20. イブラント-2
クリスマス……僕はアサクリして過ごしましたね
アサクリとメリクリかけてるわけじゃありませんよ?
冒険者ギルドではお決まりのイベントもなく、聞いた宿へ部屋を取りに行く。
宿の名前は、『金の蛙亭』と言う名前らしい。商人がよく来る街なので、ゲン担ぎとしてこの名前にしたらしいが、飯の味付けが冒険者にあったらしく、今じゃ冒険者御用達のお店らしい。
女将はふくよかな女性……ではなく、グラマラスなお姉さんだった。
女将が怪我をし、急遽変わったらしい。部屋便号を聞き、荷物を部屋に置く。
そして獣舎に預けた馬の様子を見に行こうと、宿を出た時だった。
突然足にすがりつく男がいたのだ。
服や顔が砂で汚れるのも構わず、路行く人の脚にすがりついている。
すげなく断られ、次に男がすがりついたのは――。
「すみません!冒険者の方ですよね!?依頼があるんです!助けてください!」
――俺だった。
「……なるほど。つまり貴族の魔の手から、家族を救い出して欲しいと?」
「は、はい!その通りです!」
男――ラスクの依頼は、なかなか酷いものだった。
事の発端は、一昨日に遡るという。
その日は家族で街に買い出しへ出かけていたという、すると突然馬車が来たというのだ。
その中から、“帝国"の貴族を名乗る“豚"が出てきたというのだ。
ちなみに、名前を出すと面倒なことが起こるかもしれないので、豚と言うのは隠語だ。隠すためであって特に意味はない。繰り返す、意味はない。
その豚が彼の母、姉、妹を気に入ったらしく、是非欲しいと言い出したらしい。
断り続けた次の日、突然攫われたそうだ。
「おねがいします!攫った男が貴族の近くにいるのを見たんです!あいつなんです、家族を助けてください!」
「うーむ」
助けるのはいいのだが、助けるにはやはり夜中に忍び込む必要がある。
昼間に真正面など、明らかに目立つ。目的を果たすまで余計なことはできないからな。
……うーむ。しばらく考える、すると閃いた。
この作戦なら、俺がやったことはバレないし、もし指名手配とかされても問題はない。
「――私は手伝うことはできないが、人を紹介しよう」
「そんな……って紹介ですか?」
「ああ。こちらから連絡はしとくから、今日の夜中に大通りの噴水に来てくれ」
ラスクは少し不安げだが、他に頼めるものもいないのだろう。分かりました、と頷くのだった。
夜の噴水。
月に照らされ、水面がキラキラと輝いている。
噴水前に
1人の男が人を待っていた。
男はラスクである。不安げに周りを見回している。
突然、闇の中から男が現れる。紺の外套で、頭から踝までをすっぽりと覆い、月明かりがなければその姿は見えないだろう。
「話は聞いた、依頼はどうする?」
男はラスクに向け、そう問いかける。
少し怯んだ様子のラスクは覚悟を決めたのか、お願いします、と静かに答えるのだった。
トーマスから紹介されたという男、何を隠そうトーマス本人である。
この姿は、トーマスのロールプレイの1つ。
黒革装備と言われるものだ、協力プレイによる、人との煩わしさが限界に達したとき、彼はこれでひたすらPKをしていたのだ。
人の嫌がらせ、罠にはめる、背後からの奇襲。正に盗賊や暗殺者である。
トーマスはゲーム自体から愛用している、黒塗りの艶消しナイフを腰にさし、対象の邸へと侵入を果たす。
目指すは明かりの灯った部屋。
あの手の貴族が、夜中に楽しむことなど決まっている。
――間に合うといいが。
そんなことを思いながら、トーマスは壁を伝い、窓へ接近する。
中には、4人の少女とそれに近づく1人の“豚"がいた。
肥え太った体、鼻息は荒く汗でギトギトだ。
まさに豚であった。トーマスも前もってオークを見てなければ、誤って討伐してしまったかもしれない。
トーマスは音も立てずに窓を開け、部屋に侵入する。
そして、貴族の男を殴り飛ばした。
男は吹っ飛び、壁に勢い良く叩きつけられた。
ちなみにトーマスは、殴る時の力は手加減している。力を込めれば、これで男を仕留められたが、流石に少女達の前では自重したのだろう。
叩きつけられた男は、懐から宝石のよう何かを、取り出しながら立ち上がる。
「侵入者だ!早く来い!」
そう怒声を上げ、トーマスを睨み付ける。
「貴様何者だ!私が誰だかわかっているのか!?」
「……何者かは知らないが」
「……チッ、誰に雇われた?」
「それは言えないな」
トーマスと男が会話をしていると、扉の向こうから足音が聞こえ、扉があいた。
扉の向こうから現れたのは、二人組の男女だった。どちらもスタンダートな革鎧を着込み、どちらも長剣を腰に差している。男の持つ剣の方が、やや幅広だろうか。
「侵入者ってのは、そいつか?」
「見りゃわかんでしょ?バカなの?」
そう軽口を叩きあっている。女は心底呆れたような顔をしているが。
「そうだ!殺せ!」
貴族の男がそう叫ぶと同時に、男の姿が消えた。
そして次の瞬間。
トーマスの背後にある壁は切り刻まれ、トーマスはその向こうへ吹き飛ばされていた。
「あいつが行ってるんだ。もうすぐ相手も死ぬだろうさ」
「そうでなければ、お前らを雇った意味が無いではないか」
女と男貴族は、もう既に終わったものと話し合う。
貴族は少女たちの方へ、好色を顔に浮かばせながら向かう。
「まだ終わってないのに盛んなことだね。私だっているのにさ」
「他の奴に見せつけながらヤルのも、またいい物だろう?」
「……はぁ、ホントいい趣味してるよ」
女はそうため息を吐いたかと思うと、気配を感じたのか、崩れた壁へ視線を向ける。
「終わったのかい?」
闇に浮かび上がる相方の姿。
しかし明かりに照らされたそれは――。
「――お前らの敗因は、2人で係らなかった所だ」
――血に塗れていた。
「おまえっ!」
「相手も力量もわからない。そこが二流なんだ」
そういうと同時に、トーマスはするどい踏み込みを見せる。
懐に入ると同時にナイフを一閃。
しかし、それは女の剣により防がれる。
トーマスは防がれることを予見していたのか、素早く前蹴りを放つ。
女はこれに反応できず、壁に打ち付けられた。
「――っあぁ!」
「……じゃあな」
首めがけて放たれた、ナイフの一撃。
女はこれに反応できず、頚動脈を切られ、息絶えた。
「――っひいぃ!」
雇っていた冒険者が死んだせいか、貴族の男は情けない悲鳴をあげ、尻餅をつく。
「た、たすけてくれ!金は出す!」
脂汗を飛ばし、命乞いをする。
しかしトーマスはそれに答えず、ただ無言で近付く。
「か、金ならいくらでも出すぞ!?だ、だから、助けてく――」
言葉を最後まで聞かず、トーマスはナイフを振り切る。
男の首は見事に切断され、宙を舞う。
一時遅れ、噴水の如く血が噴き出した。




