20.イブラント-1
満月の光が降り注ぐ都市。
時刻は既に深夜と、言えるほどに過ぎており、都市を彩る光は、月明かりと星の光のみとなっていた。
そんな寝静まった街を、1つの影が疾走していた。
その影は、時に壁をつたい、屋根を跳び、空を舞う。
街道を走る速さは、影の輪郭を掴ませないほどに、速かった。
――影。それは1人の男だった。
頭から足首までを、隙間なく覆う紺色の外套で身を包む。
フードで隠された顔は、更に下半分を覆う黒革のマスクにより、男の人相を完全に隠していた。
外套の下は黒染めの革鎧。動きを阻害しないように作られており、つや消しされた金属部は最小限に抑えられていた。
盗賊だと、見るからに分かるような、格好だった。
不意に男が立ち止まる。
視線の先には、1軒の邸があった。
上級階級の者が住むような、立派な建物。
夜の帳に覆われた、街の様子と違い、邸の1部屋には、灯りがついていた。
男はフードの下の、|赤と金の眼をより一層光らせ《・・・・・・・・・・・・・》、大きく跳び、屋敷へ侵入していくのだった。
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トーマス、こと俺は灰毛の馬『カイ』――名前を付けた――に跨り、山道を通っていた。
因みに、もう1頭の名前は『ブチ』である。
どちらも名前の由来は単純なものだ。
この山を越えれば、2個目の中継都市“イブラント"につく。
前の中継都市でも、散々な事があった。騎士と言うものは、やはり人受けはあまりいいものではなく、あの目は精神的にまいる。
冒険者の受けも良くないしな。
そんなことを考えていると、山の頂上についたらしく、眼下に街が見えた。
“中継都市"と言われているが、なかなか立派な物だ。
歳を囲う壁。大通りだろうか、人がごったがえしているのが見える。
そもそも、中継都市の名前の由来は、港町のフスハレと、内陸側の各都市を繋ぐために出来たからだ。
それぞれの街に、特産品があるらしい。
前回は楽しめなかったが、今回は楽しめるといいな。
そう思い、山を下りるため、馬を走らせた。
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この世界の検問と言うのは、良くある魔法によるものではない。
学園都市では、その様な研究もしているらしいが。
身分証明書を見て、荷物を検め、幾つか質問をして終わりだ。なので時間が凄くかかる。
だから祭りや行事など、人が集まる時期では、数日待つ事も珍しくはないらしい。
今回はそんなことはないが。
「次だ!そこのお前、フードを取れ!」
俺の番が来たようだ。
ちなみに、今の俺は鎧を着ていない。前回はわざわざ、近くに寄った時に着替えたのだが、その結果がアレだったのだ。
おじさんのライフはもう限界だよ……。
なので、買ってもらった服の上に、外套を羽織るだけの格好だ。
言われたとおりに、フードを取る。
なぜ晴れなのに、フードを被っていたかと言うと――。
「――ッ!」
「大変なものでな」
特殊な外見が目立つ――と言うのが理由だ。
どの街にも、“ならず者"というものは居るもので、前回ふと外してみると、途端に襲われたのでフードを被るようにしているのだ。
遅れた厨二病ではないのだ……。
「よし、通っていいぞ。……あと、頑張れよ」
テキパキと荷物を検めた憲兵が、そう励ましてくれる。
この外見は、忌み嫌われる物と聞いたが、この国ではみんな優しいものだ、まあそうでない者もいるのだが。
街の中で馬に乗るのは、流石にマナー違反だろう。そう思い馬を引いて歩く。
まず向かわなければいけないのは、冒険者ギルドだ。A級には報告義務と言うものがあり、冒険者ギルドがある街に着くたびに、報告をしなければならない。
しばらく歩いていると、前方から騒がしい声が聞こえてきた。騒音の元、それは二人組の少女と青年だった。
驚くことに、少女の方はスーツのようなものを着ていた。レディーススーツをキッチリと着こなしており、タイトスカートから覗く脚が眩しい。タイトスカートに浮かぶ尻も、いい物だ。
……オヤジくさい事を考えてしまった。
青年の方もスーツ、というわけではなく、普通の冒険者が着るような革鎧であった。ハードレザーアーマーと呼ばれる物だ。
見ていたのが悪かったのか、少女はその1房の髪を勢い良く振り、こちらの方へ振り向いた。
青年も若干厳しい目つきで、こちらを睨んでくる。
「すまない、騒がしかったものでな」
この様なときは、先に謝って先手をとるに限る。
見ていただけで、やましい事など何も考えていないのだから……たぶん。
「あんたは何者?」
「私は騎士。……と言いたいが、今はただの冒険者だ」
「……ふーん。嘘じゃないようね」
少女はそう言い、青年へ声をかける。気のせいだが目が光ったような気がした
「アル、警戒を解いていいわ」
「……わかった、オリヴィア」
そう言うと共に、空気が少し軽くなる。
恐らくこの青年は只者ではないのだろう。
「用が無いのなら、私は行かせてもらうよ」
返事がないので了承と取り、俺は冒険者ギルドに向かった。
それにしても、スーツがあると言うことは、俺以外の地球出身者が、居るとでも言うのだろうか……学園都市で調べてみるか。




