


「あたしの現状は知ってる?婚約者のガルディクス皇子はあたしを蔑ろにアリアンナを優先してるの。この時期にだよ?おかしいと思わない?それが許される理由があるのか知りたいの。」


「あなた様はそこに何か裏があるとお考えなのか。…仮にもし裏があったとしてどうされるおつもりで?帝国の皇太子相手に戦うおつもりかな?」


「戦うなんて、そんなことあたしに出来るわけないじゃない。誑かすなら出来るかもだけど。」


「面白いことを言う王女に協力したいのは山々じゃが、残念ですな。受洗礼者名簿は国教会の厳重な管理下にある。一介の司祭の儂にどうにか出来る代物じゃあない。」


「またまたぁ。お城の侍女たちが教えてくれたよ?現首座総司教はここの運営してる孤児院出身だって。伝手、あるでしょ?元首座総司教さん。」


 侍女さんたちとのおしゃべりは本当に有意義だ。現首座総司教が若くてとってもイケメンで、ここの孤児院出身だってことを教えてくれた。女はこうやっておしゃべりでターゲットの情報を得てくんだよ。


「本当に、噂とは当てにならないもんですなぁ。」


 お爺ちゃんは満足そうにうんうん頷いて嬉しそうに言う。あたし、王城以外の自分の噂って直接聞いたことない。耳に入ってこない噂ってことは悪い噂ってことだよね。あれ?まだお爺ちゃんの口からオーケーもらってないよ?


「お爺ちゃん、お願い。あたし、このまま流される運命なんて嫌だ。何がなんでも幸せになりたい。」


 お年を召した方にお目目うるうる上目遣いは通用しないのは経験でわかってる。だから姿勢を正して真っ直ぐ目を見ておねだりした。


「それはあなた様が直接首座総司教に頼むがよいだろう。」


 へ?


 それって侍女さんたちが騒いでた女性よりも美しいって評判のイケメン紹介してくれるってこと?本当に?わあ、棚からぼた餅!


「お爺ちゃん、大好き!ありがとう!あたしのこと、これからリリーって呼んでね。」


 思わず抱きついちゃったら、それはあやつにやってやれって頭ぽんぽんされちゃった。あやつって美形首座総司教さんのことだよね?やっていいならやるよ、もちろん。


 首座総司教さんは忙しい人らしいから、お爺ちゃんから彼にあたしを訪ねるように口利きしてくれることになった。明日から毎日の服装の気が抜けないな。


「さて、それではリリー様は城に戻られるのですかな?」


「ううん、今日はこれからあたしの騎士君にエスコートされて街歩きするの。時計塔に正午待ち合わせなんだ。」


 これまた破天荒な王女様でって笑われた。時計塔は王都の中心部にあって、ここから遠い。王都内を巡回する乗合馬車に乗ってく予定だ。


 お爺ちゃんの部屋でゆっくりお茶飲んで眠かったし朝寝させてもらった。暁3つ目の鐘が鳴ってから起きて、準備してお暇した。


 教会近くの停留所でしばらく待ってれば、二頭立ての馬車がやってきた。サーシャに用意してもらった10ギルコインで支払ってから乗り込んだ。


 屋根がついただけの簡単な馬車から街並みを眺める。埃ぽかった道から、石畳の大通りに入ると途端に人が多くなった。赤茶屋根の石造りの二階建てや三階建ての建物が連なって、青い空によく映えている。道を挟んだ建物と建物の間に渡したロープには洗濯物がはためいていた。


 停留所に止まるたびに乗員が増えてって、あたしと同じく時計塔付近でごっそり降りた。王都の時計塔は有名な待ち合わせスポットだ。

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