34.会合
前に一話あります。この後も更新する予定です。
教国での1件から数日後。
教国内にある大聖堂の一室。そこに7人の男女が集まっていた。
部屋の全ての窓にはスタンドガラスがはめられており、部屋を種々雑多に淡い光で照らしていた。
その場の殆どが聖職者のような格好をしており、そして全員が使徒でもあった。
「ーーじゃあ、話を始めようか」
フードを目深に被った隠者がそう言うと、皆真剣な目を彼に向け始めた。
一体なんの話なのだろうか。聖騎士長はそう思う。そして少し前のことを思い出した。
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「何人集まった?」
中央にある円卓。椅子を引きながら聖騎士長と呼ばれる青年ーーアルベルトは、隣のセシリアへ問いかけた。セシリアは部屋を見回すと、残念そうに首を振りながら答える。
「“殉教者さん”以外は来るみたい……けど遅れるって」
そうか、と言いながら椅子に腰掛ける。アルベルトはそれを聞き、内心驚いていた。
特に固有名もないこの会合。今までにも開いたが、2、3人集まれば多い方であった。それを今回は、発現している使徒の9割が出席だ。それほど今回の1件は重大だったのだろう。そう思うと同時に、逃してしまったある騎士の姿が脳裏に浮かんだ。お礼のためにも追いかけたい。が、そういう訳にもいかなかった。
「どうしたんだいアルちゃん」
何時の間に座っていたのだろうか。アルベルトの前に隠者が座っていた。
「相変わらず神出鬼没ですね」
「それが“僕”だからね」
2人は笑い合う。アルベルトは気になっていたことを聞いてみることにした。
「そういえばなんでいきなり会合を? しかもこんなに呼ぶなんて」
アルベルトは目の前に座る男が、何かしら手を回したのだろうと思っていた。でなければ7人も集まるわけがないと。
「んー……少しね。集まったら話すよ」
しかし答えは得られず、ただ濁されただけだった。
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「“審判者”は来ないそうですよ」
たった今最後に1人となった女性が、入ると同時に言った。彼女は神官服のようなものを着ており、豊満な体を純白の服で包んでいる。優しげな笑みを浮かべており、その声音からは柔らかさが感じられた。
「あたしでさえ来てるのに……あの女サイテー」
1人の少女が小馬鹿にする様な言葉を零す。その少女は確かに聖職者らしい服を着ているが、貞潔を掲げるには少々開け過ぎた格好をしていた。
「ウルナ。汚い言葉は慎みなさい。あと服装もしっかりなさい」
聖女は言葉に呆れを込めて、ウルナという少女に苦言を言う。しかし言われた本人は、『神聖娼婦なんだからいいじゃーん』と言い。気にする様子はない。
「さて恒例の行事も見たことだし、隠者そろそろ話をしないか?」
微笑ましいやりとりを遮り、司祭服を着た男が言う。この男こそ大聖堂管轄の使徒ーー教皇アグニトスであった。
「それもそうだねーーじゃあ、話を始めようか」
そして会合は始まった。
「まあ話はだいたい聞いている。処分した獣共から聞いているしな」
感情を感じさせない声でアグニトスは切り出した。
「奴らの頭も抑えた。情報は全部聞きだした。そうなるとやはりーー」
誰に問うわけでもなくアグニトスは呟く。そしてそれに隠者が口を挟んだ。
「ーー謎の騎士だよ。名前はトーマス、あの後消息は不明」
隠者にしては珍しく声に軽い感じがなく、周りの使徒は怪訝な顔で彼を見る。
しかしそれを気にすることもなく、この会合の本題を告げた。
「謎の騎士トーマスはーー魔族と竜人の混血。忌むべき“敵”だ」
隠者が落とした一言に、会議室は静まり返った。そして1瞬遅れ、怒気にもまた殺意にも似た感情が、部屋を満たした。
隠者はそれ気にせず、更に続ける。
「見た所奴はかなり強い。聖騎士長に渡り合う強さを持っていて、恐らくまだ上があるだろう」
隠者の評価を耳にして、ある者は興味深げに片眉を上げ、ある者は信じられないと嘲笑を顔に浮かべる。
「ーーだから奴を神敵に認定したい。異論は?」
その一言に全員が驚く。先程の一言が全くの冗談ではなく、そしてあの隠者がここまで手を回す相手なのだと。
そして隠者は真剣な顔から一転、口元を獰猛に歪め言い放つ。
「まだ確定ではないけどーー奴は自由都市に向かうらしい。忌々しい獣共を殺すいい機会だ」
彼等にとって様々な種族が集まる自由都市は、肥溜めの様な唾棄する場所だった。しかし彼等は大義名分を得たのだ。神敵を殺すためという大義を。その過程で何人死のうと、それは不幸な事故でしかないのだ。
部屋は歓喜に包まれる。洗脳の様な信仰により、育てられた歪な教え。しかしまだ年若い2人の男女は、浮かない顔をしていた。
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その日の夜中、アルベルトは悩んでいた。他の仲間たちのように、素直に喜べないことを。
胸に蟠りのような物が残っているのだ。
不思議なことに、裏切られた心境であった。なぜあの騎士に裏切られたと感じるのか。そしてその裏切りは何に対してなのか。助けられた相手が憎むべき敵だったから?
アルベルトは窓から空を見上げる。空にはあの日のような満月が浮かんでいた。しかし雲が周りから囲む様に、満月を覆い隠してしまったのだった。アルベルトは寝付けず、朝まで空を眺めるのだった。結局最後まで月は顔を出さなかった。




