27.烏賊
二話更新です。前に一話あります。
ーー何か無性に帰りたくなってきた。理由は特にないが。
船の甲板から何気無しに外を眺めていたトーマスは、脈絡もなくそう思った。
「トーマスさーん! 何してるんですか?」
不意にトーマスに向け、声がかけられる。
トーマスが振り返った先には、美少女ーーにみえる少年がいた。
「なんで僕に会う度に微妙な顔するんですか?」
「……いや」
トーマスは、――付いてるのか? と思っていたが、そんなことは言えるわけがなかった。
声をかけた彼はルイス・ブホルといって、冒険者兼商人をしている少年だった。
なぜ兼業なのかというと“なんでもいざという時は自分で仕入れる――まさに最高の組み合わせですよ”、と本人はいっている。しょうもない理由だな、とトーマスは思っていたが。
「それより森なんて見てどうしたんですか?」
運河の周りは1面が森林であり、まるで樹海だ。
ーー代わり映えのない風景など見て楽しいのか、ルイスはそう思ったのだろう。
「なんでこの国で陸路の旅は勧められていないのだ?」
「えっ? なんでって言っても……――烏賊がいるからですよ?」
「烏賊?」
えっ? 烏賊!?
トーマスが内心で驚いた瞬間。突如森から轟音が鳴り響き、木々が宙に舞った。
「あっ、トーマスさんほら烏賊ですよ」
ルイスはそう言って指を指した。トーマスが視線を向けると。
そこにはーー。
「ギュゥアアアアアアアアア!」
触手を振り回し、木々を吹き飛ばす巨大な烏賊がいるのだった。
「僕達運がいいですね。“テラスクイド”を見ることができるなんて」
「あいつの名前か?」
「はい。トーマスさんは知らないみたいですけど、この周辺の森にはテラスクイドという烏賊がいるんですよ」
そうルイスが言うと共に、森から巨大な影が飛び出てくる。
硬質な鱗に包まれた躰。力強く羽ばたく翼。
最下級の竜種、ワイバーンだった。
「おお! 今日の獲物はワイバーンですか! なかなか大物狙いの烏賊ですね」
ルイスは脳天気にいう。トーマスは最下級とはいえドラゴンが烏賊に食べられる光景を、釈然としない顔で見ていた。
トーマスの視線の先には、烏賊の触手がまるで槍の如くワイバーンへ向かっている。
しかしワイバーンは口から火炎放射器のように、炎のブレスを放つ。
炎に包まれ炭化するかと思われたが、表面に何か防護膜でもあったのか、勢いを緩めずワイバーンを貫いた。
「まさかブレスを食らって無傷なんて……あの烏賊かなり強いですね」
ーーいやそりゃワイバーンに勝つんだったら、強いだろうよ……。
トーマスは半ば投槍気味にそう思った。
「まあ、あの通り。烏賊がいるので、陸路つまり森は使えないんですよ」
「……理解した」
「あれ?なんで疲れた顔してるんですか?」
なんでもないさ。トーマスはそう返して、彼は自分の船室へ戻っていった。
ドラゴンへの憧れを崩されたトーマスは、自室でふて寝をしていた。
思考を打ち切り本格的に睡眠へ入ろうとした時。
「トーマスさーん」
ノックの音と共に、扉の向こうからルイスの声が聞こえてきた。
「なんだ」
「伝え忘れてたんですけど、トーマスさんは教国に行きたいんですよね?」
「そうだが?」
「なら、この先の港で降りずにずっと先に行ったほうが早いですよ」
ルイスが言うには、フスハイムにある港で降りずに、そのまま乗り続ければ教国に入るらしい。
実はその方が金も安く済み、余計な出費を抑えられるのだ。
「しかし、私が聞いた話だとみんな次で降りると言ってたぞ?」
「ああ、それはですね」
みんな教国には行きたくないからですよ。そうルイスは呟いた。
教国が信仰する宗教の教えを守る人は多いが、本拠地である教国を好む人間は少ないのだ。
「なのでみんな降りてくんですよね―」
「ルイスも次で降りるのか?」
「ああ、そうですよ?」
短い間であろうと仲良くなれた知人との別れは少し悲しくあり、トーマスは少し感傷的になる。
ーーまあこの人との別れや出会いも、旅の醍醐味の1つなんだろう。
そうおもったトーマスであった。
「ちょ!何辛気臭くなってるんですか!まだまだ時間はあるんですよ!?」
遠くを見だしたトーマスに、ルイスからツッコミが入る。
「そうだな。とりあえず酒でも飲むか?」
「いいですね!早速もらってきますね!」
そしてその日、トーマスはルイスと飲み明かしたのだった。
ーー朝、横で半裸のルイスが寝ていた時は変な汗が流れ出たが。
トーマスは後に語った。
感想返しはする事にしました。




