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結論から言おう。
オレは死刑にもならず、刑務所にも服役していない。色々と不思議な事が起こった。順を追って見よう。
取り調べで持っていた札束を突きつけられた。
「この金はどこで盗んだんだ?」
「どこって、家にあったんですけど。」
「家?家って空き巣か?」
「自宅です。」
札束の帯に押してあるハンコを指差しながら、
「この会社の関係者か?」
「ジ、父親が経営してます。」
家に連絡が行くんだろうか。二人居たんだか、一人が席を外した。戻って来ると取り調べが強制終了された。何があった?
次の日。
面会があった。予想外だが、予想内。父親だ。
「何があった!?正直に言ってくれ。どうしてこんな事をしたんだ!」
なんともまぁ、父親っぽい事を言ってるんだろう。普段は地鶏の放し飼いよりも自由に育ててたのに、イキナリ心配する父親の様な仮面被ってるのは、世間体だろう。多分。
オレは何も言えなかった。正直に話しても信じてくれないだろうしな。どこの世界の親が信じるんだよ。“神”になるから人を殺したって。
「解った。何も喋るな。全部任せろ。弁護士も用意する。」
「解った。」
搾り出した声で答えた。父親に言葉を返したのは何年ぶりだろう。
父親は急いで席を立ち去って行った。
留置所の牢屋の中に入ると新聞が入ってた。読んで良いのかな。
一面の記事がマジックで塗り潰されてる。何だこれ。看守に聞くと、留置所内に居る人の記事は塗り潰す、らしい。もしかしてオレの記事?
数日後、弁護士が面会に来た。
「私がアナタを担当する弁護士です。」
冷たく言い放った。
メガネの奥の目が、
【$】←こんな感じになってる、様な気がする。父親からだいぶ貰ったんだろうな。世間体を気にするから自分を守るため金に糸目を付けないと思う。
「アナタは保釈を望みますか?」
英文を直訳した様な日本語を使って来やがった。保釈って何?
「保釈と言うのは、裁判所が決めたお金を預けると外に出るシステムです。もちろん審査があります。逃げ出したらお金は没収、刑の時効の時間が止まり、永遠に逃亡者です。逃げなければお金は帰って来ます。出れる、と言っても刑務所に収監されるまでの間ですけど。」
別に死刑になるつもりだから外に未練はない。
出なくても良いと弁護士に伝えた。
「解りました。では正直に全てを話して下さい。最初から正確に。」
弁護士の目が、
【$】→【仕事】と言う感じになった。
オレは正直に話した。“神”からこっちの世界に来ないかと言われた、から大量殺人を計画に至るまでの経緯を。
「その“神”が人を殺せ、と言ったんですか?」
そう言えば、ヤツは直接『殺せ』とは言ってないな。てか、弁護士は“神”の存在を信じたのか?
「それと、大量殺人って言いましたが、実際お亡くなりになったのは一人です。後の方は怪我の軽い重いはありますが、命に別状はないです。新聞見てないんですか?」
えっ!ヒトリ・・・ひと・・・り?一人!オレがやった事は無駄だったよ!どうすんだよ。この状況。終わった。何もかもが。ひたすら絶望感に包まれた。
「落ち込まなくても大丈夫です。私がアナタの罪を軽くします。」
こいつはなんともまぁ愉快な勘違いしてるんだろう。罪を軽くするとかどうでも良いんだよ。中途半端な結果になるのか。刑務所に行くのか、とオレは真剣に考え出した。