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43.衝突そして突入

 

 

 王城で陰正と戦うトーマスは劣勢であった。

 ーー第三者から見れば。

 

 

 トーマスは未だ透ける刀の仕組みを、解明することができていなかったのだ。故に傷は増える一方であり、その場は血が飛び散り酷い有様になっている。

 その中でトーマスは気付いた。

 

 

 ーー別に仕組みなど、どうでもいいと。

 完璧に相手を組み伏せよう等と、トーマスは思ってないのだ。今何よりするべきは、さっさと倒しアンリエトのところへ向かうことである。

 そう思ったトーマスは、ストレージから一本の曲剣を取り出す。

 

 

 ーー青白い剣だった。冴えきった刀身はまるで氷のようで、冷気を錯覚するほどだ。

 装飾は過美ではないが、その曲線は妖しげな美しさを感じる。刃は後曲刃になっており、握りには水流をかたどった護拳が拵えてあった。

 

 

 BH内にある“法具”と呼ばれる武器で、普通の武器とは違い“特殊効果”というものを使える。

 法言というものを唱えると、特別な攻撃が出来るという設定だった。

 

 

 トーマスは斬り掛かる陰正に剣を向ける。しかし切っ先を向けるのではなく、護拳を突きつけ、刀身を横にしてだ。

 陰正の刀がトーマスに届く瞬間に、トーマスは剣をクルリ、と一回転させながら呟いた。

 剣の名前であり、法言でもあるそれを。

 

 

 

 それは既にトーマスの頭に刻まれており、自然とトーマスの口から出ていた。

 

 

「ーー“冷停せよ『クローケル』”」

 

 

 その言葉と共に世界は変わる。

 その場は冷気に包まれ、液体の形をとってる“モノ”は何一つとしてなかった。

 

 

「……お、見事」



 陰正はそう呟く。彼の刀は完全にその姿を表していた。刀特有の輝きを放ち、表面からは薄い氷がパリパリと剥がれ落ちている。

 

 

「引いてはくれないか?」



 そう言いながら、トーマスは剣を突きつける。

 後ろから首横に添えられた剣を見て、陰正は疑問を口にする。

 

 

「殺さぬのか?」


「勝敗は決した。それに私は、殺しを好むわけでもない」



 その言葉を聞いた陰正は、一息だけ笑い刀を収めた。

 

 

「見逃してくれるのなら、拙者としてはありがたい」



 その言葉を聞いたトーマスは、ストレージに剣をしまう。

 アンリエトのところへ向かおうと走りだしたトーマスに、陰正が声をかける。

 

 

「舞踏会場はあっちだ」



 兜の下で赤面したトーマスは、その素振りを見せないようにして、陰正に軽く頭を下げた。

 そして今度こそトーマスは走りだした。

 

 

 

▼▼▼




 舞台は変わり王城内の舞踏会場。トーマスと同じように、アンリエトも劣勢であった。トーマスとは違い、本当の。

 

 

 アンリエトがなるべく兵士を殺さないようにしていた為にやられっぱなしであり、彼女のドレスは酷い有様になっていた。

 

 

 配慮などしている場合ではないとアンリエトは思い、殺す気でかかることにする。

 

 

「ーー“ファリカリウス・ヘル”」



 そう言ったアンリエトの手の中に、瘴気があつまり鎌を形造った。

 モヤのような瘴気で出来たにも拘らず、ツヤ消しした金属のような重厚感を放っていた。柄の大きさは小柄なアンリエトの身長を優に超え、刃の部分は一メートルは軽く超えるほどだった。

 

 

 重さを感じさせず、アンリエトはそれを振るう。振るった線状にいた騎士は、皆力を失い倒れる。

 一切の外傷はみあたらない。しかし彼等の心臓は、止まっていた。

 

 

 ーー魔術の闇は停滞、減衰、終焉を司る。

 しかしあまり効果が強いとはいえず、効果を及ぼすにはそれなりの力が必要となる。

 一般の域ではあまり大きな効果は起こせないのだ。

 

 

 なにより、ただ死を起こす“闇”は忌み嫌われていた。

 冒険者からは臆病者と言われ、民衆からは危険人物と噂される。さらに稀有な才能を持たないものは、生物を殺せたとしてもせいぜい小動物、そしてまだ幼いこどもか老人ぐらいだ。

