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30.決行

少し長めです。


 ――静かな夜だった。

 月明かりが青白く街を照らし、薄く輝いている。

 町の住民は皆寝静まり、教会や宮殿を護る衛士だけが街を油断なく見つめていた。

 

 

 ――不意に、路地裏で影が走り抜ける。

 

 

 「っ! 何だ今のは!」

 

 「……俺が行く」

 

 

 1人の衛士が、手に持つ燭台(カンテラ)を闇夜へ向ける。

 照らされた路地はいつもと何も変わらず――、いや1角に嘔吐物思われるものがぶち撒けられていた。

 

 

 「酔っ払いか……?」

 

 

 奥に向け大きく照らしてみるが、何も見当たらない。

 衛士の男は安堵の息を、ホッと吐き出す。しかしすぐに苛立ちが沸き起こってきた。

 

 

 “誰が掃除をすると思っているんだ”“そもそも散々注意しているのに”、そんなことを心中で呟く。

 さっさと警戒に戻ろう――そう思って振り返ると、衛士の男は目の前に人がいることに気付く。

 

 

 1瞬、1緒に夜警をやっている相棒だと思うが、暗闇に浮かぶ2つの金眼がそれを否定する。

 声を上げようとした時には既に遅く、頭の衝撃と共に男の意識は深く沈んでいった。

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 「慣れた物だな」

 

 「長年冒険者をやっていれば、嫌でも身につく」

 

 

 手際よく衛士を片付けたヴコールは、淡々と返事を返す。

 おそらく謙遜などではなく、ただ事実を言っているだけなのだろう。実際に冒険者はできて当たり前なのかもしれない。

 

 

 「そんなことより、さっさと行くぞ」

 

 

 そう言うやいなや、返事も聞かずに歩き出す。

 

 

 「それにしても、2人だけでよかったのか?」

 

 

 ヴコールにそう問いかけるが、返ってくるのはさっきから繰り返された一言だ。

 

 

 「問題ない」

 

 「しかし、お前の部下は……」

 

 「あいつらはまだ若輩だ。なにより――あんたは俺より強いだろう?」

 

 

 こちらへ振り返らず、ヴコールは歩き続ける。

 

 

 「冒険者で何よりも重要なのは、身の程を知る事と相手の力量を誤らないことだ。常に冷静で客観的にものを見る。これができない奴は早死にする」

 

 「……誰にでもできる、という訳では無さそうだが?」

 

 「フッ。だからこそ仲間がいるのだ」

 

 

 あまり笑わないヴコールだが、仲間の事になるとよく笑う。

 彼等がここまで大きくなれたのは、ヴコールのおかげなのかも知れない。なぜなら話していても一切立ち止まらず、歩きを緩めない。ただ淡々と目的地に向け歩き続けている。この男は兵士でもやってたのではないか、と最近良く思う。

 

 

 「――ついたぞ」

 

 

 突然ヴコールが足を止める。その先には立派な教会が建っていた。

 

 

 それを見ると、不意に昨日のことを思い出す。





▼▼▼

 

 



 『――今都市にいる使徒は3人。なので3手に別れる。大聖堂と中央教会表口と裏口にだ。大聖堂と教会で人数を半分に分け、それぞれ戦力が均一になるよう配分する』

 

 

 手書きだろうか。紙を繋ぎ合わせ、1つの大きな紙になっている。そこにはかなり細かく書かれており、何も知らない者から見ればただの落書きにしか見えないほどだ。

 机に広げた紙を囲むように、数人の男女が立っていた。そのうちの1人が手を上げ、話し始める。

 

 

 『3手に別れるのでしたら、戦力も3等分にするのが妥当ではありませんか?』

 

 『いやこれでいいのだ』

 

 『しかし! 教会には使徒が2人居ます! いくら片方が聖女だといえあまりに危険です!』

 

 『問題はない――話を戻すが、大聖堂と教会裏口にそれぞれA級を10人ずつ、そして一般兵を均等に分ける。そして表口には私とトーマスで行く』

 

 

 ヴコールが告げると同時に、空気が軋み始めた……ような気がする。

 

 

 『納得いかない者もいるだろう。だがトーマスの実力は実際に戦った私が保証する』

 

 『しかしッ……!』

 

 『――問題はない』

 

 

 ヴコールはその1言で、詰め寄ろうとしていた者達を黙らせる。

 

 

 『作戦は以上だ。あとは各自で決めろ』

 

 

 そう言い、ヴコールは席を立つ。俺も気まずいので便乗した。部屋の中から様々な視線を感じながら、部屋を出たのだ。





▼▼▼


 


 

 「――おい」

 

 「ん? なんだ?」

 

 「決行の前に、もう一度話しあうぞ。しっかりと頭に入っているだろうな?」

 

