48.戦闘開始
森をぬけて湖にトーマスが駆けつけた時、三人の使徒はランスロットの前に倒れ伏していた。
マリアの“光”ではランスロットの魔術耐性を貫くことができず、ならば物理、とアルベルトが攻撃を仕掛けるが、ランスロットの卓越した剣技の前に沈むほかなかったのだ。
とどめを刺すのだろう。ランスロットは剣を上段に構える。
トーマスは咄嗟にストレージから投槍を取りだし、ランスロットへ向けて振りかぶっていた。
倒れているとは言え、敵は敵。
しかしトーマスは、なぜか見捨てる気にはなれないのだった。
「丁度いい。女子供を傷付けるのはこちらも好んでいないのだ」
投槍を難なく弾き、ランスロットは馴れ馴れしく話しかける。
それを無視し、トーマスは使徒達の元へ駆けつけた。
急いで離れろ。トーマスがそう言うと、使徒達は緩慢に起き上がる。しかしそこから動く気力は、まだ回復していないようだった。
「それにしても久しぶりだな。トーマス」
無視した事を気にもせず、ランスロットはトーマスに話しかけ続ける。
使徒達のことはもう眼中にないのか、視線の一つも向けずに。
「まさかこんな事になるとは、思いもしていなかったよ。いきなり魔神を名乗るやつが現れて、私達をここに送ってきた。最後にやつはこう言ったよ。ーートーマスを殺せって」
「……」
「だが、いざこの世界へ来て、お前は既に外へ出て行っていた。……やつはお前らも外へゆき、お前の妨害をすれと新たに命令していった。ちょうどそこら辺に武具も落ちていた。だからお前の近くにいるやつーーそれも敵になりそうなやつへ渡していった。……お前と戦わず逃げる奴も沢山いたがね」
「ーーっ、やはりお前が!」
「それにしても、自我というものを持つと、途端に前の世界がいかに異常か思い知らされる」
「“前の世界”……?」
「ああ、お前らがゲームと呼んでいた世界だ。あの時は自分の意志もなく、ただお前らと戦っていた。殺し、殺され。お前とも最初は勝っていたが……そのうち勝てなくなったな」
「おまえ……」
「ーーまあそんな事はどうでもいい」
締め切るようにランスロットが言い放つ。
有無を言わせない物言いに、トーマスは口を閉じた。
「ーー姫はどこだ! 彼女は何処にいる!?」
「……姫だと?」
「ああ! 俺達の姫、『グィネヴィア様』はどこにいる!?」
それを聞き、トーマスはハッ、と息をのむ。
完全にそのことを失念しており、自分の迂闊さにまたしても自責の念が沸き起こる。
ランスロットが言う『グィネヴィア姫』とは、BH内最強のNPCボスだ。
設定ではランスロットが仕える姫であり、そしてDLC最後のボスでもある。
彼等が登場するDLCは氷や雪がテーマであり、ランスロットもそれにもれない。唯一違うのは、襤褸布を纏う男ーーマーリンだけだろう。
グィネヴィア姫は“力が封じられていなければ”、世界全てを零停させ氷の世界を作るーーというのが公式設定であり、作中では最強と言えた。
だがプレイヤー達が戦うのは弱体化されたグィネヴィア姫であり、本来の力よりは弱められているーーと言う設定である。
それでも最強の座は揺るがないのだが。
そんな存在を忘れるなんて。こいつらも復活するのならば、グィネヴィア姫が復活してもおかしくはないのだ。
トーマスは思わず下唇を噛む。
「どこにやった!?」
「知らぬ。むしろ知りたいぐらいだ」
ーー殺すために。
その言葉は出さずに飲み込む。無闇に怒らせる必要もないと思ったからだ。
「ーーそんなバカなッ!」
ランスロットは叫ぶが、様子から見て本当に知らないとわかったのだろう。
自らを落ち着けさせるため、大きく深呼吸をした。
「……わかった。ーーならば貴様を倒して捜すとしよう」
いうなり、ランスロットは武器を構える。
背後からマーリンも構えを取り、トーマスの前へと立つ。
「ーー卑怯ですまないが、二人でいかせてもらう」
トーマスへ向け、二人の“英雄”が飛びかかっていった。
▼▼▼
緊急避難場所として使われている学園の“大講堂”
そこには学園の全在校生と職員達がひしめき合っていた。
恐々としていた生徒達も、喉元すぎればなんとやら、ケロッとした顔で学友と話し合っていた。
しかし職員達はそうもいかないようで、彼等は忙しなく走り回っている。
学園のトップーー学園長も勿論、走り回りはしないが声を張り上げ指示を出していた。
そんな彼女の目に、ふとリーンデルトの姿が映る。
彼女はジッ、と湖の方向へ目を向けていた。
「大丈夫よ。あの男は強いんだから、きっと無事に帰ってくるわ」
彼女は安心させるように言う。
「さ、あなたもいってなさい。場所はわかるわね? あなたのクラスは奥のところよ」
リーンデルトの背中を押す。
気遣う声のおかげか、それともただ言われるままに行動したのか。
リーンデルトは素直に奥へと向かっていく。
学園長は満足そう頷き、更に指示を飛ばしていく。
「ーーランスロット……、マーリン」
蚊の囁くような声で呟かれた声は、はしゃぐ声でかき消されて誰の耳に届くことなく消えていった。
リーンデルトはつかのま湖の方向へ目を向けたかと思うと、奥へと歩き始める。
奥へ奥へーー大講堂の出入口へと。
次回更新は三時です。




