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3. 城と騎士



アルブヘイム中心に位置する巨大な城。

荘厳な外観の城は、重々しい圧力を放つ城壁に囲まれており、来るもの全てを拒絶するかの様だった。



絶え間無く鳴り続ける雨音は、不思議と五月蝿さを感じることはなく。ただただ静かな雨が降っている。

空は分厚い雲におおわれ、時々光る稲光がなければ雨粒が見えないほどに暗く。視界を闇が覆い隠しているのかと錯覚するほどだ。



城門へと続く階段。そこに1人の男が立っていた。



その男を一言で表すなら、正に騎士だろう。

その頭部を覆うアーメットヘルムは鈍色に光っていて、雨に濡れ何処か艶かしい。

暗い紺色のサーコートには細かい刺繍が施されており、鎧の意匠と合わさり高級感を醸し出している。



男――トーマスは城門を目の前に戸惑っていた。




なぜなら目の前にある城、それはBH内で”ラスボス城”などと呼ばれている所で。

要するに某正統派RPGで言う、魔王の城であった。




トーマスが唖然と呟く。



「いきなり……最終決戦か?」



彼はゲームの様にスタート地点から始まると思っていたのだ。

別にいきなりラスボスだからといってなにか問題があるわけでもない。が、出鼻を挫かれたような気がし、どうも釈然としないのであった。



トーマスが兜の下で微妙な顔をしていると、ガチャガチャと金属が擦れ合う音が聞こえてくる。



そちらへ目を向けると、城門の横から鎧を着込んだ剣士、【王国剣士】と呼ばれる敵が現れた。

数は三人。チェインメイルの上からベストの様な板金鎧を着込んでいる。

武器はフランベルジュ――火炎形刃と言う波打つ刀身が特徴的な大剣を持っており、それ以外には何も持っていなかった、おそらく、それが剣士と呼ばれる所以なのだろう。




――どこから始まろうと、使命を果たせばいいだけか。



トーマスはそう思い直し、ストレージから戦鎚を取り出す。

鎚頭とピックが一体となっており、トーマスがゲーム時代に愛用した武器の1つだ。



トーマスは残り僅かな剣士との距離を一歩で縮め、剣士の頭へと戦鎚を振るう。

戦鎚は剣士の頭を捉え――そしてなんの抵抗もなく頭を爆散させた。



トーマスは驚き足を止めるが、気を取り直し再び戦鎚を振るう。

今度は二人巻き込むようにと振るった戦鎚は、当然かのように剣士2人の体を吹き飛ばした。



司令塔を失った躰は、重力に従い倒れていく。バシャッ、と音がなる。




BH内でのステータスは6つ。ステータスの上げ方も特殊で、レベルが上がるごとにもらえるポイント、それを使い、上げるのだ。

体力、耐久力、筋力、器用、魔力、精神とくる。この中で攻撃に関係あるのは、後半の4つだ。

筋力はそのまま。器用は別名技量とも呼ばれていて、一癖ある武器などを使うとき必要だ。この2つは近接系と呼ばれている。

ほか2つの魔力、精神は魔法使いや聖職者などの”魔法”を使う魔法職が上げるステータスだ。魔力は“魔術”の威力に関係していて、精神は“御業”の威力に関係している。

そして“魔法”は2つだけではなく、“呪術”や“属性魔術”、そして“邪道”というものがある。この3つは、魔力、精神どちらも必要としていて、純魔、純聖と呼ばれるタイプ以外は大体どちらも上げる。

