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16.猪頭と騎士

 ボアオークの突進は完膚なきまでに門を破壊した。

 扉は粉々に砕け散り、それだけではなく壁の一部すらも崩した。



 門を突き破り、都市へ侵入したボアオーク

 急停止したボアオークは土煙を上げ、数メートルほど地面を削りようやく停止した。



 蒸気のように息を吐きだし、ゆっくりと面を上げる。

 都市を見回したボアオークの視界に入ったのは――非戦闘員、つまり女子供であった。



 避難している彼らがなぜここにいるのか。

 それは彼らの危機意識の低さに在った。



 “今回も普段通りに終わる”そう思ってしまったのだ。



 だから子どもの我儘を聞き、外の空気を吸いに行った。

 だから少し退屈に思った少年が、悪友と共に外に出てしまった。



 ――だからそれを探しに彼等(・・)が外に出てしまった。



 完全に予測不可能な出来事を目の前に、彼らはただ怯え、身を竦ませるだけだった。



 ――そしてそれを見逃す魔物でもなかった。



 その猪の顔に浮かぶのは、愉悦に歪んだ笑み。

 魔物は蹂躙せんと前傾姿勢をとる。堅牢な防壁すら崩す強力な突進(チャージ)



 それをくらい、彼らは肉塊――否肉片になると思われた。



 それを上空から鈍色の何かが阻止する。



 長柄の三日月斧を頭に叩きつけようとするが、ボアオークはそれを突撃槍を持ち上げることで防ぐ。



 失敗と同時に後ろへと跳ぶ。

 ボアオークから非戦闘員を守るように立つのは、トーマスだった。



 右手には長柄の三日月斧を片手で持っており、左手には投げ斧――フランシスカを持っている。



 彼の第一声、それは意外なことに困惑の音が含まれているのだった。



 「――なぜお前が、ソレ(・・)を持っている……?」



 トーマスが言う“ソレ”とはボアオークが持つ巨大な突撃槍の事だった。

 魔物が持つには裝飾過美な武器。そもそも儀礼用なのだろう、しかし性能は決して劣ったものではなかった。



 この突撃槍の名を“ランケア・サンクトゥス”と言った。



 トーマスがなぜこれを知っているのか。それはトーマスは見慣れていたからだ。



 ――生前に画面越しに何回も。



 “ランケア・サンクトゥス”BH武器カテゴリー突撃槍(ランス)



 ――BH終盤に手に入る武器であった。



 トーマスの胸中を困惑が満たす。

 しかしその困惑も次の瞬間には霧散する。



 “ただアイツを倒せばいい”

 トーマスはそう考え、左手を振るう。



 怪力により豪速で飛んでいく手投げ斧。



 ――しかし無傷。

 直撃したにもかかわらず、ボアオークは無傷であった。



 これにはさすがのトーマスも驚かずに入られなかった。

 彼にとっては初めてだったのだ。自分の一撃をくらっても、無傷の敵を見るのが。



 一瞬の隙――ボアオークにはソレで十分だった。



 踏み込んだ足は石畳を捲り上げ、振るわれた豪腕は周りの空気を巻き込み風を起こす。

 ブルオークの一撃。驚きに気を取られたトーマスには躱すことは出来なかった。



 鈍く何かを砕く音を立て、トーマスは横の家屋へ吹き飛ばされる。

 直撃を食らった家屋は、大きな穴が空き屋根が崩れトーマスへ追い打ちをかける。



 家屋の中で屋根に押しつぶされたトーマス。



 ――彼は期待に頬を吊り上げ、顔を笑みの形に歪めていた。



 トーマスを吹き飛ばしたボアオークは、退屈げに鼻を鳴らし、非戦闘員に向き直る。

 再び前傾姿勢を取ろうとした瞬間――。



 久しく感じなかった痛みが脇腹を襲い、景色が横に流れていく。

 方向感覚が歪み、気付けば石壁に叩きつけられていた。

 ブルオークが脇腹を確認すると、そこには裂傷が在った。彼にとってはまだ軽傷程度の浅い傷。



 不意に足音が聞こえる。硬いブーツが石畳を叩く音だ。

 そこに目を向けると、鎧が歪み、鎧の隙間から血を流すトーマスがいた。



 しかしその歩みは力強く、彼も重症に見えるその傷を、物ともしていないことが分かる



 ボアオークはその顔に凄惨な笑みを浮かべる。

 ――彼もまた待ち望んでいたのだ。

 自分に並び立つほどの強者を。



――――――――――

【name】 【猪魔王】(ポルコ・アリエーテ) 

