29.参加
竜人の男は油断なくトーマスを見据えている。
竜人の男は、灰色の髪を全て上げてオールバックにしており、額には大きな裂傷があった。
「ヴコール! どうするんだ!」
「……ここで始末する。どっちみち見つかる、なら少しでも時間を稼ぐほうがいい」
両者が睨み合っていると、獣人達の間から物騒な会話が聞こえてくる。
トーマスは別に敵対するつもりはない。
ーーむしろ協力関係のほうが、この国では色々動きやすそうだ。むしろそう思っていた。
「待ってくれ、私は敵対するつもりはない」
「何を……!」
「いや、本当だ。見てくれ」
そう言いながら、トーマスは兜を外す。
「むしろ仲間だ。そうだろう?」
唖然とする獣人たちに、トーマスはそう言い放った。
▼▼▼
獣人達は反乱軍という組織だ。
あまりに酷い亜人への扱いに、亜人の奴隷や地下水道に住んでいた亜人達が立ち上がり、この組織が設立した。
トーマスにそう語ったのは、竜人の男――ヴコールで、彼は外部からの協力者で冒険者だった。
「なるほど、虎の化物か……」
「私の情報によるとここに運び込まれたらしいのだが……なにかしらないか?」
トーマスはそうヴコールに問いかけるが、反応は芳しくない。
彼等は計画の為に、協会関係者や宗教施設にはりこんでいた。
なので知らないか、とトーマスは聞いてみたが……どうやらそのような情報は耳に入らなかったそうだ。
「一応張り込んでいた本人に聞いてみるか?」
「頼む」
そう言ってトーマスは頭を下げる。
あまりに無防備すぎるではないか。そう思うが、彼等にとっては同じ血が流れているということだけで、信用に値するらしい。
トーマスは騙しているようで少し心が痛んだが、気にしてはいられないと気持ちを振り払う。
「呼びましたか? ボス」
「ああ、施設や糞共に張り付いていて、まだ報告してないことはあるか?」
「……それは裏切りかどうかという話ですか?」
「いや違う。ただ些細な事でもいい。なにかおかしな所とかはなかったか?」
入ってきたのは、驚くことに女の子だった。
茶色の兎耳が頭にあり、全身長袖の服装は、彼女の雰囲気と合わさりまるで軍人のようだった。
「……そういえば、かなり前ですが“教会”に大きな荷物が運び込まれていました」
「大きな荷物?」
「はい。木箱で包まれていて、中身はかなり重い様で数人がかりで運んでいました」
「なぜ報告をしなかった?」
「その時は木箱程大きくありませんでしたが、像と思われる荷物が何度か運び込まれていましたので、それもまた何かの像なのかと……」
「それで、木箱の中にあったと思われる像は?」
「……見かけていません」
――ビンゴだ。トーマスはそう思った。
おそらく木箱の中身は、残る一体ーー“虎”だろう。
まだ決まった訳ではないが、元々当てがないのだ。虱潰しとは行かなくても、数撃ちゃ当たる戦法を取るしかない。
トーマスはそう思い、襲撃を決めた。
「ヴコール。ありがとう助かった」
そう言い、席を立つ。
それらしい所を見つけたのだ、トーマスは早めに終わらしておきたかった。
「まて、どうするつもりだ?」
「どうする、と言っても……正面突破だが?」
――正面突破。あまりに単純すぎる方法だった。脳筋と罵られても仕方がないほどに。
「無理だ。あそこには使徒がいるんだぞ?」
トーマスは知らぬことだが、使徒は街に点在する重要な宗教施設に暮らしている。特に教会は二人もいるのだ。。
さらに聖騎士による警備も厳重。しかも単独犯とわかれば他の使徒まで来るかもしれない。
それ故の忠告だった。
「だからやめろ。無理をするな」
「……では、そもそもヴコール達はどうやって計画を成功させるつもりだったのだ?」
「……それは言えない。いつどこで漏れるかわからないからな」
そういいヴコールは口を閉ざす。
ーーしかし……どうするか。
自分勝手に暴れるという手もあるが、そのせいで反乱軍に迷惑をかけるのは気が引けた。
トーマスがしばらく悩んでいると、彼の頭に妙案が浮かぶ。
「――私も計画に参加すればいいのだよ」
「は?」
「え?」
これはいい。とトーマスが一人で盛り上がっていると、ヴコール達が騒ぎ出す。
「それは認められねぇ。部外者のおまえを巻き込むわけには行かない。それに使徒が相手だ――死ぬかもしれないのだぞ?」
そう少し威圧をかけながら、ヴコールはトーマスを凄む。
しかしトーマスは凄まれるのにも慣れていた。そのため微塵も恐怖は感じていない。
「大丈夫だ。腕には自身がある」
そう言い睨み合っていると、不意にヴコールが笑い出す。
「フッ、ハハハハ! いいだろう、歓迎する同士よ」
そう言いながら、手を差し伸ばしてくる。
トーマスはは力強くその手を握り返し、ヴコールと笑い合うのだった。
▼▼▼
トーマスがヴコールにより知らされた計画の全容はこうだ。
まず戦力をばらけ、それぞれ使徒がいる施設にぶつける。ここで気を付けることは、必ず複数でかかることだ。不測の事態を除いて、単独行動は許されない。
反乱軍にはヴコールを始め実力者が数多くおり、その数は20名に及ぶ。
『たとえS級に匹敵すると言われる使徒だろうと、質と数両方揃ってる相手には勝てないだろうさ』とはヴコールの言葉だ。
使徒を倒し、施設を占領したら主力部隊は次の使徒の元へ。また倒したら次の使徒へ。を繰り返すのが、今回の作戦だ。
――決行は三日後。
計画に向け、彼等は地下に篭もり、牙を研ぐ。




