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28.聖都



「これが、教国か……」

 

「正確にはまだ教国じゃあないよ、お兄さん」



 眼前に広がる草原を見ながら、トーマスは感慨深い気持ちでそう呟いた。しかしそれを打ち消すように、まだ中学生ぐらいの少女が訂正する。

 

 

 少女の名はレオナと言った。外見は活発と言った感じで、キャスケット棒を被り、髪を短く揃えている。

 彼は教国に住んでいて、帰る船でトーマスと一緒になった。空席も目立つ船の中、レオナとトーマスは談笑することとなり、その時案内をしてくれるという話になったのだ。

 

 

「ああ……あとお兄さん、そろそろ頭隠したほうがいいよ」



 降りると同時に、レオナは頭を隠すように言ってくる。

 

 

「それもそうだな」



 トーマスはそうかえした。しかしレオナから外見に対する忌避感などが、まるで感じられない事に困惑する。トーマスが聞いていた話とは、あまりに違っていた。

 

 

「その、レオナ嬢は私に対して思うことはないのか?」

 

「ん? ああ。うちは“原理主義”だからね。べつに亜人を嫌っているってわけじゃないよ」



 レオナはこともなげに言う。

 

 

「原理主義とは?」

 

「ああ、そっからか」   



 レオナはトーマスがそのことを知っていたと思っていたらしく、少し面倒臭い様子で説明し始めた。

 

 

「簡単に言うと、うちの宗教――名前はわかる?」

 

「ああ、たしか白聖教だったか?」

 

「そうそう。白聖教には2つの派閥があるんだよ。それが、原理主義と至上主義」

 

「一体何が違うのだ?」


「原理主義ってのは、まあ亜人の差別とかはやめましょうってことだ」



 レオナはそういうが、トーマスは要領を得ない様子で、いまいち意味がわからないようだ。

 

 

「もともとうちの教典には人間が至上、なんてことは書いてなかったんだよ」

 

 

 つまり原理主義とはもともとの教典に則って差別的なものを止めよう、と解釈する者達の思想であった。

 

 

「で、至上主義っていうのが……まあ今の教国のまんまってとこかな」

 

 

 至上主義とは白聖教で1番勢力があり、今の教国のイメージはこれにより作られている。

 その昔“使徒”の1人が、亜人は、魔物や魔族とつながる敵だ。と言ったのが始まりだ。

 そのせいで彼等は、奴隷の様な扱いを受けている。

 

 


「だけど最近のあいつらは度が過ぎてるんだ。まるで何をやってもいいと言わんばかりだし」

 

「なるほど……」

 

「だから、うちら原子主義は、その前になんとしようと立ち上がったって訳」

 

 

 そう言いながら振り返り、花のような笑顔で笑った。

 

 

「うまくいってるのか?」

 

「それがあまり良くいってないらしいんだ」

 

 

 なぜうまくいってないのか――それはさっきも出てきた“使徒”にあるらしい。

 

 

「今代の使徒はみんな至上主義派なんだよ」

 

 

 レオナは忌々しげに口を尖らせる。

 

 

 使徒というのは代々受け継がれてきた“異能”を使う、強力な戦士である。

 特別な教育を受け、戒律通りに暮らしていると、神に選ばれ力を授かる事ができ、その力を受け継いだ者たちを、“使徒”というのだ。

 

 

 しかし、特別な教育(・・・・・)。その教育内容を決めるのは、宗教内で1番力を持つものだ。

 そしてここしばらく、トップには至上主義がなってきた。

 

 

「あいつらは使徒の力を自分達のために利用しているんだ」

 

「レオナ嬢?」

 

「ま、そういうわけだから隠したほうがいいぜ?」

 

 

 トーマスは話に夢中になっていて、隠すのを忘れていた。

 レオナの言う通りにし、トーマスはいつもの全身鎧に着替える。

 

 

「うわっ! はやっ!」

 

 

 レオナはそう言い驚く。振り返ったらいきなり全身鎧になっていたのだ、当然の反応だった。

 トーマスが兜の下で苦笑していると。不意にレオナが足を止める。

 トーマスが怪訝に思っていると、こちらに振り返り、笑いながらこう告げた。

 

 

「ようこそ! 聖都へ!」

 

 

 レオナの後ろには、真っ白な城壁に囲まれた白亜の街があった。

 

 

▼▼▼




 ――教国という国は少し特殊だ。

 

 

 何よりの特徴は、領地が都市1つ分しかないことだろう。

 “聖都”と呼ばれる首都としかないのだ。その周りに広がる平原は、教徒達の物とされていて、彼等が農耕に使っている。

 そして彼等が農作物を持ち込み、商人たちが交換をすることにより、教国の経済は回っているのだった。

 

 

 レオナと別れ、トーマスははどうするか迷っていた。

 いつもならば彼は冒険者ギルドへ行くのだが、聖都にギルドはない。正確にはあったのだが、仕事がないのでなくなったのだ。

 聖騎士と使徒が迅速に処理してしまうため、仕事がないのが現状だった。

 

 

 ――どうしようかなぁ。

 トーマスは途方に暮れてしまう。他の都市なら適当にスラムでも入って、襲ってきた奴返り討ちにすれば、勝手に情報が手に入るんだが……トーマスはそんな物騒なことを考えていたが、残念な事にここにはスラム街はなかった。

 定期的にお掃除(・・・)するためだった。一体何を掃除しているのかは明らかにされていない。

 

 

 ーーBH産魔物の居場所が判る能力でもあったらいいのにな。

 トーマスはそんな事を考えていると、人気のない路地で怪しい物を見つけた。

 

 

 ――下水道から出てくる、複数の亜人たちだ。

 しかも全員が屈強な男であった。

 

 

 丁度いいものを見つけた。トーマスがそう思うと同時に、彼等の所へと一足で跳ぶ。

 

 

「失敬。聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

 

 

 トーマスがそう声をかけると、フードを被っていた男が、振り向きざまにナイフを振りぬいてくる。

 瞬時にストレージからマンゴーシュと呼ばれる短剣を取り出し、三角形の護拳で短剣を受け流した。

 

 

 ――重い。

 短剣にも関わらず、予想以上の重さを感じる事にトーマスは驚く。

 

 

 トーマスは驚きを一瞬の内に引っ込め、空いた右拳を打ち上げるように振るう。しかし後ろに跳ぶことで避けられ、拳はフードをかすることしかできなかった。

 

 

「――なっ!」

 

 

 拳により顕になった素顔、トーマスははそれを見て思わず声を上げる。

 なぜなら、その瞳は金色だったからだ。

 トーマスと同じ、白眼がない金眼。

 

 

 ――そう、彼は竜人だったのだ。

 

 

 

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