伯爵令嬢に転生したみたいだから、男どもを手玉に取る事にしました
息抜きを兼ねて思いつくまま書いてみました。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
あだ名はキモオタニート。
まぁ、ぶっちゃけるとキモオタまでは認めよう。実際サブカルチャー大好きだし、容姿も整っている訳ではなかった。性格も自分の欲望に忠実なわがままな性格だっし、当然恋人なんて出来た事もない。でも、ニートではなかった。正確に言えばフリーターだ!
ただ、三十も四十も超えてフリーターやっているなんて、周囲からするとニートと大差ないって扱いだった。
口では好きな事に生きているし後悔ないだなんて言っていたけれど、実際は定職に就きたかったし家庭だって持ちたかった。
仕方ないじゃないか、俺は悪くないが口癖のようになってしまい。両親の残してくれた家があるからこそ生きていけているような状態だった。
そんな中バイクで単独事故を起こし足の骨を折ってしまった。
立ち仕事だったせいでバイトは首になり、収入はなくなった。入院費も払えず税金も滞納し、家を売らざるを得なくなり住む場所も失った。それでも頑張れる奴なら再起出来たのかも知れないけど、自堕落だった俺はホームレス連中とも上手くいかず食べる事もろくにできず、そんな中たぶん栄養失調あたりで死んだんだと思う。
「本当に無様で吐き気がする人生ですわ」
久しぶりに私の中にある記憶を思い返してみたのですが、あまりの酷さにそう呟いてしまいました。
物心ついた頃からある日本と言う国に住んでいた男の記憶なのですが、これが前世の記憶と言うものなのでしょう。
非常に便利ではありますが、不快な記憶です。こんな記憶なければ、私ももっと可愛げのある女だったのかもしれません。
「お嬢様、ご準備のお手伝いに参りました」
「入っていいですわ」
部屋の外から声をかけてきたメイドにそう返します。
今の私は伯爵家令嬢などやっておりますからね、寧ろ幼い頃は持っていた記憶のせいでどれだけ苦労したことか。
懐かしい記憶を思い出して少々不機嫌になってしまいましたので、深呼吸をして気を落ち着かせます。
全ては過去の話です、今となってはどうでもいいではありませんか。
メイド達に手伝ってもらい、今日の王宮で行われる舞踏会に出席する為に着飾りました。
「お嬢様、今日もとても美しいですわ」
「あら、正直に今日も下品に男受けする格好ですねって言っていいですのよ」
好かれたいと思った事などありませんから、ゴマをすってきたメイドをばっさりと切り捨てます。
私の言葉に顔を真っ青にしますが、正直どうでもいいですね。
そんな事よりもっと大事な自分の姿を鏡で確認していきます。
白で清楚な感じを演出し、だけど前世の記憶を生かしてこの世界になかったミニスカートで男受けもばっちりなドレス。皆下品だと口々におっしゃいはしますが、ぶっちゃけ男性からはちやほやされています。その代り女性からは毛嫌いされていますけど、この世界においては些細な問題です。
「うん、今日もばっちりですわ」
ありがたい事に容姿もそれなりに整っている上スタイルもいいですから、似合っていると思います。
本当にこういう面で前世の記憶がある事には感謝ですね。
立ち振る舞いだって非常に参考になっていますし、見抜かれてしまう事はありますがそんな男性はごく少数で問題ありません。
あちらから近づくことはありませんし、こちらも近づきませんからね。
「さぁ、王宮に参りましょう」
今日も作られた自分の出来栄えに満足したので、うろたえているメイド達にそう言いました。
「ああ、今日もお美しいねヒルダ嬢」
そう言って、ブクブクに太った油ギッシュな汚い貴族が私の手の甲に口づけをします。
生理的に受け付けませんが、それを気合で押さえつけて笑顔を浮かべます。
「まぁ、ダーウィン様にそう言っていただけるとは光栄ですわ」
この公爵様は良い噂など一切聞きません。
だからこそ油断は禁物です。
