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裁判初日。
罪状認否からスタート。やった事を認めるか認めないか、だ。
いやいや、現行犯だからね。認めるもなにもないよ。
しかし、弁護士はオレの予想を軽やかに越えた。
「当時の被告は精神薄弱の状態で、正常ではなかったと思われます。刑法39条に基づいて被告の無罪を主張します。」
こんな感じだったと思う。
は?ムザイ?むざい?無罪?どう言う事?オマエは何を言ってるんだ?待て待て待て!どう考えても欲張り過ぎだろ!無罪に出来るって本気で思ってるのか?とんだドリーマーだよ。ジジィにいくら貰ったんだ?弁護士は金額によってやる気が変わる職業か?しかし、これは無理だよ。もしかして、無罪を吹っ掛けといて世間の注目を集めさせて自分の顔を売るつもりか?とんだ客寄せパンダだよ。オレは弁護士の名声と預金通帳の残高を増やすために使われるのか。なるほど、把握。
さっさと茶番は終わらして裁判官は「死刑!」って言えば良いと思うよ。
そんな事を考えてると弁護士がオレに質問してきた。
「アナタは“神”の声が聞こえると言いましたね。」
「そいつは『人間が勝手に“神”と呼んでるだけだ』と言ってました。」
「勝手に?」
「そいつらは“神”って概念が無いとか。」
「ソイツ、ら?複数ですか?」
「オレに話しかけてきたヤツは何人も居ると言ってました。」
「その、“神”が今回の事件を指示したんですか?」
「オレには“神”になる“素質”か゜あるらしいんですけど、それだけではダメで、“条件”が必要で、自殺せずに寿命まで生きない、って言われたんで、死刑になったら良いのかと思いました。」
「今は“神”はアナタに話し掛けてきますか?」
「気まぐれなので、いつ来るか解りません。」
このやり取りで自信が確信に変わった。いける。弁護士まいってるはずだ。これも“神”お導きかな?
しかし、オレの読みは激甘だった。
甘柿の様に。初孫に出会った祖父の様に。
一人暮らしの30代スィーツOLが飼っているトイプードルに接している時の様に。
担当した弁護士は相当なやり手何だろうな。精神鑑定の結果を片手に自分の方へと流れを作ってるのが素人のオレでも解った。
そして、流れは無罪の方向に進んでいた。なんだこの流れ?困る。非常に困る。みんな冷静になって!“神”になりたいから人を殺したんだよ?死刑以外無いよね?オレをよく見て。精神が異常な人間に見える?どう見てもごく普通の人間だよ。ちょっと働いてなくて、部屋が好きで、女性と縁が無いだけだよ。そんな人間が自分勝手に無差別殺人しようといたんだよ。死刑死刑!
裁判の流れは完全に弁護士のペース。
それをオレは他人事見たいに眺めていた。たまに検事や弁護士、裁判官に質問されたと思うんだが覚えてない。多分、日本語だった気がするが、正直それも怪しい。
裁判の回数を重ねて行くにつれて、オレはヒマを持て余すようになった。傍聴席を見る余裕すら出来た。結構人が入ってるな。
メモとってるヤツ。興味本位っぽいヤツ。
中年の女性が遺影を持って真剣な目で裁判を見ていた。
目が合うとオレを般若の目付きで睨み返された。誰?何でオレ睨まれてんの?睨まれる理由を考えてると、
あっ!オレが殺したヤツの母親?もしかして。
遺影を見ても、殺したヤツの顔が思い出せない。あんな顔だっけ?
母親さん。そんなに睨んでも何も出ないよ?
どうにかこうにか裁判での審議が終わり、判決当日。
その時の事はあまり覚えてない。だってあっと言う間に終わったからね。流れ作業的に裁判官が「オマエを無罪にしてやんよ。」的な事を言いやがった。理由は「頭がおかしい精神異常者だから。」そんな事を難しい言葉でグダグダ言ってた、様な気がする。
む・・・ざいだと?
無様にも解放されてしまった。
外に出ると、
「精神異常者なら人を殺しても良いのか!」
「殺され損か!」
「私の娘はしょうがなく殺されたのか!私は許さない!こんな裁判認めない!」
色んな声がオレの耳に言葉をねじ込んで来やがった。そろに対してオレは誠実に口を開いた。
「精神異常者の事は解らないが、精神がおかしいから人を殺すんじゃないのか?おかしくないと普通は殺さないだろう。」