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8. 口論


 ヘルフ達4人組とは言っても、怒鳴っているにはヘルフ一人だけのようだ。

確かに他の三人――ヨルン達、も難しい顔をしているが、ヘルフのように怒り心頭、と言う程ではないらしい。



 「だからお前にはまだ早いって言っているだろ!?それに規則なんだから、お前一人で登録するわけには行かないんだよ!」



 と諭す、には若干語気が強すぎる気がするが、ヘルフは黒衣の少年に怒鳴っていた。

 ヘルフの話す内容に反論は無い様で、ヨルン達もそうだそうだと言わんばかりに、首を縦に振っていたり、生暖かい目で見ていたりする。

 周りを見てみると、大半はヨルン達の様な目で見るか、またかやれやれという感じに呆れの表情をしているものが殆どだ。



 人集りを割って現れたのにヘルフ達は全く気付く様子がなく。かなり熱くなっている事がわかった。

 そういう所がガキだと何回も注意したことを、トーマスは思い出す。

 ーーまあ、2ヶ月も経たないで直せというのも無理な話かもしれないが。そう思いながらも、溜息が出てしまっていた。



 トーマスは、黒衣の少年に目を向ける。

 外套は彼の体を覆い隠すほど大きく、フードも被っているので顔すら見えない。

 だが、雰囲気から感じるに、ヘルフのことを面倒臭がっているような、冷めた感じに見えた。



 アレだ、悟り系と言うか無気力系? トーマスは前世でよく見た、雑誌の特集を思い出す。

 酷く気怠い感じにヘルフを見ている所など、トーマスのイメージ通りであった。



 ーーこれはどういう状況なのだろうか?ヘルフが喧嘩を売ったのか? そうだとするなら、子どもに喧嘩を売る時点でヨーゼロッテなりヨルンが止めに入りそうなものだが……。周りの目が生暖かい理由も、やはり冒険者ギルドでは喧嘩が日常茶飯事なのだろうか。

 次々と沸き起こる疑問。しかし、考えても仕方ないと思ったのか、トーマスは早々に違う手段に出た。



 「――すまないが、これは一体どういう状況だ?」



 ――人に聞く。

 先程までさんざん失敗した手段を、性懲りもなく使いはじめる。隣にいた、ビキニアーマーと呼ばれる装備の女性に尋ねたトーマスに、下心は欠片もなかったのか? 少し疑問である。



「あ、あたしかい!?」



 女性は、まさか話し掛けられるとは思わなかったのか、かなり慌てている様子だ。



「そうだ……ですね。」


「別に気はしないから、普通の言葉遣いで頼む」


「……そうかい?じゃあ、そうするよ。あの黒い坊やがね――」



 ーー話し方まで姉御と言った感じだな。頭の隅で考えながら、トーマスは彼女が話し始めるのを聞き始めた。



「――というわけなのさ」


「ふむ、なるほど」



 簡単に言うと、子どもがゴネているだけだ。

 黒衣の少年は、冒険者に登録したいのだが、規則により成人――この世界では16歳――していなければ登録はできない。

 彼は見るからに子どもであり、自分でも成人はしていないと言った。

 先輩の冒険者――ランクはC級以上に限る――がいれば話は別だが、彼にとって新天地なのでアテはない。

 受付係も酷い者なら自己責任ということで登録するらしいが、受付係は女性――つまり受付嬢、しかも子ども好きなのでなんとか説得をしていたらしい。

 その途中にヘルフ達が通りかかり、今の状況になっている。トーマスが聞いた事は、概ねこのような感じだった。



「済まない、助かった。私はトーマスという」



 そう言い、手を差し出す。



「別に構わないよ。あんたは騎士にしちゃまともだしね。あたしはランカっていうんだ」



 そう言いトーマスの手を取るランカ。



「ランカ嬢か。教えて欲しいのだが騎士というのは評判が悪いのか?」



「嬢って……なんか小恥ずかしいね。まあ悪いね。あいつらは貴族ばっかりで、権威に傘に着せて好き放題さ」



 そう忌々しげに呟く。トーマスの前世と同じように、何処の世界も騎士、貴族は大差ないかも知れない。

 実際に、トーマスがモデルとしている騎士や騎士道は、ある時代の貴婦人が創りだした虚構であり、妄想だった。

 残虐非道で野盗と何も変わらないのが現実の姿だった。というのが現実の騎士である。



「そうか……」



「ああ、あんたもそうだと言っているわけじゃないんだ。すまないね」



 きにするな、と言って、ヘルフ達の方へ向き直る。

 聞く所、ヘルフ達に非はなく。むしろ褒められる行為だと、トーマスは思っていた。

 問題は少年が聞く気がないということだが、あの年代にはありがちなことである。トーマスはこのまま静観するつもりだった。



 説得? が終わるまで、ランカと話していようかとトーマスが思った瞬間、事が起きる。



「おい!まてよ!」


 

