10. 服屋
「……長い」
トーマスは、服屋の中で既に1、2時間待たされていた。
トーマスが少し居心地が悪く感じるにも、その服屋が少し敷居が高いのに原因があるのだろう。
前世からトーマスは、高級店というのに慣れていなかった。庶民魂の塊である。
そして、トーマスそっちのけで楽しんでいるのは、ゾフィとヨーゼロッテの2人である。
本人など飾りはおろか、隅に追いやる程である。
途中で抜けても一切に気にする様子がないのに、トーマスは軽い恐怖を感じていた。
まあ、お座なりな返事をしたトーマスにも、原因の一因はあるのだが。
然し暇に耐えかね、トーマスは周りにある服を見始める。
改めて見ると確りした作りとなっているのが分かり、トーマスは意外に思う。
もしかしたら、神様の言っていた“中世”とは、漫画や小説にある“中世”だったのではないか。トーマスはそう思った。
地球とは違う要素が絡んでくる。なので地球とは違う発展の仕方も見える筈だ。
その1つが、服飾関係に現れているのだった。
「シショー! 選んだよ!」
不意にゾフィーから声がかかる。
服選びは終わったらしく、選んだ服を手にトーマスへ駆け寄っていく。
選ばれた服は、白いシャツに黒いズボン。その組み合わせは、トーマスに前世の会社員生活を連想させた。
しかしそれだけでは無いようで、遅れてきたヨーゼロッテは上着を持ってよってくる。
上着は革で出来たジャケットらしく、襟元に毛皮が付いており防寒もしっかりしているのが判る。
色は黒。要所に軽い補強がされており、そしてポケットの数が多かった。
「コレはですね、冒険者や騎士の人達がよく着ている物なんです。急所が軽く保護されていたり、ポケットが沢山付いているので、人気があるんです」
「たしかにこれはいい。けれど普段着なのだろう? なんで普段着にまで武装する必要が?」
「それはですね。聞く所によると、落ち着かないんだそうです。それに休日だからと襲われないとは言えませんからね」
そう苦笑しながらヨーゼロッテは言った。
北には魔族、魔物の国が。東には自業自得とはいえ敵対している亜人族。更にいけば和国がある。
トーマスは知ることではないが、西の国々は和国と敵対している。トーマスも少しは聞いていたが、教会関係と聞き、関わる気はないので詳しくは聞いていなかったのだ。
それと敵対しているというが、亜人族とは表向きは和平条約を結んでおり、一応友好関係ではある。
「まあ、とりあえず着替えてきてよ! 奥、貸してもらえるからさ!」
そうゾフィに背中を押されて、トーマスは奥の仕切りへ消えた。
トーマスも今は手慣れたもので、ストレージも扱いも上手くなっていた。
彼は一瞬で裸になり、受け取った服に着替えていく。不思議なことに、サイズはぴったりであった。
「シショー! 着替えおわっ――」
ゾフィがそう叫ぶ、がトーマスを振り返ると言葉をつまらせる。
彼女は驚いた顔で固まり、若干頬が赤かった。そしてそれは彼女だけではなく、ヨーゼロッテや店内にいる人間も、おなじようすだ。
「師匠……“混ざり”だったんですね」
「――ッばか! ハーフっていいなよ!」
そうヨーゼロッテが言うと、ゾフィがすごい剣幕で怒鳴る。
その声により、店内の空気も元通りとなる。しかし大多数が好奇の眼差しを向け、人によっては嫌悪の目でトーマスを見ていた。
「その“混ざり”とはなんだ?」
「混ざりってのは、ハーフの蔑称だよ……。亜人とか魔人達との間に生まれた子たちをそう言うんだ」
「すみません。蔑称って言うことを最近まで知らなくて……つい出てきてしまうんです」
そうヨーゼロッテが頭を下げてくる。
“混ざり”というのは主に人間の国々で言われてきた言葉で、まだ亜人達と戦争していた頃に両者の間で出来た子どもをそう呼ぶ。
ーーしかし俺が混ざりとはどういうことだ……?
トーマスはそう思ったが、自身のキャラメイクを思い出し、納得した。
彼はオプションはとにかく付ける派で、ゲームーーBH、では特に種族などはないが色々外見を変える事ができたのだ。
その中で彼は2個ほど変えていた。
1つは耳でエルフみたいに尖らせている。2つ目は眼で金眼と赤目のオッドアイにしていた。金眼は黒目部分だけではなく、白目の部分まで真っ金々というこだわりようだった。
ちなみに決して中二ではない。断じて違う。とトーマスは言い張っている。
しかし、ゲームでもあまり目立つことはなく、顔を出してるプレイヤー自体稀で無駄な項目であった。
そう考えれば、トーマスは確かに“混ざり“だ。それも複数の種族の。
耳はエルフ、目はそれぞれ竜人族と魔人の特徴。そして髪の毛は黒髪。これは和国人の特徴であり。つまり最低でも4種族は混じっていることになる。
羞恥心に彼の顔が赤くなるが、何とか抑えこむ。
トーマスは、5時間の末作り上げた顔を見て、恍惚としていた頃の自分を無性に殴りたくなっていた。
なにが“会心の出来”だ。少しふてくされる。
「……いや、別に気にしてはいないさ」
「それにしても……シショー、イケメンだね」
「はい、私もそう思います」
そう2人は言ってくる。
そう“会心の出来”というだけあって、かなりの色男だとトーマスは自負していた。
実際にトーマスの顔は醜悪というわけではなく、髪は癖毛で荒々しく後ろへ撫で上げてあり。顔は彫りが深く、目鼻立ちはくっきりとしている。
年は若くは見えないが、オッサン臭さは感じず、むしろ大人のダンディーな男と言った感じで渋い感じになっていた。
渋さを感じる、ハードボイルドな中年男性。と言った外見である。
「ふふ。そうかありがとう」
素直に嬉しかったのだろう。トーマスは彼女たちに向け、ニッコリとした笑みを向ける。
2人は、それに顔を赤くする。
「まあ服も買ったんだ、そろそろギルドへ戻らないか?」
「え、ええ。そうですね! 戻りましょう!」
「そうだね! ヘルフ達置いてきたままだし!」
2人は誤魔化すように、大声を上げ店を出て行く。
トーマスも二人の跡を追うように店の扉をくぐるのだった。




