14.アーモス
感想返しは基本的に無しの方向で
ある一室。
執務室と呼ばれる部屋で、装飾品は品が悪くならない程度に抑えられている。
しかし綺麗とはあまり言えない様で、書類が積み重ねる机、更に少し埃っぽい。
極めつけに、壁がぼろぼろであった。
まるで、戦闘があったように見える。綺麗な亀裂、大小様々な罅割れ。更には拳の跡や頭大の深い穴などがあった。
「で?騎士様がなんのようだ?」
そう皮肉げに言うのは、筋骨隆々な老人だった。
白髪を顎や口周りに蓄えているが、反面頭は1毛もなく見晴らしがいい。
かなり年がいっているように見えるが、肉体や雰囲気はから見て、決して侮り難いだろう。
不機嫌そうに皮肉を言うさまは、とても恐ろしかった。
真正面から見つめ返すのは、鈍色の全身甲冑にサーコートを羽織る一人の騎士。
何処吹く風とでも言うかのごとく、一切動じない姿は隣の立つものを安心させる。
「ギルド長!ホントの事なんだよ!」
隣に立つ少し露出の高い防具――所謂ビキニアーマー、と呼ばれるものを着た女性が言い放つ。
しかし老人がそれに返したのは鋭い眼光だった。
いくらA級冒険者と言える――ランカであっても、老人の圧力には勝てなかったようだ。
――ギルド長。
そう冒険者達から呼ばれる、各ギルドを管理する者達の事である。
ここフスハレにある冒険者ギルド、そこのギルド長の名を“アーモス”と言った。
正式名称を“自由都市連合第3都市フスハレ冒険者ギルド局長アーモス”
またの名を――“嚇怒のアーモス”と言った。
基本的にギルドの官職には“元”冒険者が就くと言われている。
事務系には公募により、能力の審査を行い採用しているが、“ギルド長”にはS級冒険者が就くのだ。まあ数が多くないのでA級がつくのが殆どなのだが。
なぜ“ギルド長“という、言うなればエリート、キャリアと言えるものに冒険者がつくのか。
その理由は単純である。強者だからだ。
冒険者というチンピラにも見間違えるほどの、荒くれ者共。
彼らを纏めるためには、力が必要なのだった。
――人外。そう言われるほどの圧倒的な能力を持つ者達。
アーモス、彼もその1人だった。
たとえ衰えていても自身にとっては、遥か高みの圧倒的強者。
いくらA級といっても恐れずにはいられなかった。
鎧男――トーマスは、ランカの肩に手を置き彼女を隠すように前に出た。
「御老人、ランカ嬢は嘘を言っていない。なんなら証人だって居る」
トーマスのその言葉にアーモスは怒鳴る。
「証人がいるだぁ!?だからなんだ!そもそもてめぇの言うことは信じられるのか!?」
アーモスはトーマスに反論は許さないと言わんばかりに、捲し立てる。
「ランカ!てめぇこいつに絆されてるんじゃねえだろうな!?“あの”ランカが男に尻を振るたぁここも終わりだな!」
侮辱の言葉。ランカは何か言いたげだったが、言い返しても仕方がないと思ったのか何も言わなかった。
「その証人とかいう二人のガキも!脅して言わせてるんじゃねえのか!?」
その矛先はトーマスにはまで及び、更に数時間、彼らは怒鳴られ続けるのであった。
その時、1階にいた冒険者は話し合う。
「ギルド長騎士嫌い酷いからな……」
「あの騎士は違うと聞いたが?」
「そうかもしれないが。認められるまでは怒鳴られ続けるだろうよ」
“嚇怒のアーモス”彼にはもう1つ渾名があった。
――“騎士嫌いアーモス”大のつくほどに騎士を嫌うアーモス。
誰も知らないその理由は、意外としょうもない事であった。
――鎧が嫌い。
ただそれだけだった。
▼▼▼
ギルド長アーモスとの一件から数日後。
ここフスハレは、大混乱の真っ只中にあった。
発端はある斥候の一言だった。
『森の深部で竜種の死体が見つかった』
これだけならまだ重要ではなかった。
その後に続く言葉、それが問題だったのである。
『竜種を倒したのはオークキングとみられる』
その言葉を聞いた途端、会議室は喧騒の坩堝とかした。
さらにその斥候は重症を負っており、報告とともに死亡。
そしてオーク達による、都市侵略の兆しを発見。
その事実が知れた事により、アーモスは“特例”を出すことを決めた。
――第1種特級依頼。
これはギルドから出された無報酬の依頼である。
第1種とあるように、これは第3種まである。
S級を超えた、特級の依頼。
コレが出される“特例”は、災害の可能性がある特殊な魔物が発見された場合。
戦争などにより、そのギルドがある都市で防衛戦が起きる場合。
ギルドが介入するほどの利益が見込める場合、新しく発見された遺跡や新大陸に侵略行為をする。
この3種類に分かれる。
ちなみにどれも自由参加だ。
しかし第1種2種の場合、参加しなかったものは冒険者に大事な“面子”が潰れてしまう。
なにより、旅人などの例外を除き、冒険者は必ずその都市に住んでいるのである。
知り合いや下手したら家族が住んでいるものも居る。
それを見捨て、逃げる。
この話が広まると周りから干されてしまうのが、通例であった。
災害指定種のオークキングが、樹海を出て都市を侵略する。
それにより、フスハレは女子供、非戦闘員の避難。ギルド関係者は除く。
防衛戦の準備。参加者の確認。
それらにより蜂の巣をつついたような騒ぎだった。
ここまで聞くと大変に思えるが、それは意外にも違う。
第1種特級依頼、詳しく言えば変異種オークキングからの都市防衛及びそれの討伐依頼。