 「ああ。たしか俺達が表から侵入すると同時に侵入。俺達が使徒や聖騎士を相手取っている間に、裏口組が制圧をする。終わり次第大聖堂へと合流する――だったか?」

 

 「大丈夫そうだな」

 

 

 ヴコールはそう言い、こちらの返事も待たずに歩き出す。前から思っていたが、この男は少しせっかち過ぎるような気がする。まあタイミングが悪いだけかも知れないが。

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 闇夜の中であろうと堂々と聳え立つ教会。意外なことに入り口を護る衛士は居なかった。

 

 

 「……護りが薄すぎないか?」

 

 「教会内では衛士は見回りをしない。内部は聖騎士の管轄だからな。その聖騎士達も、護るのは非公開部だけだ」

 

 「ではどうするのだ?」

 

 「私達が合図なのだから、できるだけ派手な方がいい」

 

 

 そう言うと、無根に何かを抱えるようにヴコールが丸くなる。何を――そう思うと同時に、ヴコールに突然異変が起こる。見て判るほどの、急激な筋肉の膨張。皮膚がどこか硬質なものへと変わり、表面に鱗の様なものが浮かび上がる。

 呻き声を上げ、体を更に縮こませる。

しばらく経つと、ヴコールは完全な竜人と成っていた。

 

 

 「グルゥアアアアアアアアア!」

 

 

 起き上がると同時に――咆哮。

 静まり返っていた教会に、ヴコールの叫び声が轟く。

 

 

 「……たしかに派手だな」

 

 

 そう呟くと、徐々に扉の向こうが騒々しくなっていた。勢い良く開かれた扉の向こうには、月明かりを受け白銀に輝く甲冑を身にまとう騎士達が居た。見慣れた自分の甲冑と比べると、装飾過多なのではないかと思う程に豪奢な作りとなっている。

 彼等は無言で斧槍(ハルバード)を構え、円を描くように俺達を囲む。

 

 

 「行くぞ」

 

 

 ヴコールがそう言うやいなや、騎士達へ突貫する。斧槍の柄を掴み、荒々しく奪い取る。乱暴に振り回すことにより、騎士達を薙ぎ倒していた。

 乱暴に扱ったからだろう。柄が折れ、長さが足りなくなる。

 

 

 「脆くてかなわんな」

 

 「……用途が違い過ぎるだけだと思うが」

 

 

 ヴコールは、そうか? といいながら首を傾げる。折れた斧槍を投げつけながら、拳を握りこみ、こう言った。

 

 

 「まあ俺達(竜人)に武器などいらんがな」

 

 

 勢い良く踏み込み、勢いのまま騎士を殴り飛ばす。板金を殴ったにも関わらず、負けたのは鎧の方であった。頑強な鱗に覆われた拳は、甲冑を凹ませ、芸術的な鎧を滅茶苦茶にする。

 

 

 ヴコールを眺めていると、数人の聖騎士が斧槍を突き出してくる。確かにその技量は高く、危うく攻撃を食らうところだった。

 手で口金を叩くようにして払い、騎士達へ踏み込む。素早くストレージからスチレットを取り出し、鎧の隙間へ突き刺す。刺突に特化した短剣は、鎖帷子すら貫き騎士達の息の根を止める。

 

 

 わざわざ短剣を使わずにヴコールの様に力任せでいけばいいのだが、俺はあえてそうしない。何故か――それは猪頭との戦いで、あることを実感したからだ。

 

 

 ――俺には経験がない。BHの魔物達は、ゲームの時の様な動きしかしなかった。ゲームの時の動きに引っ張られているというのだろうか? ゲームの様に動きにパターンがあったのだ。しかし、蟲王は独自の動きをするなど、明らかに他の魔物とは違った。なにせボス部屋から出てくるのだから。

 

 

 そして猪頭との戦い。あれは俺が圧倒的な回復能力がなければ、確実に死んでいた。多彩な攻撃方法に、眼が追いついていても反応できなかったのだ。なので力任せは止め、自らの腕を磨こうと思ったのだ。

 なので今回使う武器は短剣や大きさが比較的普通な刀剣など、力任せに出来ない物に限る。

 

 

 騎士達の間を抜け、刺しては抜きを繰り返し始末していく。しかし騎士達も馬鹿では無いので、途中からは短剣や直剣を抜きだした。

 段々と避けられなくなり、傷が増えていく。そして気付いた。

 

 

 自分の特性を活かす事は決して悪くないのだ。なので俺はカウンター狙いで行こうと思う。どうせ死なないんだ、全部受けちまおう。半ば自棄糞染みた理論だった。

 

 

 腕で剣筋を止め、腹に刺さる短剣を無視し、動きを止めた敵へ反撃する。

 気付くと、聖騎士達は全滅していた。

 

 

 

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