 こどもや老人を殺すもの、しか殺せないもの。そういって唾棄され侮蔑される。

 

 

 アンリエトもそうだったのかというと、実はそうではない。

 闇属性の異能持ちでありながら、更には現肢持ち。彼女は恐怖の対象となった。

 話す相手は、彼女の姉たちと母、そして侍女ぐらいのものであった。

 

 

 “黒姫”の真髄を見た騎士達は、うろたえ怯え始める。

 しかし騎士達による囲いの周りには、リシャールの私兵で固められていた。

 これにより兵士たちは、背を押され下がれない。

 リシャールは参加した兵士を、使い潰すつもりだった。

 

 

「魔術というのは、本来はもっと神秘的なモノの筈だ。学園都市で教えられているようなものは、魔術の浅薄な所に過ぎない。その点だけは貴女を認めましょう。闇の魔術の深淵を体現する、王妹殿下」



 リシャールはアンリエトに突如語りだす。

 しかしアンリエトは答えなかった。下がれないことに気付いたのか、兵士たちは悲痛な顔をしており、それを見たアンリエトは殺すのに躊躇っているようだった。

 

 

「貴女のその“鎌”もそうだ。命を刈り取る形をしたそれは、闇の属性“減衰”と“終焉”に特化し、ただそれを突き詰めている」



 アンリエトに構わず、リシャールは一人で語る。

 

 

「この槍もそうだ。ただ属性の相性や強弱ではなく、『闇を祓う』という事を突き詰め、それを可能とした。今の魔術では到底不可能だろう」



 そう言ってリシャールは腕を振るう。その動きに合わせ、白銀の槍も浮かび上がり、その切っ先をアンリエトへと向けた。

 

 

「余談はここまでにしましょう。まあ何が言いたいかというと、あなたとも分かり合えれば、良き友となれたのかも知れなかったのです。しかし、貴女とはどうしても分かり合えないようですが」



 その言葉と共に、リシャールは手を振り下ろそうとする。槍がアンリエトへ向かおうとした瞬間。舞踏会場唯一の扉が乱暴に開け放たれる。

 いやそれは違うかも知れない。なぜなら扉は所々壊れ、開けたのではなく壊したと言ったほうが正しいからだ。

 

 

 その場の全員の目がそこへ向かう。扉を壊した張本人は、視線を意に介さず舞踏会場を見回す。

 

 

 扉を壊して入ってきたのは、トーマスであった。



 トーマスは舞踏会場の一角に目を止める。そこには騎士達の人垣が出来ており、平常に舞踏会が行われてないことは明らかだったからだ。

 

 

 見つめられたことに動揺したのか、人垣がざわめく。そしてその隙間からトーマスの目にあるものが見えてくる。

 それは囲まれ傷ついたアンリエトだった。

 

 

 それを見たトーマスは強烈な怒気を発しながら、人垣へと向かう。

 それを見たリシャールは後方へと声をかけた。

 

 

「おい! こういう時のために貴様を雇ったのだぞ! 仕事をしろ!」



 その言葉と共に、後ろで酒盛りをしていた者が立ち上がる。

 しかしその足取りはしっかりとしたもので、とても大量の酒を飲んでいたようには見えなかった。

 

 

「ふひひ。やっと出番かおい」



 そう言って立ち上がった男ーードゥーボルは自身の相棒である斧を片手に、トーマスの元へと向かっていった。

 

 

 

刀剣の外形には主に三種類あるらしいですね。直刃、後曲刃、前曲刃の三種類です。

直刃は突き刺す事に、後曲刃は掠め切る事に、前曲刃は叩き斬る事にそれぞれ特化しているんだそうです。まあ図鑑の受け売りなんですけどね。

例えるなら、直刃がレイピアやエストックで、後曲刃が中東に見られるサーベル、前曲刃がククリ刀やコラ、アジャカティと言った所ですかね。

ちなみにクローケルのモデルはパンジャブ様式のタルワールです。インドに見られる刀剣ですね。

専門家は柄の寸法の比率の微妙な違いで制作された年代、地域を判断するそうです。とんでもないですね。


拙作ですが、これからもお読み頂けると嬉しいです。

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