今日も何とかして私を抱きたいって気持ちが前面に出てしまっていますし、こんな気持ち悪い人に初めてを捧げるなんて考えたくもありませんからね。
「おや、ダーウィン卿にヒルダ嬢ではありませんか」
どうやって躱すか考えていたら、横から見た目はダンディーなむっつりスケベのミラルダ伯爵から声を掛けられました。
むっつりスケベとは私が勝手に決めつけているのですが、その目を見ればなんとなく分かると言うものです。
牽制するようにダーウィンを睨み付けた後、私の胸や足ばかり見ていますからね。
それでいて私には気付かれていないと思っていそうなのが、本当に滑稽ですわ。
「これはこれはミラルダ卿、ご機嫌いかがかな」
私は気分を害しましたと言わんばかりのダーウィンですが、ミラルダのお陰で出来た折角の隙を見逃す私ではありません。
「それでは私は失礼致しますね。殿方同士の大切なお話を邪魔したくありませんもの。それに、まだ陛下や殿下の皆様にご挨拶も済んでおりませんし。宜しかったらその後にでも私と話していただけると光栄ですわ」
心にもない言葉を吐けば、にやぁっと嬉しそうな表情を浮かべる二人。
気持ち悪い。
心の中でそう吐き捨てますが、笑顔は忘れません。
毎日鏡の前で男受けする笑顔を作る練習をしておりますからね、この程度で崩れたりはしませんわ。
私が離れる事で多少残念そうにはしていましたが、後で話すと言う約束を取り付けられた二人はあっさりと解放してくれます。
ふぅ、男受けするのは色々便利ですし利益は多いのですけど、こういった面は面倒ですわね。
幸い両陛下がまだ人ごみに埋まっていますから、いったん壁の花になって休憩する事にしました。
これ以上約束を取り付ける人が増えぬようダーウィンとミラルダが頑張るでしょうから、ある程度は大丈夫でしょう。
限界はあるでしょうから、頃合いを見たらあの人ごみに突撃せねばなりませんけど。
「はぁ、疲れるわ」
分かっていてやっていても、ううん、分かりきって演技をしている疲労感からそう口の中で呟きます。
勿論周りの目がありますから表情などは依然として気を付けていますけど、こうしてちょっと呟けるだけでもだいぶ気は休まりますからね。
さて、周囲を見てみましょうか。
ああ、いつものように男性陣からはいやらしい目で見つめられ、女性陣からは嫌悪の視線を向けられています。
正直疲れますし、これで利益がなければ今すぐ演技をやめたいものです。
「まっ、男どもに好かれているお陰でわがまま放題させてもらっていますし、この程度我慢ですね」
そう呟いたところで、一人の美しい女性が私の方へとつかつかと歩み寄ってきます。
大方恋人を奪われたとか、婚約者が私に惚れたとか。その類でしょう。
もしくは、はしたない恰好を大勢の目の前で糾弾し恥をかかせたいかでしょうか。
どちらにせよ大多数の男性を味方につけている私が返り討ちにしてきていますのに、懲りないというかなんというか。せめて人気のないところにおびき出してからやれば良いでしょうに。
絶対そんな場所に一人で行く事はあり得ませんけど。
「初めまして、ヒルデウィーダ様」
久方ぶりに呼ばれた本名。まぁヒルダは私の愛称ですから、面識もない以上本名で呼ぶしかないのですけど新鮮ですわね。
とは言え、口調からして不機嫌さが伝わってきますし、とても可愛らしい女性ですけど見た目に反して気が強そうです。
まぁ、公の場でこんな真似が出来てしまう時点で気が強い脳内お花畑のおバカさんなんですけどね。
「初めまして。えっと、どちら様でしょうか?」
にっこりと男受けする笑みを浮かべ、嫌み全開で言います。
実際男性貴族の名前や情報は全て記憶しておりますが、女性貴族なんてごく一部以外名前すら知らないのは事実ですからね。
案の定怒りの表情を浮かべて来ますけど、私にとってはどうでもいい話です。
こちらの感覚からすると、近寄ってきた羽虫を叩き落す程度のものですから。
「伯爵家令嬢でありながら、私を知らないと?」
「大変申し訳ございません。勉強不足でした」
怒りの隠せていない口調に、しおらしく頭を下げます。
さて、これでもう貴方は詰みですけど、どう出ますか?
