9.商会と少女
――どこからどう見ても幼女である。
立派な着物を着て、少し背伸びをしている感じが大変微笑ましい。
ちなみにトーマスは子供は好きだが、決して幼児性愛者ではない。
彼には年の離れた従姉妹がいたので、子どもの世話は好きな方だ。彼が不思議と後輩や年下に慕われたのも理由の一つだろう。
しかし黒衣の少年と知り合いのような口振りからして、おそらく知り合いなのだろう。
聞く所によると、二人旅だが相方も成人してないらしく”先輩の冒険者による特例”も使えない、と聞こえてきた事をトーマスは思い出した。
そして無粋な事を言うなら、二人旅、つまりそういう仲であると考えられなくもない。
トーマスは少年に向き直り、少し語気強目でこう言った。
「貴公……もしかして幼児性あ――」
「――ちげぇ!断じて違う!」
だが、少年は勢いよく否定するのであった。
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「――本当にすみません!」
ギルドの横にはカフェ――と言うにはオヤジ臭い――があり、トーマス達はそこで二人から頭を下げられているのだった。
黒衣の少年――烏丸は、渋々と言った感じだが。
幼じ――少女の名は桜花といい、半ば烏丸のお目付け役のようなものらしい。
ちなみに、トーマスと少年とのやり取りに激怒し、とてつもない殺気を放ち始めたので、トーマスの中で幼女呼ばわりは禁止だ。
「本当に烏丸は直ぐ刀を抜いて……困ったものよね!」
そう言い隣を睨みつけるが、本人は飄々としたものである。
その様子を見て深々とため息を吐く桜花。
「師匠がいなきゃヘルフが死んでたかと思うと、困ったものでは済まされないけどな……」
そう、険しい顔で睨みつけるのはヨルンだ。
他のメンバーも同意のようで、皆烏丸に厳しい視線を送っている。
「ハッ、弱いのがわるいんだよ」
「んだとコラァ!?」
先程からこんな感じで、烏丸は反省する気もないらしく、ヘルフやヨルンと軋轢が絶えない。
何時までもコレじゃ駄目だと思ったのか、ゾフィが相も変らず軽い口調で問いかけてくる。
「そんなことよりシショー。ギルドに来たってことは、なにか用があったんじゃないの?」
「あ……」
しまった、完全に忘れていた。トーマスは兜の中で、バツの悪い顔をする。
「そうであった……」
「師匠が困ってんなら、こんなガキと話してる暇はねえな!」
あてつけのように、ヘルフが叫ぶ。
その言葉にムッとした烏丸だったが、隣の圧力に屈したらしく、口を噤む。
「ペドロさん達は今いないからさ、あたし達に出来る事ならやるよ?」
「それは助かる。実は言うとだな……冷たいのだ」
「へ……?冷たいって何が?」
「その……ま……ひと…ちがな」
「え?なに?きこえなーい?」
わざとヤッてんじゃないかと少しムッとくるが、コレが彼女の普通である。
恥ずかしさを押し殺し、はっきりという。
「――冷たいのだよ。町の人達の態度が」
帰ってきた反応は、皆苦笑いだった。
「そりゃ当たり前だよ―。知ってて行ってるのかと思ってたのにさ―」
「まあ、さっきランカ嬢に聞いたから理由はわかっている」
「あ?そうなの?そりゃ全身甲冑なんだからさー、みんな騎士だと思って身構えちゃうよ」
「まあ、服を買ったら脱ごうとは思っている。それで頼みたいこととは”リスタル商会”まで案内して欲しいということだ」
「へ?服買うの?まじ!?手伝ってあげるからさ!服買いに行こうよ!」
頼み事を無視してゾフィが反応したのは服のことだった。心なしかヨーゼロッテまで食い気味である。
なんだってまた服選びに反応するのか……いい年こいたおっさんの服選びが楽しいのか?若い子の思うことはいまいち解ら無いな。トーマスは首を傾げる。
次いで、ますますオッサン染みたことを考えてしまうな、と苦笑した。
「別に構わないが……金が無いので、まずは金策から始めることになるが?」
「――お金ぐらい私が払います!」
勢い良くそう告げたのは、ヨーゼロッテであった。
鼻息あらく、トーマスを見据える。
……少し引いた。
トーマスは引き気味であった。
「そ、そうか。心苦しいが礼を言う」
断っても引き下がりそうにもなく、トーマスは了承する。
何が彼女達を必死にさせるのか……少し怖い。いいえも知れない戦慄を感じるトーマスであった。
