33.決着
向かってくる異形を見て。トーマスは幼少の事が頭に浮かぶ。たしか変哲のないバトル漫画を読んでいた時のことだ。足にブースターをつけた少年が、主人公に吹き飛ばされるシーンの事だ。
目にも止まらぬ速さの攻撃。トーマスは正にこれが最強なのではないか、そう思っていた。
だから負けるシーンを見るたび、納得の行かないムカムカが心に残った。けれどそれは間違いだったんだなと、次の瞬間には思っていた。
愛称の問題もあるだろうが、異形にとってトーマスの戦法は相性が悪かった。
二足歩行の生物にとって、動き続けることは難しい。海中のマグロならまだしもだが。
例えば、攻撃の瞬間。正にこの時を待って、トーマスは攻撃を仕掛けた。
眼前の異形が腕を左右に広げ、抱き込むように振るう。それを完全に無視し、トーマスは突如掌に現れた鎚を奮う。しかし鎚頭は空を切り、地面を爆散させた。
瞬間腹に熱が起こる。トーマスの腹には、異形の爪が刺さっていた。
フェイントであった。予想以上に頭が働くな、とトーマスは歯噛みする。
しかし、まだ手はあった。『急には止まれない』という言葉がある。勢い良く進むものは、突然現れた物にぶつかってしまうのだ。当たらないのなら、当たるように工夫すればいい。
トーマスが指揮者の如く腕をふる。すると彼の周りに、剣山のごとく武器が現れる。ストレージからそのまま鎧や衣服が着れるのならば、離れた場所に出すことも出来るのではないか。トーマスはそう思い、そしてそれは当たりだった。
突進してきた異形は、突如現れた武器の山を避けることが出来なかった。足の先から踵にかけて、剣がめりこみ体勢を崩した。地面から突き出す槍は異形を貫き、地面に叩き付ける筈だった肩は斧により切断される。
トーマスがその隙を逃す理由はなく、鎚を振るい頭を叩き潰したのだった。
トーマスは異形を無事倒すことができて、安堵の息を吐く。
その様子を影から見つめる者が居た。隠者である。聖女の傷を見て、大慌てで医者を呼びに行ったが、傷が無事治ったことを知り、トーマスを追いかけてきたのだ。そして彼は息を潜め、先刻からずっと戦いを見ていた。
隠者の心中を満たすのは、焦燥と恐怖。並ならぬ実力を持つトーマス。彼はトーマスが異能を持つと確信していた。しかし先程の戦いを見る限り、1つではない。不死者を見間違えるほどの回復能力。突如現れる武器。人外染みた怪力。少なくとも2つは持っている。
これは敵対することはないのではないか。そう思う隠者だが、あるものを見た途端考えが変わった。
ーートーマスが兜を脱ぎ、額を拭ったのだ。
明らかに普通とは違う容姿。それを見た途端、隠者の眼の色が変わる。嘲りと憎しみと嫌悪が入り混じった瞳で、トーマスを睨む。
しかし隠者は手を出さず、そのままそこを去った。彼は慎重な性格をしていた。
ーーその日、新たな神敵が生まれた。
竜人と魔族の混血。騎士を騙る者。狂信者は獲物を目の前に動き出した。
一方、トーマスはそんな事は露知らず帰る準備をしていた。
「船では帰れないし……歩きか……」
まさかの徒歩帰りという事実に肩を落としながら、夜の都市を出て行った。