表情にはつゆにも出さず、頭の中でそう考えます。
そして、彼女は私を遥かに超える反応を見せて下さいました。
「本当にゲームの時のようにいやらしい女。殿下は私が解放して差し上げますわ」
完全に頭がおかしいとしか思えない言葉でしたけど、驚いて表情を見れば本気で言っているようです。
ゲームの時とか意味不明すぎて理解できませんが、殿下を開放するだなんて声を上げて笑ってしまいそうです。
実際はその本音を堪えて涙を零したのですけど。
全く女の涙とは便利なものです、いつでも涙が流せる訓練をした甲斐がありますね。
「なっ、突然どうしたんですか?」
狼狽えるおバカさんに、私は周りの同情を引くように口にします。
「私と殿下はすでに婚約解消しています。私では相応しくないと思っていたのでいいのですが、開放するだなんてまるで私が殿下に対して酷い事をしていたようにおっしゃるだなんて。私悲しいです」
これ見よがしに泣くよりも、必死に涙を止めようとする演技をした方が受けがいいです。
なので、言いながらその演技をします。
これには普段私を嫌っている女性陣も同情しているおバカさんがいらっしゃるみたいですね。
まぁ、一部の男性陣と同様に半数ほどの女性陣も演技を見抜いて眉をひそめていらっしゃいますけど。
良かったですねー、ぱーちくりんな事をほざいたのに私の演技を見抜いている人達からは慰めてもらえますよ。
心の中で嘲笑していると、よせば良いのに彼女は私を怒鳴りました。
「私は知っていますからね! そんな演技は止めて下さい」
「ひっ」
これ幸いに怖がる演技をする私。
まぁ、平手などをされれば痛いですからそれに対して構えているだけですけど。
いくら受けが良くても誰が進んで痛い目に合うというのでしょうか。相応の利益が見込めながら私でも嫌ですよ。
と、予想通り私と彼女の間に一人の男性が……て、貴方なのは予想外です。
「やめないか。それ以上は君のご両親のメンツがなくなるぞ」
私の演技を見抜いた一人でもあり元婚約者、そしてどうも目の前の彼女が恋慕する殿下のご登場です。
てっきりいつものように知らんぷりを決め込むと思ったのに。
というか、契約違反では? 人前で猫を被っている貴方を見逃す代わりに私も見逃す。一緒に婚約関係を潰しだ同士でもあると言うのに、変な誤解を作りそうな真似は止めて下さい。
そうやって内心で全力で罵倒するものの、感激の表情を反射で作りました。
「そんな、殿下酷い」
殿下の言葉に傷ついた表情で言った後、うつむく美少女。
まぁ、絵になりますけど経過から見ていると凄く滑稽ですね。
しかし、その言葉を言えるという事は殿下とすでに面識でもあるのでしょうね。
いえ、なんか様子がおかしいのでもう少し見守りましょう。
「……私の記憶が正しければ君とは初対面のはずだが」
不機嫌そうな殿下の口調に二重に驚いてしまいます。
貴族の令嬢が見目美しく王太子である殿下に憧れたり、色んな意味で邪な感情を持つのは分かるとして。
えっ? 会った事もなくて私に対して解放しろだなんて言っていたのですか? そりゃ殿下は面識のある私の肩を持ちますよ。
しかも、年頃の令嬢で殿下と一度も面識がないという事は、爵位は子爵以下。貴方格上である伯爵家の令嬢に噛みついたのですか? 今頃ご両親は真っ青な顔で私の両親に頭を下げていると思いますよ。
まぁ、良くも悪くも自分達以外に興味ない私の両親はそもそも気にしていないと思いますけど、こんなバカな娘を育てたって知れ渡ってしまうだけで社交界でどれだけダメージを負ってしまうかも分からないのですか?
私の予想を遥かに超える脳内お花畑と確定したおバカさんは、唖然としてしまった私に対してなおも爆笑のセリフを続けてくださいます。
いや、私にではなくて殿下にですけど。
「だって、私と貴方はいずれ必ず結ばれるのですよ! それなのに酷い」
さて、これで彼女の社交界での死が確定しました。
できうる事ならお腹を抱え指をさして爆笑してやりたいです。
しかし、まさかこの私が演技が出来なくなるほどぶっ飛んだ言動が取れるとは、貴方天才ですね。
バレない様に顔を下げ両手で隠していますけど、体が震えるのが止められないではありませんか。
顔を覆っていたため何が起こったかこの目で確かめる事は出来ませんでしたが、どうやらあの後衛兵が彼女をどこかに連れて行ったようです。
散々色々喚いていましたが、どこまでも笑わせてくださる人でしたね。
殿下は私には何も言わずにどこかに行ってしまいましたけど、この辺りは流石同志だと思います。
まぁ、彼女は極刑とまではいかないでしょうけど、以後王都への出入り禁止程度の罰は与えられたでしょうか。
普通に両親の爵位返上まで考えられますし、何にせよご愁傷さまでしたね。
出来ればまたお会いして笑わせていただきたかったのですが、それは諦めざるをえないでしょうか。
「いやぁ、今日は彼女に感謝せねばなりませんね。おかげで肩の凝る舞踏会がお開きになりましたもの」
仮面を被る必要のない自室にて笑いながらそう呟きます。
今日は本当に面白い一日でした。
また明日からいつものように男受けする言動をとり、甘い蜜を吸って生きていくつもりですけど。こういうイベントならストレスも吹き飛びますし、是非また起こって欲しいものです。