 そう言って、ヘルフが少年の肩を掴んだのだ。

 少年はヘルフの話を聞き入れる気はないらしく、無視をしようとしたのだが、ヘルフはソレが気に障った。



 肩に触れた途端、鋭い殺気を放ちながら外套の中から片刃の刀剣――腰に差していたのだろう――を抜くと同時に少年は斬りかかる。

 突然の凶行に反応できたものは少ない。ヘルフもまさか斬りかかられるとは思っていなかったのだろうあっけにとられたような顔をしていた。



 その剣閃は鋭く疾い。ヘルフの首に向け振られており、ヘルフの首を飛ばすかと思われた。



 ――俺がその刀剣を掴んでいなければ。

 トーマスはそう思いながら、少年を見下ろす。



 トーマスは人外じみた身体能力による力押しで、瞬時にヘルフ達のところまで跳び、振られる途中の刀剣を掴んだのだ。

 黒衣の少年も掴まれるとは思わなかったらしく、驚愕している。

 一方、ヘルフ達も皆アホみたいに口を開け、呆けていた。



 掴んだ刀剣は。見る限りは”刀”だ。なぜ、見る限りは、なのかというと、明らかに可怪しい点があるからだ。

 刀身の鍔の方から剣先まで梵字の様な文字がびっしりと刻まれている。

 銘を刻む様に少しならわかるが、ここまでびっしりと刻まれているのは、明らかに不自然であった。

 強度とかその他諸々、大丈夫なのか少し心配だ。トーマスは場違いなことを思った。



 しかし、おそらく強度に問題はないのだろう。刀は鎧を切り裂き、手のひらを少し切り裂いていた。

 トーマスの鎧は、最大まで強化し神様補正がついいる。並の強度ではないのだ。

 それこそ、ペドロや大陸の魔物、それこそS級でなければ傷すら付けられないだろう。

 しかも自己修復機能付きだ。トーマスが駄々をこねた成果であった。



 この少年は少なくともS級の攻撃力を持っている、と見るべきだ。

 別に登録をしてあげても構わないんじゃないだろうか……とトーマスは思うが、まあ規則は規則だ、お役所仕事みたいなものだろう。そう思い直した。



「し、師匠!?てめぇ何しやがる!」



 ようやく戻ってきたのか、ハッとした後ヘルフが激昂する。ヨルン達も次々と呆けるのをやめる。



「トーマスさん、大丈夫ですか!?今回復を!」



 慌てたようにヨーゼロッテが近寄ってくるが、トーマスは無事な手でそれを制止する。



「構わない。これぐらい直ぐ治る(・・・・)



 そう言っている間にも、黒衣の少年は刀を取り返そうと必死に引っ張っていた。

 壊さないように加減はしているが、それでもトーマスの力で掴まれたそれを取り返すことは、容易なことではなかった。



 そうしていると、彼のフードがとれる。

 その下から現れたのは正に絶世の美少年、と言える顔立ちだった。

 男の子にしては少し長めの髪を振り乱しながら、必死な顔で引っ張っている。

 衣服も黒いせいで、全身真っ黒だ。そのせいで唯一違う真っ白な肌が、いっそう際立っている。



 返したいのは山々なんだが、また斬りかかられても困るんだよなぁ……。

 トーマスがそんなことを考えていると。



「烏丸になにしてるの!?手を離しなさいよ!」



 と妙に名前の発音がいい声が聞こえた。甲高い声に、トーマスの耳が痛くなる。



 聞こえた方に振り返ってみると、そこには――。



 黒い長髪にメッシュの様になった桃色の髪が所々にある、薄紫色の綺麗な着物を着た――幼女が立っていた。




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