25.学園
「ここが“学園"か……」
トーマスの前方には、広大な敷地、煌びやかな庭園、厳粛な学び舎。
『フィン・マグナ・ミンスター総合学園』、俗に学園と呼ばれている立派な学園があった。
アルムント4大学校の1つにも数えれているこの学園は、所謂マンモス校と言うものである。その学習コースは多岐にわたり、それぞれに数百数千と言った生徒を抱えている。学園都市中の生徒の約8割がこの学校の生徒じゃないか──そんな都市伝説じみたものまであるようだ。
「いい学校だといいな」
「……うん」
隣に居るリーンデルトへ問いかければ、相変わらずの様子で返してくる。
けれど、変わらないように見えるが、その眼には少し期待の色が浮かんでいた。
屈強な門番に聞いた通り受付まで行き、入園方法を聞く。意外にも簡単で、書類を出せばそれで終わりというものだった。
「入園にあたり、事前に見学ができますが、どうしますか?」
「もちろん頼む」
「かしこまりました」
見学を示すネームプレートを貰い、リーンデルトを連れ校舎を回る。
「学園長あたりが何かやってくれないかしら、騎士なんて帰ってしまえばいいのにね」
立ち去る寸前、トーマスの耳にはっきりと、受付嬢の会話が入ってきた。
正装と言うことで、何故かトーマスは鎧を着てきたせいであった。
慌てていたので、騎士の印象が悪いと言うことが、頭から抜けていたらしい。
今更ながらに後悔するのであった。
しばらく校舎をまわり、後は運動場を残すだけとなった。トーマスは窓から運動場を覗くと、丁度そこにはキャスカとシャロンが居るのだった。
──これは丁度いい。
そう思ったトーマスは、真っ先に運動場へ足を向けた。
▼▼▼
剥き出しの地面、所々に舗装された跡がある。そこに、40人の生徒が居た。
「ハハハ!俺はLanceが使えるようになったんだ!」
「さすがです!」
「凄いです!ケニス様!」
運動場の一角、数人の生徒に囲まれた金髪の少年。彼は光を纏う髪を、キザったらしく揺らし、周囲の生徒へ自慢をはじめる。
その様子を、キャスカは呆れた様子で見ていた。
ケニスという少年は、周りの様子から分かるように、大貴族だ。故に今取り巻きがしている通り、おべっかしか言わないのだ。
そして短くない期間、クラスが一緒だったキャスカには分かるのだ。
彼がこの後、どうするのかが。
「ハハハ!見せてあげるよ!僕の魔術を!」
「ぜひ!」
──ほらやっぱり。
周りに煽てられ、後先考えずに自分を誇示し始めるのだ。
どんな危険行為も、教師は家の権威を恐れ注意もしない。だから本人にその気はなくても、周りがどんどん増長するのだ。
「いくぞ!|Lance Ignis《炎の槍》!」
その声と共に、彼の頭から1m程先に炎の塊が現れる。槍の穂先に似た形をしており、先端は鋭く後ろに向け段々と太くなっている。
──あの馬鹿っ。
まさか的の人形もないのに打つとは思わなかった。キャスカは急いで、向かうであろう所へ視線を向ける。
信じられない事に向かう先は校舎。けれど校舎中や、その付近にも人影はなく、キャスカはホッと息を吐く。
人が傷つく事がなければ、校舎の事などどうでもいいのだ。
──精々賠償金が重なって、家が傾けばいいわ。
「いけっ!」
その声と共に、炎の槍は校舎へと飛んでいく。
その瞬間、運の悪いことに少女が出てきた。
これには、キャスカだけではなく、その場にいた全員が驚く。
──当たる。
そう思った瞬間に、着弾。土煙をあげ、轟音が鳴り響く。
顔をそむける者、天を仰ぐ者。全員が少女が無事であるとは思っていなく、突然起こった悲劇に対し様々な反応をした。
しかし意外な事に、土煙の晴れた先に立っていたのは──。
──鈍色の騎士。トーマスだった。
ホッと胸をなでおろし、少女の無事を喜ぶ生徒達に、突如悪寒が走る。
ゾッとするような、冷たい殺気。鋭く刺すようでありながら、全て押しつぶすかのごとく重苦しかった。
発生源はトーマス。
トーマスは、この世界に来て初めて──。
──激怒していた。
「ひっ」
温室育ちとも言える貴族の長男は、初めて当てられた濃密な殺気により、一種の錯乱状態になった。
そんな状態の彼がした行動は、頭を下げ許しを請うことでもなく、背を向け逃げ出すことでもなく──。
「や、やめろ!来るなああああ!」
──攻撃だった。
足を踏み出したトーマスに向け、|Lance Ignis《炎の槍》を放つ。
大貴族の息子だけあり、無詠唱での魔法を可能としていた。