魔術は人が作ったもの、御業は宗教家が神から授かったもの、呪術は土着の民族に伝わる技、属性魔術は人と亜種族の合同で、邪道は邪教徒と狂人の合作、と言う設定だ。

実際には、魔術剣士や鈍器使いの聖職者、などどちらも上げると言うタイプもいるから決まった定形がなく、その自由度も売りの1つだった。



1つのステータスが全てではなく、体力と筋力で所持重量が上がり、器用と精神で詠唱速度が上がる。

そんなように、ステータスの組み合わせで、細かい隠しステータスが決まったりもする。

その中には、身のこなし、落下威力軽減、敏捷、怯むか怯まないか、などがあった。



トーマスのステータス、特に彼の筋力と器用の値はBH内でトップクラスと言えるだろう。



魔法を禁じ近接一辺倒の戦闘スタイル。基本ステータスを限りなく削り、攻撃ステータスへと全て()ぎ込んだ。

そうしてできたPC――トーマスは無双とも言える強さだった。

それに、トップランカーの中(・・・・・・・・・)で基本ステータスが低めというだけで、普通の人間よりは十分に高い。

現実となった今人外以外の何物でもないだろう。



近接特化でありながら、トッププレイヤーの中でも上位でいたのはトーマス自身の腕が良かったからだ。

近接特化の弱点をPS――プレイヤースキル、で潰し、距離を詰め、特化ならではの火力で一撃必殺とも言える一撃を放つ。



なにより、トーマスの特徴はロールプレイスタイルにあるだろう。

防具は【最上級騎士】呼ばれるものに限り、武器も凡そ”騎士”が装備すると考えられるものに限る。

PKは一切せず。PKKを逆にするほどだった。

理想の騎士像に在るように、正義、誠実、敬虔、勇敢で高潔、弱者を守り紳士的、慈悲深い――騎士の十戒に在るようにした。



ゲームなのに堅苦しいと思うが、トーマスはゲームであろうと他人の目が気になるタイプの人間だった。



故に付いた渾名はただ【騎士】。



ちなみに主人を亡くして放浪していると言う設定だったのはトーマス自身の秘密である。




――――――――――

【name】 【騎士】(ガウデンテ) トーマス

【rank】   ???

【bace】   人族

【state】   正常

――――――――――




――夜が明ける前に”城”を終わらせよう。



そんなことを思いながら、騎士は城門を開け、城の最上階――【謁見の間】へと向かった。






▼▼▼






見上げるほどに大きい扉、【謁見の間】の扉である。

トーマスは両手を押し出すようにして扉を開ける。



【謁見の間】の奥に位置する玉座、背後のスタンドガラスにより幻想的に照らされている、そこに1人の男が座っていた。

荒々しく撫で付けられた髪の毛、蓄えられた口髭、肘をつき此方を見据える姿は正に老王といえる風格を持っていたことだろう。



――全裸の亡者じゃなければ。



髪や髭は艶を失い、目は焦点があっておらず虚ろだ。肌は蒼白をこえ所々変色しており、照らされる光によりカラフルだ。けれど決して綺麗ではなく万人が嫌悪感を抱く様な配色をしている。



不意に王が立ち上がる。その手には装飾を凝らし一目で高級品とわかる1本の剣を持っていた。

しかしそれを構えることすらせず、引き摺るようにして歩いてくる。



中心まで歩いた王は突然立ち止まり、大きく口を開けた。



――直後、轟くような雄叫び。



白目を剥き、涎をまき散らしながら叫ぶ。その声には理性の欠片も感じられず王がもはや人ではなく獣だと証明するようだった。



獣へと成り下がった王は叫ぶ、その姿は縄張りを守る獅子のようであり、そして狂獣でもあった。




――――――――――

【name】 【裸の王様】(レー・ビオット) オズワルド王

【rank】   ???

【bace】   巨人族

【state】   亡者

――――――――――






▼▼▼






ラスボス、オズワルドは正直言うならばあまり強くない。

一撃で死ぬ高い攻撃力、緩急の着いた動き、防御力が高く体力を削り切るには時間がかかる。

……と、ここまで聞くと強そうに聞こえるが、全部対策されているのだ。

攻撃は当たらなければいい、動きは慣れれば容易いし、防御力は厄介だがココはゲームとは違う。

HPはあってないようなものだ。



なぜなら頭を潰すか、心臓を突けばHPは0になるのだから。



そんな事を考えながらトーマスは、戦鎚を倒れ伏すオズワルドの頭に向け振り下ろした。

戦鎚は頭を粉砕し、その下にある床に罅を入れる。

その腐りかけの体を2度ほど跳ねさせかと思うと、それっきり動かなくなった。




彼が何をしたかというと、入ると同時にオズワルドに接近し、両膝へ向け戦鎚を振るったのだ。

戦鎚は膝を砕くどころか、足を引き千切り、両足を失ったオズワルドは地面に倒れ伏した。

後はまな板の鯛よろしく、オズワルドを調理しただけである。



ゲームではHPを無くしてこその勝利だった。逆に無くなるまで此方を襲い続けるのだ。

しかし現実となった今、頭や心臓、つまり急所を突けば勝てる。

ゲームとは違い躰が脆いモンスター、そしてもはや怪力と言える強力無比なトーマスの筋力。




――この仕事、もしかした予想以上に早く終わるかもな……。



トーマスはそんな事を思った。


しかしそれは1種のフラグとなり、彼の運命は最悪(・・・・)な方向に進むこととなる。




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