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5. 征服者と騎士

少し長めっすね



 眼の前にいる4人の人物。

 その4人を目の前にし、トーマスが真っ先に思ったのは。



 「――ハーレム野郎か」で、あった。



 四人中三人が男。どれも少女といえるような外見をしており、トーマスにとってはまだ子どもといえる。

 だが男はかなりの大男だ。身長は2mをゆうに越しているだろう。顔は彫りが深く、厳ついとも言える。

 全体から見る印象は若々しいが、顔を見るとオッサンといえる。

 失礼なことに、トーマスは思った。



 「ロリコン野郎か」と。



 しかし、少女たちは嫌がってついて来ているわけでもないのだろう。身なりは綺麗だし、身に着けているものも上等に見える。

 異世界だし、そこら辺は緩いのだろう。そう思いながら、トーマスはもう一度問いかけた。



 「返事がないようだが、言葉は通じるか?怪我はないか?」



 その言葉で我に返ったのか、ペドロ達は、ハッとした様子でトーマスへ視線を向けた。



 「あ、ああ。大丈夫だ。あんたはいったい?」


 「私はトーマスという」


 「トーマスか、俺の名前はペドロだ」



 そういったペドロは後ろに目を向け、少女達を紹介し始めた。



 「後ろのが、連れのシャロン、ケイト、そしてヴェネットだ」



 と順次指を指していく。少女達はまだ軽く呆然としていたが、ペドロの声に元気に返事をする。



 「シャ、シャロンよ」


 「ケイトです―」


 「……ヴェネット、です」



 自己紹介が終わり、ペドロが首を傾げる。



 「トーマスは、騎士、なのか?」


 「む?見ての通り私は騎士だが?」



 そう答えるトーマス。鎧を着ているし、どこからどう見ても騎士だ。



 「やっぱりそうだよな。けどどこの国のやつだ?見たことねえんだが」


 「……国?いや、特に仕える国はないが……」


 「え?」


 「えっ」


 「えー?」


 「……ぇ」



 ペドロ達は口々に驚きの声を上げる。



 騎士とはやはり国に仕えるのが普通らしい。例外は神殿騎士だが、ペドロ達が見間違えるはずがなかった。



 そして、トーマスは内心かなり焦っていた。もう少し設定を考えればよかったと後悔している。



 (放浪の騎士でいいかな?だけどそれだとこの大陸の仕事の事とか説明がめんどくさいことに……)



