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何年か振りに玄関のドアノブに手を掛けた、
躊躇は当然ながらした。恐怖もある。二度とこのぬるま湯の様に過ごしやすい家にはもう帰って来ない。そう思うと、多少ながら後ろ髪を引かれた。しかし、ぬるま湯ってのは冷めるのも早い。ぬるま湯も持続させるためには、それ相応のエネルギーが必要だ。それに、少しの頑張りと勇気で永遠のぬるま湯が手に入るんだ!そう自分に言い聞かせながら勢いに任せてドアを開けた。
久しぶりに外に出た感想。
目が痛い。
太陽の光ってこんなに目に痛かったんだ。もはや刺激物だよ。この痛さは。あと、思ったほどの感動やドキドキ、ソワソワは無い。
こんなもんなんだな。
しまった!
これで、ステータスから引きこもりの文字が消える。
しょうがないか。気を取り直して首都まで行こうかね。とりあえず、リーマン時代の記憶を頼りに最寄り駅に向かおう。
駅付近までの道のりは特に問題は無かった。付近、までは。駅に近づくと通行人の数が増えて来た。人の数が増えるのと反比例してテンション、モチベーション、HPがだだ下がりして行く。毒の沼を歩いてる気分だ。
誰もオレと目を合わさないが、オレを心の中で笑ってる気がしてならない。いや、笑ってるはずだ。
どうして笑うんだ?オマエらは。オマエらと何も変わらないだろ?目は二つ。鼻一つに穴二つ。胴体には腕足が二本ずつ。髪の毛も一応頭に生えてんだよ。何がおかしいんだ?もしかして、オレがニートて元引きこもりで魔法使いって知ってるのか?ああ、そうだよ!働いて無いよ!さっきまで引きこもってたよ!30歳にして童貞だよ!それでテメェらに迷惑かけたか!
へぇーニートって歩くんだ。
引きこもりが街を歩いてる。何で?
イヤァ!童貞がこっち見てる!キモーい!
オマエらの心の中こんなんだろ!何ならここで計画を実行してやろうか?
いかんいかん。
ここは冷静に冷静に。冷静に冷静に。
やっぱり計画は首都でやらないと。こんな地方都市じゃダメだ。“神”になるための犠牲者は多ければ多いほど良い。中途半端な人数だと死刑にしてくれない可能性もある。ひたすら、笑ってるかも知れない、と言う気持ちを抑えて駅に向かった。針のムシロってやつだな。死刑台に向かう死刑囚ってこんな感じだろうか。予行演習って事にしておこう。
調べた結果、高速バスが一番早く首都に着きそうだ。それに安い。
高速バスに乗り込み、軽く緊張感に包まれながら座席に着き頭の中で計画のシミュレーションを繰り返した。首都は狭い様で広い。どこで実行しよう。まずは場所を決めないと。首都には行った事が無い。行きたいと思った事も無い。いや、行きたい所があった。電気街の方に行って見よう。てか行って見たい、電気街はアニメ、ゲームの聖域でもある。こっちの世界で過ごす最後の土地に相応しいんじゃないか。
電気街にはかなりの確率でダメ人間がワンサカ居ると思うんだ。ダメ人間なら殺っちゃっても良いよね。世のため人のためだね。死んだら親御さんも喜ぶよね。
オレは人を殺す事で、自分のためになる。
オレに殺される事によって、死ぬヤツらの何も無い無意味な人生にピリオドを打ってやる事が出来る。
オレが殺す事によって、残された家族が楽になる。
よってミンナが幸せになる。
まさに“神”の所業。
そう考えると緊張感が抜けていき、睡魔が契約書を脳内に持って来たんでサインした瞬間に寝た。