「そうと決まれば!商会へ行く前にさっさと行っちゃおうよ!」
「そうですね!行きましょう!」
二人は顔を見合わせ、頷き合う。
そのまま引っ張られるようにしてトーマスは席を立たされ、強引に連れだされた。
「あ、その二人についてはヨルンがよろしくね―」
そうゾフィが捨て台詞を放ち、二人の少女に引きずられながらトーマスはギルドを連れだされて行った。
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トーマス達が向かったのは、“リスタル商会”である。そして、そこは一言で言うなら、胡散臭いことこの上ない所であった。
トーマス曰く、なんかボロいし、出入りする人の人相は悪いし、少し臭い。なんか黒い事ばっかヤッていそうな店だ。
酷い言い様であった。
「ペドロは……本当に此処に売ったのか?」
「ええ……そのはずですけど」
トーマスは再度確認する。しかし、間違いではないらしい。
ーーこれは猿達の始末をするのが梃子摺りそうだ。トーマスは若干気が滅入ってきていた。
「すまないが、責任者を呼んで来て貰えないか?」
ちょうど中に入ろうとしていた、男に話しかける。
「へい、わかりやした」
話しかけた男は、口調までチンピラと言った感じであり、一体どんなのが出てくるのかトーマスは少し不安に思った。
「どうも。私が責任者の”マウザー・クレメンティ”です。どうも」
意外にも出てきたのは、身なりの整った老紳士の様な人物であった。
礼服のようなものを着こなし、柔和な雰囲気でとてもこの商会の責任者には見えなかった。
すこし肥満気味だがぼろくても商会の責任者だ。いいものを食っているのだろう。
「それで、騎士様は今回はどういった御用で?」
「ああ、実は此処にペドロからある魔物が売られただろう?それを買い取らせて貰いたい」
「ペドロ様からの商品ですね?失礼ですがどういった御関係で?」
「――友人だ」
「そう、ですか。勿論ありますが、実は片方は売れてしまっていて……」
「どちらだ?”猿”の方か?」
「いえ、そちらが残っていまして」
「そうか。誰に売ったか教えてもらうことは?」
「お客様の情報はおいそれと話すわけには行きません。まあ勿論私達は商会ですから。お売りする物も多岐にわたりますけどね」
そう此方に笑いかけてくるマウザー。やはり商人だけあって、金には敏感な鼻をしていた。
しかしトーマスには、肝心の金が無かった。
ーー稼いでからまた来るか。トーマスはそう思うが、あることを思いつく。
飲んでもらえるかわからないが、とりあえず話すだけ話してみようと思い、マウザーに問いかける。
「すまないが、ソレを売るのを少し待ってもらえることは出来るか?」
「予約、ということですか?」
無言で頷く、勿論何かしら吹っ掛けてくるのだろう。トーマスは警戒を強くする。
「勿論構いませんが。家も商会なので、より良い値段で勝っていただけるお客様がいらっしゃったら、そのお客様に売る他ありません」
そうやって先程より厭らしい目でトーマスを見据える。
「わかっているさ。普通よりも色を付けて買い取ろう」
「ありがとうございます。では、猿は全て合わせて3匹で金貨30枚とさせて頂きます」
相場は分からないが、生き物でしかも魔物にも拘わらず意外と安いのではないか。トーマスは思った。
魔物は要するに“危険物”だ。危険物なのだからもう少し高めだと思っていたからである。
「猿の魔物は正直売れそうにもないのですよ。片方はいい値段で売れましたが、あまり強そうにも見えず、実際に弱いと聞いています。色を付けていただいてもコレぐらいが妥当かと」
雰囲気で察したのだろう、聞きたかったことが聞け。トーマスは満足だった。
金貨30枚、勿論大金なのだろうがペドロからは”冒険者は稼げる仕事”と聞いている。
その分命の危険があるのだが、俺には当て嵌らない。そのことから、トーマスにとっては天職といえるかもしれない。
コネはあるのだから、いい仕事を紹介してもらいパパッと稼ぐとしよう。トーマスは意外と楽になりそうだと、入る前とは逆に気分が舞い上がる。
「では、金の都合ができたらまた来るとしよう」
「はい。ご来店ありがとうございました。次のご来店をお待ちしております。はい。」
そう言い頭を下げてくる。トーマスはそれに軽く頷き、店を出た。




