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15. 開戦


 ある年の赤の月、自由都市連合第3都市都市フスハレで、それは起きた。



 災害指定種の魔物による侵略行為。

 それらによる防衛戦は決して珍しいことではなく、幾度に渡り起こってきた。

 今回も通常通り進み、数ある中の1つとして歴史に埋もれるはずだった。



 しかしそうはならず、後世に伝えられる物となる。



 ある新種の魔物が生まれた時として、そしてある英雄が誕生した時。



 フスハレ対魔物防衛戦――また破城の魔災と呼ばれる戦い。



 重大な被害を出したにもかかわらず、非戦闘員の戦死者はゼロ。



 それは後に語り継がれるある英雄の最初の戦いだった。





▼▼▼





 前回から四日後。

 準備は万端。ちょうど昼飯を食べている時の事。



 兵士により鳴らされた鐘の音。

 それは街の中に響き渡り、食事中の冒険者やギルド関係者は素早く動き始め、町の住人は食事を中断し避難場所へ向かう。



 やがて森の中や道の奥から現れたのは、隙間が見当たらないほどに乱雑に行進するオーク達だった。



 この時相手のオークの数は1,000匹程だったと言われている。

 通常冒険者による間引きにより、オークの数は一定に保たれている。

 約300匹程度に保たれている筈がこの時は違ったのだ。



 ――約3倍。

 明らかにただのオークキングではないと、一目で分かる光景だった。



 けれど冒険者の士気は落ちなかった。

 これ以上の数を相手に勝利していることも多々あり、なにより“たかがオーク、魔物”と侮っていたのだ。



 確かに通常ならばソレでよかったのだろう。

 しかし今回は普通ではなかった。



 最初に気付いたのは弓職、斥候職――アーチャーや盗賊と呼ばれるもの達だった。



 「オークキングの後ろに……なんだ?」



 ある盗賊の男が呟くと同時に、あちらこちらで声が上がる。



 そしてソレ(・・)が近づくと共に騒ぎは鳴りを潜めていった。



 不意に誰かが呟く。



「――猪頭(ボア・ヘッド)……?」



 体を覆う体毛、通常のオークやオークキングとは違い引き締まった体。

 ――そして頭は猪だった。



 巨大な突撃槍(ランス)を肩に担ぎ、オークキングすら霞む巨体で悠然と歩く。



 進軍が止まり、猪頭のオークが大群を割り前へ出て来る。



 オークキングすら後ろに控えさせるその姿は、圧倒的な剛気が湯気の様に立ち上る様を幻視させた。



 猪頭は大きく息を吸う。



 ――直後、地を轟かすほどの咆哮を上げた。



 吼えた後、猪頭は前傾姿勢をとっていた。

 肩に担いだ突撃槍を脇に挟むように固定し、片手を地に付けている。



 体を魔素が行き渡り、脚部や腕部の筋肉が膨張する。

 “ドンッ”と地面が爆ぜ、猪頭の姿が消える。



 ――まるで破城槌の様に。



 ――“猪”の名に負けぬほどの突進(チャージ)を、奴は扉へと突き放った。





▼▼▼





 「――“猪頭(ボア・ヘッド)”?」



 そうアーモスは怪訝そうに言い放つ。



 連絡役から送られてきたその一報は、本部ではあまり重要視はされていなかった。



 「“猪頭(ボア・ヘッド)”……?まさか、ボアオーク?」



 その空気を変えたのが、ビアスのその一言だった。



 その場全員の視線が集まり、ビアスは説明を始める。



 「私もあまり詳しくはないのですが、ボアオークというのは太古にいた古代種の一種です。」



 そこでビアスは周りを見渡し、質問がない確認する。

 居ないのがわかり、話を再開する。



 「オークの一種とされていまして、今では滅んだ種族だと伝えられています。その性格や趣向はオークと同じです。違う点はその戦闘力でしょう。

――その突撃は山を削り、岩を砕く。

――魔の理を覗き、その知性は深く悪辣。」


 「――そのボアオーク?は話に聞く限りは強いらしいが、なんで滅んだんだ?」



 アーモスは疑問に思ったのか、ビアスへ尋ねる。



 「それはですね。まだ種として安定してなかったのと、武器を使わなかったと言われています」



 ――ボアオーク。

 かの古代種は強大で魔法を使うなど、戦闘力はトップクラスに数えられる。



 ――なぜ滅んだのか。

 その理由は数の少なさと、武器を使用しないその独特の戦闘スタイルにある。



 “個体数の少なさ”ソレを話すには、まず魔物がなぜ生まれてきたのか。

 そこから話す必要がある。



 魔物というものは言うなれば突然変異体である。

 “魔素(マナ)”を体に取り込み、特異な体を手に入れた。

 やがてそれらの数が増え、似たもの同士で集まり、そして数が増えてった。



 ある一定の数まで増え、種として固定された突然変異種――それを魔物と言った。



 まだ研究は進んでなく、不明な部分も多い。

 今の所わかっているのは――1.体に魔石と言われる器官を持つ。2.位階を超える(レベルアップ)と言う現象により進化する。3.魔法と呼ばれる物を使う個体がいる。

 以上の3つである。“魔族”と呼ばれるものは人間種が魔素による変異で出来た種というのが一番最新の研究結果である。



 “武器を使用しない”これはボアオークの使える武器が無かった事が理由だ。

 あの時代は武器の使用により、圧倒的な戦力差が開いた。

 武器を使用できないと言う事は、いくらボアオークと言えども絶滅に足る弱点だ。



 他種に遅れを取った種の固定化。武器使用によるアドパンテージ。

 数の差と武器によるアドパンテージ、それによりボアオークは滅んだのだ。



 「なるほどね。でもたった1匹、しかも武器は使わないんだろう?楽勝じゃないのかい?」



 話を聞いたランカはそう気楽に言う。

 実際に武器(・・)を持っていなかったら、その通りだったのだろう。



 「それが……ボアオークは巨大な突撃槍(ランス)を持っていました」



 そう連絡係が言うと同時に、破砕音が響き渡り軽く地震が起こる。



 それに反応できたのは、トーマスただ1人だった。



 「――私がいこう」



 そう言い、立ち上がる。

 それに噛み付いたのは、やはりアーモスだった。



 「待て!てめぇの等級はなんだ?」


 「……Dだが?」


 「ハッ!D級が何を出来る!ここで大人しくしてろ!」



 アーモスはそう怒鳴る。

 言い方は乱暴だが、優しさから出た言葉だった。



 しかしトーマスはそれを気にしない。

 トーマスが軽く動く、次の瞬間アーモスの後ろ――そこにある窓枠に足をかけていた。



 「――っな!?」



 アーモスは驚き、後ろへ振り向く。

 反面、トーマスは落ち着いた声で言い放つ。



 「――知り合いもいる。私は行かせてもらう」



 そう言うやいなや勢い良く踏み込んだ。



 窓枠は砕け散り、それだけじゃ足らず壁の半ばまでを吹き飛ばす。



 飛んだ騎士は門を目指す。



 ――その門は、遠目から見ても判るぐらいに崩れ落ちていた。



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