今後の方針
僕を連れていってほしい。
「良いのか?二度と戻れなくなるぞ」
それでも良い。
こんな嘘だらけの場所で生きるより遥かにマシだ。
「本当に人間(家畜)扱いだぞ?」
そんなの今は、の話だろ?
僕が変えて見せるさ。
だから連れていってくれ。
「そうか、ならばその気構えに敬意を表して、皆が眉をひそめようともこのロイだけはお前を歓迎しよう。
ようこそ魔王軍へ」
ありがとう。
なら早速行こう。
「別れは良いのか?友とか親は」
良いさ。
おじさんには自由になってほしいし、メルトにも言わないでおくよ。
言えることじゃないしね。
「では、行くぞ」
あ、ちょっと待って。
今までにお別れしたいんだ。
スゥ〜〜〜。行ってきまーす!!
テセト、襲撃の日にての決断。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チュンチュンと鳥の鳴く声が空に消える。
ああ、早く起きないと……。
農民の朝は早い。
仕事が山積みまである上に日が沈む8時頃までしか活動できない。
そんないつもの習慣に引っ張られうっすらと目を開ける。
そこにあったのはもじゃ〜んとした何か。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
驚きのあまり声なき声を上げるがそれによってもじゃ〜んとした何か、いや髭が動きゲルギスの顔が見える。
いや、顔と言っても目深にフードを被っているから髭位しか見えないが。
「起きたか……。随分とうなされていたが……」
ゲルギスがバナーの目許を指差すとバナーは先程まで泣いていた事実に気付き慌てて目許を拭い涙を拭き取る。
その際少しヒリヒリしたが、涙を抑えるには丁度良かった。
「見ててくれたんですか?」
そうだったらお礼を言わないと……とバナーは思ったがゲルギスは肩をすくめただけだ。
「昨日の話だが……」
ゲルギスからそう切り出されて段々と昨日あったことを思い出していく。
魔物に襲われたり幽霊に会えたり波乱万丈の一日だ。
そこまで思い描いたことを今は必要ないと一旦置いておいて今のことだけに集中する。
「お願いします!他にいくところがないんです……」
テセトと一緒にテセトのおじさんに習った言葉遣いがこんなに直ぐ使うことになるとは思わなかっただろう。
バナーはもっと習っておけば良かったかな、と少し後悔する。
「分かった。知り合いに孤児院をやってる奴がいる。今は旅に適していない。もうすぐ冬が来る。雪が溶けたら出発するとしよう」
確認を取らなくて良いのか、という話ではあるが落胆していたバナーはそれどころの話では無かった。
「ダメ……なんだ。お金がなくって……」
5歳(もうすぐ六歳だが)の経験の無さか直ぐにメッキが剥がれるがゲルギスは特に気にした様子もなく続ける。
「それは問題ない。何とかしよう」
この発言でバナーにはこの髭もじゃが神のように見えた。
いや、何かしてくれる分神よりも凄いのかも知れない。
バナーは本気でそう思った。
「ほんと!?」
「ただし、雪が溶けるまでは私の元で手伝いをしなさい」
この程度のことなど問題ない。
むしろかなりの好条件だ。
バナーは二つ返事で頷く。
「うん!」
こうしてバナーは幽霊と聖職者の元二重生活をすることになった……。