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9.商会と少女


 ――どこからどう見ても幼女である。



 立派な着物を着て、少し背伸びをしている感じが大変微笑ましい。

 ちなみにトーマスは子供は好きだが、決して幼児性愛者(ロリコン)ではない。

 彼には年の離れた従姉妹がいたので、子どもの世話は好きな方だ。彼が不思議と後輩や年下に慕われたのも理由の一つだろう。



 しかし黒衣の少年と知り合いのような口振りからして、おそらく知り合いなのだろう。

 聞く所によると、二人旅だが相方も成人してないらしく”先輩の冒険者による特例”も使えない、と聞こえてきた事をトーマスは思い出した。

 そして無粋な事を言うなら、二人旅、つまりそういう仲であると考えられなくもない。



 トーマスは少年に向き直り、少し語気強目でこう言った。



「貴公……もしかして幼児性あ(ロリコ)――」



「――ちげぇ!断じて違う!」



 だが、少年は勢いよく否定するのであった。






▼▼▼






「――本当にすみません!」



 ギルドの横にはカフェ――と言うにはオヤジ臭い――があり、トーマス達はそこで二人から頭を下げられているのだった。

 黒衣の少年――烏丸は、渋々と言った感じだが。

 幼じ――少女の名は桜花といい、半ば烏丸のお目付け役のようなものらしい。

 ちなみに、トーマスと少年とのやり取りに激怒し、とてつもない殺気を放ち始めたので、トーマスの中で幼女呼ばわりは禁止だ。



「本当に烏丸は直ぐ刀を抜いて……困ったものよね!」



 そう言い隣を睨みつけるが、本人は飄々としたものである。

 その様子を見て深々とため息を吐く桜花。



「師匠がいなきゃヘルフが死んでたかと思うと、困ったものでは済まされないけどな……」



 そう、険しい顔で睨みつけるのはヨルンだ。

 他のメンバーも同意のようで、皆烏丸に厳しい視線を送っている。



「ハッ、弱いのがわるいんだよ」


「んだとコラァ!?」



 先程からこんな感じで、烏丸は反省する気もないらしく、ヘルフやヨルンと軋轢が絶えない。



 何時までもコレじゃ駄目だと思ったのか、ゾフィが相も変らず軽い口調で問いかけてくる。



「そんなことよりシショー。ギルドに来たってことは、なにか用があったんじゃないの?」


「あ……」



 しまった、完全に忘れていた。トーマスは兜の中で、バツの悪い顔をする。



「そうであった……」


「師匠が困ってんなら、こんなガキと話してる暇はねえな!」



 あてつけのように、ヘルフが叫ぶ。

 その言葉にムッとした烏丸だったが、隣の圧力に屈したらしく、口を噤む。



「ペドロさん達は今いないからさ、あたし達に出来る事ならやるよ?」


「それは助かる。実は言うとだな……冷たいのだ」


「へ……?冷たいって何が?」


「その……ま……ひと…ちがな」


「え?なに?きこえなーい?」



 わざとヤッてんじゃないかと少しムッとくるが、コレが彼女の普通である。

 恥ずかしさを押し殺し、はっきりという。



「――冷たいのだよ。町の人達の態度が」


 