この世界において、血筋というものは大きな意味を持つ。
1部の突然変異とも言える者達を除いて、特殊な能力や魔素保有料、戦闘センスや身体能力。すべてが遺伝するのだ。
王族や皇族、貴族など全てが高い戦闘能力を持っている。
ケニスという少年も、例外ではなかった。
形が不揃いな炎の塊が、トーマスへ次々と炸裂する。正常な状態で放たれたものではないので、大小様々な原型を止めていないものまである。
しかしその威力は十分であった。
鎧を弾け飛ばし、肉を焼き蒸発させる。
トーマスは敢えてそれを受け、前進する。
「なっ、なんで──」
猛攻がやみ、土煙が晴れる間を待つまでもなく、突進する。
剣を抜かないほどの冷静さはあるのか、その拳でケニスを殴り飛ばした。
「ぎゃっ──」
情けない声を出し、彼は2mほど飛ばされ、地面へ沈んだ。
静まり返った広場。誰も口を開こうともせず、ただ戦いを見ていた。
「はいそこまで」
その空気を破ったのは1人の少女だった。
一言で言えば素朴。長い金髪を1纏めにしており、特に装飾もないエプロンドレスを着ていた。
「ケニス君には追って処罰を言い渡します。あなたは、──一緒に来て頂きますね?」
妙に圧力を感じる笑顔で、少女はトーマスに言い放った。
▼▼▼
「あなたに非はないことはわかります。けれど相手は貴族なんです。同校の生徒ならばまだどうにか出来ましたが、あなたは部外者です。少し面倒なことになりますよ?そもそも大人ならば、いきなり相手を威圧するなんて短慮な行動は慎んで下さい。自分より年下の、さらに子供を脅すなんて大人としてどうかと思いますよ?更に──」
「はぁ……」
学園長と名乗る少女。彼女に連れられた、学園長室でトーマスは叱られていた。
精神的な強さに自信があるトーマスでも、何時間も捲し立てられるのには無理があったようだ。
結局、彼女の説教が終わったのは、更に数十分過ぎた頃だった。
説教の話をまとめるならば、要するに貴族への対応に関してどうするかだった。
この学校では、同じ学び舎に通う生徒に貴賎はないとされ、身分や人種などは無いものとされている。それもまだ完全とは言えないが。
しかし今回は違う。貴族と問題を起こしたのは部外者であるトーマスだ。報復や処罰等、庇いきれないと彼女は言った。
「それに、あなたの娘さんのこともあるわ。あなたは大丈夫でも、あの子まで無事とは限らないのよ?」
そう言われ、今回の事で考えが完全に足りなかったと、トーマスは思った。
「あの子のことは、私が面倒を見るわ」
「──……なに?」
しかし、その言葉は、トーマスにとって完全に予想外だった。
「私に早々手を出すことも出来ないし、あなたはさっさとこの都市を出るなりしなさい」
「しかし……」
「私は大丈夫よ。それに私は学園長よ?子供の教育のことはなんでもわかるわ」
そう、学園長と名乗る少女は言い放つ。
確かに、学園長と言うくらいなのだから、身元などの心配はない。子供のための学校をわざわざ経営しているのだ、リーンデルトのことも大丈夫だろう。元々寮制の学園にいれて、自分は教国に行くつもりだったのだ。
むしろ願ったり叶ったりではないか。
「学園長!是非お願いする」
「あら簡単に了承するのね」
「元々自分には用があったものでな」
「そう……まあ別に詮索はしないわ」
実際に、心底興味がないのだろう。どうでも良さそうに自分の髪を撫でていた。
「そうと決まったら。あの子にお別れの挨拶でもしたら?」
その言葉と共に、学園長室へ若い女に連れられたリーンデルトが入ってくる。
「リーンデルト。前に言ったよな?私は用があるから、お前を学園に入れたら少し出かけるって」
「……うん」
「それが少し早まってな。だからすぐ出なきゃいけないんだ。その間、あの人──ママが面倒見てくれるからな?」
「ま、ままま、ママ!?」
トーマスが何気なしに放った言葉に、学園長と呼ばれる少女は顔を真っ赤に染めた。
「……ママ?」
「え!?あ、うん。ま、ママよ?」
無表情な顔で見上げるリーンデルトに、慌てて学園長は優しげな笑顔で返事をする。
その様子をトーマスは、微笑ましげな笑顔で眺めていた。
数日後にはトーマスはアルムントを出て、フスハイムへと旅立つのだった。
大幅な改稿をしようと思います。
なのでさらに更新が遅くなるのと、話が大幅に変わるかもしれません。
読者の方々には迷惑をかけますが、今後ともぜひ宜しくお願いします。