【rank】   S

【bace】   オーク族

【state】   正常

――――――――――





▼▼▼ 





 もはや門とはいえない程に崩れ落ちた瓦礫の山を越え、都市へ踏み込んだオークキング。

 彼は自分の王とも言えるブルオークが、遥か遠くへ吹き飛ばされたとしても動揺することはなかった

 決して嫌っていたりするわけではない、その逆だむしろ敬愛し崇拝している。

 彼は信じているのだ――王は決して負けはしないだろうと。



 邪魔をする壁は消え、――前に殺した二人の男に、よく似た雰囲気を持つ3人の人間は、瓦礫の山へと消えた。

 大多数の冒険者も同じ様に生き埋めにされている。

 残りの奴らなどには、複数でかかるようにオーク達には徹底させている。



 ――驕り高ぶった人間など恐るに足りん。

 オークキングはそう考えた。いや考えてしまったのだ。

 彼は気づいていない、その考えは正に“驕り高ぶる”と言う事だと。



 ふと前方に女子供の集団を見つける。

 王が消え安堵していたその顔に、再び恐怖が走る。



 オークキングは戦いが終わった後(・・・・・・・・)のことを考え、好色な笑みを浮かべる。

 生け捕りにしてやろうと、足を踏み出した瞬間。

 突然横から声が聞こえてくる。



 路地裏から突如現れた者――それは老人だった。

 毛が見当たらない禿頭、反対に口下や口周りには立派な白髭が蓄えられている。

 何よりも、シャツに下から押し上げる筋肉。老人にしては鍛えられているその肉体。

 しかし、オークキングはたかが老人、鍛えていようと変わらないと思ってしまった。



 ――やはり彼は驕っていたのだ、嫌悪していた人間と同じ様に。



 老人が呟く。



 「……こっちは現役ひいてんのによぉ……。A級(糞ガキ)共は何処だ?」



 オークに人語は理解できない。

 気にもせず、オークキングは老人へ近づいていく。



 「……まさか埋まってるなんて言うんじゃねえよなぁ。あのクソ騎士は話し聞かねえしよぉ……」



 十分に近づいたオークキングは、念を入れ大剣を振りかぶる。

 彼は驕っていたとしても慎重さを忘れなかった。



 「豚どもが入ってきてんじゃねえか……!」



 大剣を振り下ろす瞬間、オークキングは気付く。

 ――老人の声に怒りが混じっていることに。

 ――そして老人の体が段々と(あか)く染まっていることに。



 「豚臭くて敵わねえんだよおおおおおおお!」



 老人がそう叫ぶのと、大剣が振り下ろされるのは同時だった。



 まるで硬いものを切ったかのような、硬質な音が響く。

 しかし大剣を見ると、大剣は老人を切り裂くことは出来ていなかった。



 老人の体は、人が出せそうにない赤に染まっており、腕や足の先は赤黒く、関節からは軋むような音を、立てていた。

 老人は片手一本で大剣を掴み、防いでいた。



 オークキングがしばし驚いていると、腹に衝撃が走った。

 その衝撃は内蔵を圧し潰し、骨を圧し折る。

 なによりオークキングの巨体が――浮かんだのだ。

 脂肪分が多く、筋肉もある。体重だけで言えば、かなりの重さを誇るオーク。

 その長で、さらなる巨体を持つオークキングを浮かせる。



 決してこの者に対しては驕ってはいけなかったのだ。

 衝撃に地面へ這い蹲ったオークキングは、見てしまった。

 下から見上げたその人間は、その体の色と、後光の様に差す光が相まり赤鬼――、それを超えた修羅のようであった。



 「ぶっ殺すぞ!この糞豚が!」



 そう吼え、オークキングを瓦礫の山へと蹴飛ばす。

 オークキングは瓦礫の山へ突き刺さり、瓦礫を更に崩し、その中に埋もれた。



 人種の中で最高峰の強さを誇る、所謂“人外”達。

 ――S級。彼らは決して舐めてかかっていい者達ではないのだ。

 たとえ――老人だろうと。女子供であろうと。



 都市へ進軍したオーク達が見たのは、2人のトップ達の不在。

 しかも目の前で突き刺さっているのだ。オークキングに見える何かが。



 驚き、狼狽えるオーク達を見て、老人は嗤う。

 その紅く染まった顔を獰猛に歪め、軋むような音を立て拳を握りこむ。



 ――フスハレ冒険者ギルド局長“元”S級冒険者アーモス。



 昔“嚇怒の紅鬼”と恐れられた男は、鬱憤を晴らすためにオークの大群へ飛びかかった。



――――――――――

【name】 |【嚇怒の紅鬼】アーモス

【rank】   S

【bace】   人族

【state】   通常

――――――――――




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