 帰ってきた反応は、皆苦笑いだった。



「そりゃ当たり前だよ―。知ってて行ってるのかと思ってたのにさ―」


「まあ、さっきランカ嬢に聞いたから理由はわかっている」


「あ?そうなの?そりゃ全身甲冑なんだからさー、みんな騎士だと思って身構えちゃうよ」


「まあ、服を買ったら脱ごうとは思っている。それで頼みたいこととは”リスタル商会”まで案内して欲しいということだ」


「へ?服買うの?まじ!?手伝ってあげるからさ!服買いに行こうよ!」



 頼み事を無視してゾフィが反応したのは服のことだった。心なしかヨーゼロッテまで食い気味である。

 なんだってまた服選びに反応するのか……いい年こいたおっさんの服選びが楽しいのか?若い子の思うことはいまいち解ら無いな。トーマスは首を傾げる。

 次いで、ますますオッサン染みたことを考えてしまうな、と苦笑した。



「別に構わないが……金が無いので、まずは金策から始めることになるが?」


「――お金ぐらい私が払います!」



 勢い良くそう告げたのは、ヨーゼロッテであった。

 鼻息あらく、トーマスを見据える。



 ……少し引いた。

 トーマスは引き気味であった。



「そ、そうか。心苦しいが礼を言う」



 断っても引き下がりそうにもなく、トーマスは了承する。

 何が彼女達を必死にさせるのか……少し怖い。いいえも知れない戦慄を感じるトーマスであった。



「そうと決まれば!商会へ行く前にさっさと行っちゃおうよ!」


「そうですね!行きましょう!」



 二人は顔を見合わせ、頷き合う。

 そのまま引っ張られるようにしてトーマスは席を立たされ、強引に連れだされた。



「あ、その二人についてはヨルンがよろしくね―」



 そうゾフィが捨て台詞を放ち、二人の少女に引きずられながらトーマスはギルドを連れだされて行った。




▼▼▼




 トーマス達が向かったのは、“リスタル商会”である。そして、そこは一言で言うなら、胡散臭いことこの上ない所であった。

 トーマス曰く、なんかボロいし、出入りする人の人相は悪いし、少し臭い。なんか黒い事ばっかヤッていそうな店だ。

 酷い言い様であった。



「ペドロは……本当に此処に売ったのか?」



「ええ……そのはずですけど」



 トーマスは再度確認する。しかし、間違いではないらしい。

 ーーこれは猿達の始末をするのが梃子摺りそうだ。トーマスは若干気が滅入ってきていた。



「すまないが、責任者を呼んで来て貰えないか?」



 ちょうど中に入ろうとしていた、男に話しかける。



「へい、わかりやした」



 話しかけた男は、口調までチンピラと言った感じであり、一体どんなのが出てくるのかトーマスは少し不安に思った。



「どうも。私が責任者の”マウザー・クレメンティ”です。どうも」



 意外にも出てきたのは、身なりの整った老紳士の様な人物であった。

 礼服のようなものを着こなし、柔和な雰囲気でとてもこの商会の責任者には見えなかった。

 すこし肥満気味だがぼろくても商会の責任者だ。いいものを食っているのだろう。



「それで、騎士様は今回はどういった御用で?」


「ああ、実は此処にペドロからある魔物が売られただろう?それを買い取らせて貰いたい」


ペドロ(・・・)様からの商品ですね?失礼ですがどういった御関係で?」


「――友人だ」


「そう、ですか。勿論ありますが、実は片方は売れてしまっていて……」


「どちらだ?”猿”の方か?」


「いえ、そちらが残っていまして」


「そうか。誰に売ったか教えてもらうことは?」


「お客様の情報はおいそれと話すわけには行きません。まあ勿論私達は商会(・・)ですから。お売りする物も多岐にわたりますけどね」



 そう此方に笑いかけてくるマウザー。やはり商人だけあって、金には敏感な鼻をしていた。

 しかしトーマスには、肝心の金が無かった。

 


 ーー稼いでからまた来るか。トーマスはそう思うが、あることを思いつく。

 飲んでもらえるかわからないが、とりあえず話すだけ話してみようと思い、マウザーに問いかける。



「すまないが、ソレを売るのを少し待ってもらえることは出来るか?」


「予約、ということですか?」



 無言で頷く、勿論何かしら吹っ掛けてくるのだろう。トーマスは警戒を強くする。



「勿論構いませんが。家も商会なので、より良い値段で勝っていただけるお客様がいらっしゃったら、そのお客様に売る他ありません」



 そうやって先程より厭らしい目でトーマスを見据える。



「わかっているさ。普通よりも色を付けて(・・・・・)買い取ろう」


「ありがとうございます。では、猿は全て合わせて3匹で金貨30枚とさせて頂きます」



 相場は分からないが、生き物でしかも魔物にも拘わらず意外と安いのではないか。トーマスは思った。

 魔物は要するに“危険物”だ。危険物なのだからもう少し高めだと思っていたからである。



「猿の魔物は正直売れそうにもないのですよ。片方はいい値段で売れましたが、あまり強そうにも見えず、実際に弱いと聞いています。色を付けていただいてもコレぐらいが妥当かと」



 雰囲気で察したのだろう、聞きたかったことが聞け。トーマスは満足だった。

 金貨30枚、勿論大金なのだろうがペドロからは”冒険者は稼げる仕事”と聞いている。

 その分命の危険があるのだが、俺には当て嵌らない。そのことから、トーマスにとっては天職といえるかもしれない。



 コネはあるのだから、いい仕事を紹介してもらいパパッと稼ぐとしよう。トーマスは意外と楽になりそうだと、入る前とは逆に気分が舞い上がる。



「では、金の都合ができたらまた来るとしよう」


「はい。ご来店ありがとうございました。次のご来店をお待ちしております。はい。」



 そう言い頭を下げてくる。トーマスはそれに軽く頷き、店を出た。




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