 トーマスは閃いた。そうだ――神様使おう、と。

 神様を主君にして、その命を受けて大陸に来たことにしよう、と。



 「国に仕えてはないが、忠誠を誓う主君はいるぞ?」


 「あんたほどのやつが忠誠を誓う奴か……。どんな奴なんだ?」


 「む?そ、そうだな」



 トーマスはまたしても焦っていた。

 細かいこと決めてねえと。もう召喚された事とかぼかせばバラしてもいいかな……。そんな諦めのようなことすら考えていた。



 「あの御方はだな……。それはなんというか……すごい輝いている、う、美しい御方だ」



 嘘は言っていない。ただいろいろ苦しい、そして怪しい。



 「か、輝いている?そ、そうかなんかすげえんだな」



 ペドロはそんなことを言いながら首を傾げていた。

 トーマスは思った。



 「――ああ、こいつ馬鹿だ。チョロいわ」と。



 「その御方は何処の人なの、ですか?」


 「と言うか、なんでこんな所に居るんですか―?」



 しかし、思わぬ伏兵がいた。男が馬鹿だとして、女まで馬鹿とは限らないのだ。

 トーマスはどんどん追い詰められていく。兜の下は汗だくだ。



 「あの御方はと、遠いところにいてだな。もう会えないのだよ。ここにいるのはあの御方の命でな」



 ――完璧だ。良い感じにぼかせたし、相手も察してもう話しかけては来ないだろう。



 「ご、ごめん、なさい。」


 「すみませんー。辛いことを聞いたようで……」



 勘違いをしていた。違う方向に察してしまっていた。なんか主の最期の命を受けた忠臣。彼女たちの中でトーマスはそう思われたようだ。

 神様勝手に殺してごめん。そう、心のなかで謝ったのであった。そう思うと同時に神様って死ぬのかな、など物騒なことを密かに考えていた





 少し進み、トーマス達は草原を出て、陣地へ戻ってきていた。ペドロのテントの中に入り、腰を落ち着けていた。



 「トーマスはこれからどうするんだ?」



 ペドロが身を絨毯に埋めながら、問いかける。



 「そうだな。そこで聞きたいことがあるのだが。入り口の森にいた猿、そして1体の……虎?が居たはずなのだが、知らないか?」


 「ああ、知ってるぞ?猿は何体か殺したが残りは捕まえて売ったし、虎、だったのかあれ?まあそいつも売ったよ」


 「……売った?1匹残らずか?」


 「ああ。全部売ったはずだぞ?」



 残りは気にしなくていい。しかし売ったとはどういう事なのだろう。大陸で商売するような商魂たくましい商人がいるのだろうか。



 「猿と虎モドキは、船に載せて”自由都市”に売られていったわ。たぶん闘技場とか見世物とかに売られると思うわ」



 そうシャロンが補足する。やはりペドロのフォローは彼女達の役目なのだろう。



 陣地に戻る時、トーマスが言葉使いは普通にしていいと言ってから、彼女達の言葉はかなり砕けたものとなった。

 と言っても、ペドロは最初から変わらなく、ヴェネットはそもそもあまり話さないのだが。



 (それにしても自由都市か……。また新しいのが出てきたな)



 トーマスは居世界のことを何も知らないのだ。何1つ知らないと正直に話し教えてもらうか、会話の中で出てくる断片をつなぎあわせ自分で解決するか。

 結局、あの御方はあまり世に出なくて、そのせいで一般的なことは何一つ知らないのだ、そういう設定にすることにした。



 「その、”自由都市”とはなんなのだ?」


 「“自由都市”を知らないの?」



 ――ココが設定を活かす時だ。そうトーマスは直感した。



 「あの御方は俗世を離れていてな。ずっと一緒だったのだ、そのせいであまり俗世間のことが詳しくなくてな……」



 と、影のある男というような感じに言った。

 ――決まった。

 この男、自分に酔っているようだ。



 「そうなのね……。ごめん」


 「可哀想ですね―……。グスッ」



 そうして彼女達の勘違いは進んでいく。ケイトは鼻をすすり、目尻を拭いていた。感極まったようだ。



 「そうと決まれば私が教えてあげます!」



 涙を拭くやいなや、高らかに宣言するケイト。



 「”自由都市”とはですねー。正式名称は”ヴェンツェル自由都市連合”と言ってですねー。7つの都市が集まってできた国なんですー。商人が興した国と言われていますー」



 言葉を1度切り、指を立て、振り回しながら得意げに話す。トーマスがケイトを見る目は完全に生暖かい。微笑ましいのだろう。

 しかし彼は、小さい子ども――トーマス基準、に教わってるいい歳のオッサンというのは情けないものだということを失念している。




 「”自由都市”の一番の特徴は、あらゆる”自由”を守られているところですー」


 「”自由”が守れている?」


 「はい、そうですー。商売の自由、宗教の自由、人種の自由、そして教育や文学、言論の自由。あらゆる”自由”が守られていますー」



 なかなか良さげな国だ。7つの都市が集まっているのだ、専制政治とかではないのだろう。最初にこの国に行くのもいいかもしれないとトーマスは思った。



 「なんといっても”自由都市”には学園があるんです!魔導学園、冒険者訓練学校、職人や技術者を育てる学園、あとは貴族向けの総合学園などがありますねー」


 「色々在るのだな……。ケイト嬢はその”自由都市”に帰るのか?」


 「私達冒険者にとっては、自由都市ほど住み心地が良い国はそうそうないんですよー」



 ケイトの服装はゆったりとした白いロープで、その品は1目でいい物と判るものだ。軽くウェーブがかかった長い髪は金糸のように輝いており、トーマスはずっと貴族階級の人間だと思っていた。



