21.オリヴィア・ヘルカイト
――オリヴィア・ヘルカイトは天才である。
成人と同時に、ヴェンツェル自由都市連合特別監査院への所属を果たし、最年少の監査官として、その名を各都市へ轟かせた。
ここ1年であげた功績は数しれず、本人の希望による学園への入学が無ければ、さらなる昇進があったと言われている。
学園の成績は大変優秀。実技なども、戦士職や魔法職には負けるが、事務職の中ではトップと言える成績を収めている。
踝まである総髪――ポニーテールは、煌めく金髪。翠瞳は釣り目になっており、整った顔つきと合わせて、少し気が強そうに見える。
背は小さいが、その体は出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでおり、男女の視線を釘付けにするのだった。
なにより、彼女の特徴はその“特殊能力だ"。
その名を『洞観の翠眼』または『看破の邪眼』と呼ばれていた。
能力は単純だ。ただ――。
――嘘を見抜く。
それだけだ。しかし、監査官にとっては、かけがえのない力となる。
『嘘発見機のオリビア』
彼女はその学生としての休暇を、不本意ながら仕事に費やしていた。
▼▼▼
「あーーー!最悪!」
そう言い、オリヴィアは地団駄を踏む。
何がオリヴィアを不機嫌にさせているのか、折角の休暇が仕事で潰れてしまったこと、もあるが。なによりも、この街に起きてる事件が彼女を不機嫌にさせていた。
「なによ、“貴族の捕縛"って!こんなの私の仕事じゃないじゃない!監査官よ!監、査、官!」
そうブツブツいいながら、荒々しく街道を歩く。
――そもそもの原因は。
そう思ったオリヴィアは、斜め後ろを見る。
そこには、1人の青年がいるのだった。
大方コイツがいるから、この仕事が回ってきたのだろう。
嘘を見抜けるからこの仕事に適任、なんてものは建前に違いない。今迄証拠を掴んでから逮捕なんて、まどろっこしいことをやったのを見たことがない。要するにこの男を使って、さっさと貴族を、捕まえるか――。
「――殺せってことね……」
「ちょっ!物騒だぞ!?」
オリヴィアから漏れた声を聞き、青年――アルとオリヴィアから呼ばれている――男は慌てる。
「そんなことはどうでもいいわ。さっさと対象の事を教えなさい!」
「はいはい。貴族の名前は『ディアゴ・スティー二』。帝国出身で、罪状は近隣市民の誘拐だ」
「うえぇ、帝国の変態貴族ぅー!?最悪!」
「切っちまえば同じだな」
「……物騒なのはどっちよ!」
真顔で言い放つアルに、オリヴィアは突っ込む。
「って言うか誘拐って何さらったのよ」
「ある一家の……妻と長女と次女らしい。長男は無事らしい」
「……益々行きたくなくなったわ」
「まあ、証拠になりそうな質問して、さっさとやっちまおう」
「……はあぁ」
溜息を吐き、若干肩を落としながらオリヴィアは歩く。反対にアルは嬉しそうだ。何を隠そうこの仕事で最後だ。心の中で、子守もこれで終わりだ。と聞かれたら怒られそうなことを、思っていた。
「そういえば、その貴族の家にはいつ頃行くんだ?」
「夜中よ」
「そりゃまたなんで?」
そう問いかけるアルに、自信満々の顔でオリヴィアは答える。
「――ヤってる最中なら、動揺するでしょ?」
それに現行犯のほうが都合がいいわ、と涼しげに言い放つオリヴィア。
「……はは。いい趣味してるよ」
仕事前にお淑やかな御令嬢を、期待してたアルは、“仕事が始まってから、何回期待を裏切られただろう"
そんな益もないことを、考えていた。
▼▼▼
「――ほら、明かりがついてるわ」
「……あぁ、そうだな」
「これはナイスタイミングって奴ね」
そう言い、喜々として扉を開ける。
(……なんで門番がいねぇんだ?)
アルはそう思い、オリヴィアへ伝える。
「なんかおかしいぞ!警戒しろ!」
「おかしいって……なにが?」
そう言うと共に、2階から戦闘音が聞こえてくる。
「――ッアル!」
「わかってる!走るぞ!」
そう言うと共に、2人は走り出した。
使用人を押しのけ、件の部屋へ辿りついた彼らが見たものは、4人の少女、1人の怪しい男。
そして――。
――3人分の死体だった。
「――っ!」
「オリヴィア!下がってろ!」
オリヴィアを隠す様にアルが前に出る。
2人は油断なくトーマスを見据え、トーマスは無言で2人へ視線を向ける。
最初に口を開いたのは、オリヴィアだった。
「貴方は……何者かしら?」
「……そうだな。暗殺者、かな?」
「そう」
オリヴィアは能力で、嘘ではないとわかった。
もっと核心に迫る様な質問を――。
そしてオリヴィアは気づいた。声音、そして体格に見覚えがあることを。
「……そう……あれは、今日の……ひる?」
昼間、私を見ていた男。
――あの外套のオトコだ。
「――もう一つ聞いていい?貴方は……冒険者?」
オリヴィアの問、それにトーマスは――。
「いいや?」
――否定で答える。
それと同時にオリヴィアは確信した。
この男は昼間に見た男だと。
「アル、もういいわ」
「はいよっ!」
そう答えると、アルはトーマスへ切りかかる。
しかし、その一撃はトーマスのフードを切り裂くにとどまる。
だが、確かにオリヴィアは見たのだ。
――そのフードから、赤と金の眼光が覗くのを。
そういえば、ブクマが40を超えていました!
嬉しい限りです。




