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17.猪頭対騎士戦

 家屋が吹き飛び、地面には亀裂が走る。

 壁は罅が入り、衝撃で地が揺れる。


 これらは全て、トーマス対ボアオークによる戦闘の余波であった。



 トーマスが斧を振り下ろせば、ボアオークは気にもせず突撃槍(ランス)を突き出す。

 トーマスの斧は肉に食い込み、血を滴らせる。

 しかし、その代償にトーマスは突撃槍に貫かれ、胴体に風穴を開ける。



 トーマスは致命傷を与えられず、ボアオークは致命傷を与えられる。



 第三者から見るのならば、トーマスは圧倒的不利だろう。

 しかし、トーマスは死なない(・・・・)のだ。体と鎧に開いていた風穴は、驚くべき速さで塞がっていくのだった。



 トーマスは無傷。一方ボアオークは細かいが傷を沢山負っているのだった。



 ――再び衝突。

 斧は猪の牙を切り飛ばし、顔に裂傷を負わせる。しかしボアオークは怯まず、速攻で完成させた突進(チャージ)を直撃させる。

 2・3軒程の家屋を吹き飛ばし、壁に突き刺さりようやく止まる。

 トーマスの右肩には突撃槍が突き刺さり、猪頭により胸が圧し潰されていた。


 

 トーマスは左腕を握り込み、猪頭を殴る。

 ボアオークは仰け反り、無防備な胴体にトーマスの前蹴りが食い込む。



 腕よりも強い力で、蹴り込まれたボアオークは、逆に吹き飛ばされ瓦礫に埋まった。



 ――ボアオークの反則なまでの防御力。それは魔法によるものであった。



 “魔法”それは魔物のだけが使うことの出来る物。

 魔術とは違い、使う者の感覚や想像力によって左右される。

 ボアオーク、彼の魔法はその豊富な体内魔素による身体強化と“硬質化”だ。

 身体強化は魔の理を習うものが最初に習うものであり。

 単純に体に魔素を巡らせ、身体能力全般を強化する物だ。

 “硬質化”これはボアオークの固有魔法だ。

 身体強化に似ているが、似ているのは皮膚や筋肉に魔素を入れるところまでだ。その後に魔素を凝縮、硬質化する。

 これによりトーマスでさえ、梃子摺る肉体強度が出来上がっていた。



 決定打を与えられない相手。それに対してトーマスが行ったのが。

 “魔法”の使用だった。勿論BH内での魔法である。

 しかし、トーマスは“近接特化”のPCだ。魔法は使えない。



 しかし、これには穴がある。

 威力を気にしない、又は威力が関係ない。そして魔法の使用に必要とされる能力値が無くとも使える魔法。



 ――その名を“呪術”と言った。



 そもそも、BH内での“魔法”を使うには、二つ条件がある。

 1つ目は記憶スロットと言われる魔法を記憶するための物に空きがあること。

 2つ目は必要能力値を満たしていること。“魔術なら魔力”“御業なら精神”“属性魔術と邪道は両方必要”となる。

 そして“呪術”は必要能力値がない唯一の“魔法”だった。



 トーマスは記憶スロットを特別な装飾品――指輪やピアス、ネックレスなど――で増やし、そして出来たスロットに呪術を仕込んでいたのだ。

 今回トーマスが使用した呪術は2つ。



 ――“鬼神降”と“金剛纏”だ。

 どちらもステータスを向上させる効果がある。前者は攻撃力を上げ、後者は防御力と筋力を上げる。

 デメリットとしては、HPが減っていく、スリップダメージ。敏捷が下がる。体重が重くなる。などがある。



 “対価を与えることで発揮する魔法”それが呪術だ。

 今回使ったのは効果が高いので、その分代償も大きいのだが。



 1度目の呪術を使う。

 ――視界が紅く染まり、筋肉が張り詰める。



 2度目の呪術を使う。

 ――体が固く、重くなる。しかし筋肉は更に張り詰める。



 石畳に罅が入る時の軽い音が足元から聞こえ、突撃槍が体重を支えきれなくなり、体が下にずり落ちる。



 突如瓦礫が弾け、中からボアオークが飛び出してくる。

 その勢いのままトーマスへ突撃をするが、トーマスはそれを受け止めるのであった。



 ボアオークに違和感が起こる。

 先程までとは明らかに違う敵の様子。

 頬に拳が入り、牙が砕け頭蓋骨に罅が入る。振りぬいた拳により再びボアオークは、家屋へ吹き飛ばされる。



 無視できないダメージが入ったことにより、ボアオークは気付いた。

 先程までと同じにかかっていたら、死ぬと。



 しかし不意にボアオークの視界が明るくなり、腹に熱が起こる。

 ――明るくなったのは攻撃による余波で、瓦礫が吹き飛んだからだった。



 ――では、腹の熱は?



 ボアオークが腹に視線を向けると、そこには1本の槍が突き刺さっていた。

 一瞬で覚り、槍を無視し起き上がろうとする。

 しかしそれは再び飛来した投槍により阻まれた。



 ――再び起きる赤熱。先程よりも早く痛みが走る。

 ボアオークの視界に満ちるのは、“焦り”。

 生まれながらの絶対強者であった、猪の王は、初めて焦りを知った。



 間髪入れずに飛んでくる無数の槍。

 腹、胸、腰、肩。頭に当たるが捻ることで致命傷はなんとか防ぐ。

 ようやく槍の雨が止んだ時、ボアオークは前衛芸術のようになっていた。

 ――満身創痍。正にそれである。



 トーマスはその重い体を動かし、ボアオークの所へ行く。



 ボアオークが最期に見た光景。それは人生最高の強敵が斧を振り下ろす姿であった。





▼▼▼





 トーマスがボアオークに止めを刺したちょうどその頃。

 崩された門付近では正に阿鼻叫喚の光景が広がっていた。



 オークが千切れ、吹き飛ぶ。1体として四肢が無事なオークはいなく、石畳はオークの血で染まり一敗塗地と言う有様であった。



 その惨状の原因は1人の老人。



 ――アーモスだった。



 もはやオークの血なのか、能力による変色なのか判らないほどで、体は熱を放ち、蒸気を発していた。



 「糞が!糞が!糞が!」



 汚く罵り、もはや息をしていないオークを肉塊に変える。

 地面に叩きつけ、何回も踏み締める。その度に石畳には亀裂が入り、遂には只の土へと変わる。



 死に体に些か過剰な暴力を振るったアーモスは、もう生きているオークは残っていないことに気付く。



 荒々しく舌打ちをし、次にアーモスが標的に定めたのは、瓦礫に埋まる比較的(・・・)損傷が少ないオークキングだった。


 一足跳びにオークキングへ近づき、瓦礫が崩れ破片が飛ぶのも構わずに、拳を叩きつける。

 瓦礫の山(・・・・)は標高を徐々に縮めていき、遂には更地へと変わる。



 アーモスは、勢い余って都市外へと飛んでいったオークキングだった物(・・・・・・・・・・)を追いかける。

 怒りがまだ治まらないのか、遠くまで響き渡る轟音が暫く鳴り続けていた。




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