 「ケイト嬢は貴族ではないのか?身なりがいいのでずっとそう思っていたのだが」


 「私は”元”貴族ですね―。ペドロさんに付いて行く時に勘当されちゃいましたー」



 そう言いながら、ケイトは口に手を当て上品に笑う。仕草にも高貴さというのがにじみ出ている。



 「これは失礼な事を聞いた。すまない」


 「いえいえー。気にしてませんから―。他に聞きたいことはありますか―?」



 そう言われ、トーマスは顎に手を当て暫く唸る。



 「そうだな。売られた猿達や虎モドキは何処に居るのか、そしてこの世界の情勢について基本的なことが知りたい」


 「猿達ですか―?たぶん売った商人に聞けば、行き先はわかると思いますよ―。情勢とかは……長くなりますけどいいですか―?」


 「私は構わないが、ケイト嬢達は大丈夫か?疲れているなら明日でも構わないのだが」


 「明日は帰る準備をする予定ですね―。予想以上に危険だとわかりましたし―?早々に帰ることにしましたー」



 大陸でやることは終えたし、あとは売られていった者たちを殺せば終わりだ。そのためには、大陸から出ないとならないし、終わり次第旅を始める予定だ。

 此処に留まっていても仕方がないのだ、情勢を聞くよりも、船に乗せてもらうよう頼むのを優先しなければいけない。



 「帰るというのなら、私も乗せて行ってもらえないか?」


 「え……?いや別にいいですけど―。此処でやることがあるんじゃないんですか―?」


 「ああ、此処でやることはもう終わった」


 「そもそも、その命とやらは一体何の仕事なの?」



 突然、シャロンが話に入ってくる。ペドロ達とイチャつくのを止めたようだ。



 「……まあ、話してもいいだろう。簡単にいえばこの大陸に居る全ての魔物を殺すことだ」


 「え?此処でやることって……。ってもしかして!?」


 「あらー。私達のせいですか―?」


 「まあ、せい、という程でもないがな。そんな訳で此処にいてもどうしようもないのだよ」



 ケイトとシャロンは暫く悩んでいたが、結局はペドロが決めるのだろう。ペドロがいる方へ向くと問いかけた。



 「トーマスがこう言ってるけど、ペドロはどう思う?」


 「俺は別にいいぞ―。命の恩人だしな。お前らも問題はねえんだろ?」



 ペドロは別に問題はなく、シャロン達女性陣も特に異論は無い様だった。



 「すまない。恩に着る」



 そう頭を下げようとしたが、シャロンに止められる。



 「別に命を助けてもらったのよ?これぐらいお安い御用よ」



 そう言い、こちらへ笑いかけて来た。まわりのケイト達も口元が緩んでいる。



 「まあ、明日は一日準備になると思うからな。トーマスはやること在るならやればいいし、ねえならそこら辺ぶらぶらしてていいぞ。ただし船が出る頃には戻ってきてくれよ?」


 「もちろんだ。もう子どもでもないしな、時間は守る」



 そう笑いながらいえば、ペドロも笑い返してくる。ある意味トーマスに異世界で初めて出来た友達といえるかもしれない。



 「あんたのテントは用意してある。部下に案内させるよ」


 「わかった。では良い夜を」


 「あんたもな」



 そうトーマスとペドロは笑い合い、トーマスはテントを出た。



 外は陣地にまばらに置かれている松明だけが唯一の光で、前の世界に比べると闇が濃かった。

 案内されたテントは陣地の外れで、ペドロ達中心に比べると真っ暗といえる。



 暗闇の中、手探りで入ると。中には布団があった。



 (向こうに比べれば大したものじゃないけど、ここ暫く地面にそのままだったからな……。今日ぐらいは鎧を脱いで寝るか)



 そう決めたトーマスは、頭のなかでゲーム時代のように鎧を脱ぐイメージをする。

 すると鎧は一瞬で姿を消し、そこには下着姿のトーマスが立っていた。暗闇の中 うっすら浮かぶその肉体は、ぼんやりとしていても立派なものと判る。

 トーマスはそのまま布団へ入り、目を閉じる。



 最初はゴソゴソとしていたが、しばらくするとおさまり。

 テントの中は静かな寝息が響くだけとなった。



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