日常
彼を一言で表すのなら英雄という言葉が最も相応しい。
国主として。
戦士として。
皆を惹き付ける資質は誰よりも高いと言わざるを得ないだろう。
レーベン『英雄はなぜ人間から魔王と呼ばれているのか』序文より。
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夏の爽やかな風そよぐ草原で五人の男女が集まっている。
門が見える程度の外であり、魔物等の危険は村内とほぼ同意義の安全と言って良い場所である。
彼らの年の頃は5、6歳といった頃だろうか。 それぞれメルト、ハッシュ、リタ、バナー、テセトである。
良く一緒に遊ぶ悪ガキ達であり、この草が気持ちいい原は彼らの秘密基地である。
そしてその日の彼らはどうしてそうなったのかは定かではないが、彼らの希望の象徴である将来の展望を話し合っていた。
「俺は強ぇ冒険者になる!そんでもって、もっともっと強くなってやる!」
メルトの要領を得ない夢であるが、その夢の基盤となっているのはメイナム村に来る冒険者が死にやすく態度がでかい事に起因しているのだろう。
期待だけさせておいてあっさり死んでいった冒険者を心の底で蔑んでいたのだ。
弱くズルい冒険者ではなく強く誇り高い冒険者になりたいという事なんだろう。
「ププッ」
それを聞いて少年テセトはかわいらしく2つの握りこぶしを口元にあて、全身で笑っている事をアピールする。
「何笑ってんだテメェ!」
5、6歳の少年だとは信じ難いほどに口が悪いメルト。
恐らく……というか確実に父親の影響だろう。
彼の父親は子供に悪影響を与える典型的な反省してほしい父親である。
「だってメルト君いっつもおんなじこと言ってるんだもん!」
自分やバナーに一度も勝てていない事に起因して少し子供ながらに偉ぶって話すテセト。
勝ち気な、くりっとした目を向けて可愛らしく笑うテセトにメルトは口汚く反論する。
「ああ?んなもんみんな同じだろうが!なぁ?テメェらはどうするんだ?」
皆同じだろうが何だろうが一番言ってるのはメルトなのだが、子供理論で正論は粉砕される。
「おれはお父さんの店をつぎたいな」
ハッシュの父は料理屋を営んでいる。
と言っても村の小さな食堂であり経営は厳しい。
母が貯めていた金を切り崩してなんとかもっているような店だ。
つぎたいと言っても店が無くなってしまう可能性すらある。
「わたしはぁ……ヒミツ……かな?」
メルトをチラッと見て俯き頬を紅く染めるリタの夢はお嫁さんだ。
女の子とはませるのが早いものである。
「バナーは何なんだよ?」
メルトはリタの夢については特に興味ないようで隣が指定席のリタに叩かれている。
それでも気にしない所を見ると聞いた事がないバナーの夢に余程興味があるようだ。
「僕は……みーんなを守りたい……守って……仲良しにして……くるしい人をなくしてにっこりさせたい……かな。きずついてほしくない人ばっかりなんだ……」
彼の家庭環境も相まってこんな答えが出たのだろう。この年にしては珍しく素晴らしい社会奉仕の精神を持つ答えではあるがメルトを満足させる事は出来なかったらしい。
「ふーんへんなの」で済まして興味を失い今だ答えていないテセトへと興味が移る。
「じゃあテセトはどうなんだ?」
「ボクも……バナー君と同じかな?強くなって……みんなが笑えてイヤなことがなんにも起きないところを見付けたい!」
バナーと同じように聞こえて、その実全く性質の異なる事を言いながら子供ながらの独特の感性で同じ事だと言い放つ。
バナーはこの時こうして皆と何気ない日々を続けられると信じていた。
だが彼の嵐は直ぐそこまで近付いていたのである。