そして物語は動き出す2
今日から盗賊団【黎明】の立ち上げだ!!
これからは周りが皆敵だらけになる!
しっかり力を付けてかなきゃならねぇ。
力だけじゃなく、権力としてもな!
が、まぁ、難しい話は明日に回して、今日は思いっきり飲むぞぉー!!
後のあるS級パーティ、1代目団長。立ち上げ演説。
――――バナー 視点――――――――
グショグショになるまで泣いた。
まだ涙は出るけれど、こんな所で泣いてちゃダメだ。
もう一人なんだから、しっかりしないと。
バナーは気品があった。
子供として、という事ではあるが彼は明らかに周りの子供達とは違いカリスマのような物を持っていた。 自分に対する自信、前に進むという意志。
腕っぷしも強かった。
メルトやテセトにも一度だって負けた事は無かったし、大人に一目置かれる程だった。
しかし、今回はその資質は裏目に出てしまった。
彼はその才覚に何の疑問もさし挟まず、その才覚を無条件で信じていた。
故にこう思ってしまったのだ。
一人で生きていける、と。
そしてそのとんでもない思い違いを彼は直ぐに後悔する事になる。
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メイナム村から少し行った所にある林。
木こりの生活源であるその林は、その木こりでさえ奥へ入る事はしない。
手前にある年齢の浅い木を素早く切って、それを担いでそそくさと逃げ帰る。
木こりは知っているのだ。
ここに魔物が棲んでいる事を。
始めて歩く林の中、昼をかなり回り、もうすぐ夕方になろうかといった時間。
木漏れ日と言うには少し弱い光を頼りに前に進む。
バナーが求めていたのは肉だった。
大型では無くて小型、それこそ狐や兎等といった小動物の類い。
見付からなければ罠を仕掛けて帰ればいい。
仕掛け方は昔メルトの父親に習った事があった。
そしてこの時点で失念している。
六歳にもならない子供が林を歩くなど、それこそ他から見れば兎以外の何者でもない事を。
ガサガサ。
「きゃ!」
気付いた時には遅かった。
既に気配を殺して迫って来ていただろう肉食動物が草むらから躍りかかってきた。
何とか驚いた拍子に木の根転んだお陰で鋭い牙と爪から逃れる事が出来た。
転んだ拍子に石で手を土で膝を擦りむいてしまって泣きそうだったけれど、直ぐにそんな事は忘れてしまった。
目は、耳は、鼻は全て目の前の生き物に向けられる。
「グルルルル……」
そこに居たのは虎に似た魔物。
「ダストタイガー」と呼ばれる中堅の魔物だ。
ステータス上は厄介な部分は無いものの、地方の冒険者では一人で相手をするのは厳しいだろう。
バナーは多角的な判断無しに己の本能のみで危険な存在だと理解した。
そしてその本能が示す答えはたった一つ。
「うわああああ!!」
逃走。
バナーは木の根に躓くのも枝振りで引っ掻かれるのも気にせず村へ向かって全力で走った。
しかし、その行為は魔物に取って完全な逆効果だった。
「グオォ!!」
走りながら息が漏れるに従って飛び出す泣き声が獣から放たれ、その差は一気に縮まる。
魔物が飛び掛からんばかりに体を縮める予備動作をし、遂に一メートル近い体が宙に浮いた瞬間。
ドゴン!!
突然ダストタイガーが横方向に吹き飛ばされ木に激突する。
バナーが目の前の有り得ない状況に気をとられているとその魔物の反対側から声が響いてきた。
「いえぇーい!!うぃーあーちゃんぴょん!!フー!!
ハッハー!!危ない所だったな!!少年!!しーゆーあげいん!」
やけに陽気な声の方を向けばバナーの目に半透明の人物が見える。
「おじさん……誰?」
当然の疑問を口にするとその青年は目を点にする。
「えっと……見えるの?えっ、マジで?」
それがバナーの一番最初の運命の邂逅だった。