このような魔物達からの人種族の領域侵略は、今迄に何回も在ったことだ。
似たような例なら、オーガやゴブリン。
広く言うならば“魔王率いる魔族”による戦争もこれに当たるのだから、珍しいことではない。
それに“戦争特需”の様な物も起こるのだ。
今回は“オーク”彼らは食肉の材料だ。
物資による戦争特需、さらに大量の魔物の素材。
負けることを考えるなら悲観的な考えになるが、メリットを考えればむしろ稼ぎ時である。
特級依頼は唯のタダ働きに見えるが、大本からの収入がないだけであり個人的に見ればむしろいい。
前線に出ない初心者にとってはむしろうまい依頼だ。
だからなのか、雰囲気になれない子ども達は不安な顔をしているが、大人たちはむしろ笑顔だったり平気な顔をしている。
しかし彼らは知らないのだった、単体で“竜種”を倒すほど戦闘力がある物が相手だということを。
▼▼▼
平和的な街の様子と違い、冒険者ギルドの中にある会議室。
そこは重苦しい空気に包まれていた。
机に座するは、ギルド長アーモス、A級冒険者のランカを始めとする4人――オークキングにより2名の欠員。
そして都市の宗主――ビアス・エトムート、自由都市連合御三家に数えられるエトムート家当主だ。
さらに一応関係者として、トーマスと助けられた少女2人。
その計9人がその場にいた。
議論しているのは“情報を何処まで開示するか”だった。
正直に言えば、全く未知の敵だ。
ランカや少女2人、トーマスの情報では“古傷まみれのオークキング”。
知能は高く、配下の強化や人質をとるまでしていた。
斥候の情報によれば、竜種の単独撃破までしたという。
少なくとも、2階は位階を上げているとみられる。
「……本当に“豚”は竜種を倒したのか?」
アーモスはそう呟く。彼はオークを豚、ゴブリンを餓鬼、など自分なりの呼び方で呼ぶことが多かった。
「斥候はそう言っていたのだろう?」
ビアスは“何をいまさら”と言いたげな顔で問い返す。
「斥候は付いた時には瀕死だったらしい、だからうちの職員が聞き出したんだ」
アーモスはこう言いたいのだった。
うちの職員が間違えて、複数による討伐を単独と誤った。
「だから竜種と同じ戦力というのはさすがにねぇんじゃねえのか?」
「その職員を呼んで確認してみればいい」
ビアスにそう言われ、アーモスは部下に命じ呼びに行かせる。
「ギルド長、参りました」
数分もたたず、件の職員がやってくる。
「聞いたいことがある。斥候が言ったことをそのまま教えてくれ」
「わかりました。樹海の深部で、竜種の死体が見つかった、近くにはオークキング、がいた、竜種には大きな穴が頭部にあった、見たところそれ以外には外傷はない、なので単独の可能性が高いと」
「随分なげえな?」
「彼は治療を断り必死に伝えようとしていました」
「そう、か」
アーモスは少し悲しげに目を伏せた。
「つまり、竜種の外傷から単独と判断して、近くにオークキングがいたのでそれが倒したと」
ビアスはそう纏める。
それに口を挟んだのがトーマスだった。
「外傷は大きな穴、というがどういうのだったのだ?」
「それは、まるで突撃槍による一撃のように綺麗な丸だったと」
「綺麗な丸?」
怪訝そうにするトーマスを見て、アーモスが少し不機嫌そうに話す。
どうやら騎士嫌いは継続中のようだ。
「傷跡がどうしたってんだよ?」
「私達が見たオークキングの武器は“大剣”だよ」
「あ?それはほんとか?」
アーモスはそう言い、他のランカや少女達を見やる。
彼女達はそれに首を縦に振ることで返事をする。
「斥候が報告をした時、気になるようなところはなかったかい?」
「そういえば……言葉が途切れ途切れだったのですが、オークキングから、がいたの間が妙に長かった気が……」
「長かったって、会話の間がかい?」
「はい。なにか言うのかと思ったんですが、何も言わずにそのまま続けたのです」
この時その場の全員が思ったのは、『オークキング意外にも何か居たんじゃないか』だった。
そこにいた第3者が竜種を倒したのではないか。
だとすれば大幅の軌道修正が必要な可能性もある。
しかしそれに反論したのが、他のA級冒険者だった。
「仮に第3者が居たとして、考えられるのは“魔族”ぐらいだろう?」
「奴らは決してこう言う時に面に出て来ることなんて無いじゃないか」
彼らの言い分はこうだった。
その第3者は“魔族”だ。そしてそれならば都市防衛の戦力に数えなくても問題はない。
あくまで侵略してくるのは、オークキング率いるオーク達だけだ。
楽観視すぎるのでは、トーマスは思ったがそれ以外の面々は概ね同意のようだった。
魔族は基本的には、魔族全体の戦い以外は表に出ることはめったにない。
魔物にちょっかいを出し、今回のように強力な魔物を生み出すことはあるが、それが都市を侵略するときなどに魔族が参戦することは絶対にないといっても良かった。
「そう考えてよろしいかと」
「んじゃあ、こういうことだな。情報の開示は冒険者のみ!オークキングにはA級4人であたれ!ほかは特に無し!それでいいな?」
そうアーモスが纏めれば、A級冒険者達は叫び返し、ビアスは笑顔で返す。
今回も普段通りの依頼だ、そのような空気が流れ、会議室は楽観的な雰囲気に包まれた。
しかし、トーマスは1人不安が拭い切れないのであった。




