13
裁判が終わった後、とある施設に入れられた。
VIP待遇なのか、広く小綺麗な個室を用意されている。
しかし、パソコンやゲームどころか、テレビやマンガも無い。あるのは、読んだ事も無い小説(今後も読む事も無い)と聖書。
どこで間違えた?途中までは完璧だったはずなのに。
何もやる気がしないままボーッとしているとジジィが面会に来た。
「元気か?健康的な生活をしてるせいか、ちょっと太ったな。」
正直、鬱陶しかったけど退屈でしょうがないから相手でもとかんがえてると、一つ思いついた。
「頼みがあるんだけど。」
「何だ?」
「弁護士と精神科医の先生にお礼がしたいんだ。」
「何でまた?」
「ここに居るのは二人のおかげだからだよ。」
「一緒に行ってやる。」
「アンタに甘えっぱなしにはなりたくない。一人で行くから、ここから出られるようにしてくれ。」
ジジィは考えこんでいる。当然だろうな。
やがて、何かを決意したように、
「解った!任せろ!」
無事、外に出る事に成功した。
まずは精神科医の所へ。
精神科医は忙しそうだったんで手早く【お礼】した。
次は弁護士か。
聞きたい事があるから、その後に【お礼】だな。
弁護士事務所に行くと、弁護士は椅子に踏ん反り返っていた。
精神科医の次は弁護士にでもなろうかな。踏ん反り返るのが仕事だろ?多分。
「聞きたい事があるんだ。オレが殺した女性の墓参りしたいんだけど、どこにある?」
「何で墓参りするの?必要ないよ?裁判終わったよ?誰にアピールするの?」
本気で弁護士になりたくなった。
「行きたいんです。場所解りますか?」
「調べれば解るけどさぁ。遺族に連絡するなりすればさぁ。面倒だなぁ。」
「父に料金を出して貰うよう頼んでみます。」
「解りました。その殊勝な心掛けに免じてやりましょう。任せて下さい。請求書はお父様にまわしておきますね。」
その場で弁護士は連絡を付けてくれて、遺族に墓地の場所を聞き出してくれた。お金って凄いな。生まれ変わったらお金になりたい。
弁護士にも【お礼】したあと、オレは墓地に向かった。
墓地に着いて、教えられた墓の前に立った。
オレがこいつを殺したんだってな。高校生だったんだってな、まだ。オレ、何かしてあげられるだろうか。
こいつ、一人で寂しいんじゃないかな。
そうだ!オレが責任持って母親をこいつの所へ連れて行ってやろう。それがオレに出来る事だな。その方が母親も喜ぶだろうし。
母親の所に行かないと。
墓地から立ち去ろうとすると、後ろから人がぶつかってきた。
ありえない程の痛みが背中を襲われている。何だ?何があった?
後ろを振り返ると、目が血走った中年の女性が包丁をオレに突き立てている。さらに深く突き刺そうと、腕に力が入っている。体内に異物が入って来る。力が入らなくなり、倒れ込むと中年の女性がオレの背中を繰り返し刺している。
誰だ、こいつ。
あぁ、傍聴席にいた母親か。
そこで思考が止まった。全身から力が抜け、孤独感と眠気が異様に強くなって来た。
オレ、死ぬのか?
「アンタ言ったわよね!精神がおかしいから人を殺す、って。そうよ!私は娘を殺されておかしくなったのよ!だからアンタを殺すわ!」
と言いながら、オレの背中を繰り返し繰り返し刺しながら母親の目から涙を流している姿が、オレの見た最後の映像だ。そして、最後に聞いた言葉は。
『ようこそ。』