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7. ヴェンツェル


 ヴェンツェル自由都市連合――通称”自由都市”。



 それは計7つからなる自治都市の集まりで、商人がその次代の王から許可を貰い作ったとされる。

 あらゆる”自由”を謳い、中立を保つと公言している。



 7人の商人――今では有力なのは3家だけだが――がそれぞれ都市を作り、大規模な国にまで発展した。

 経済力だけなら、大国にも引けを取らず。武力も冒険者――参加するとは限らない――がいるので必ずしも弱いというわけでもなかった。



 ”自由”が守られているからなのか、”冒険者ギルド”発祥の地とも言われ、噂にすぎないが”盗賊ギルド”も存在しているとされる。



 最近となっては、様々な”学院”と言われる教育機関が出来、種族問わず研究をし、この異世界で最もホットな地――それがここヴェンツェル自由都市連合。



 ――というのが、ケイトが港に着く直前。トーマスに自信満々に語った内容であった。




▼▼▼




 トーマスは、ある意味初めて、この異世界の地を踏む事となっていた。

 彼は心の片隅で、あの大陸を本当の意味で異世界(・・・)とは思えなかったからである。

 あそこは異物により呼びだされた、異質な世界。だから俺は呼び出された。

 そうトーマスは思っていた。

 

 

 そして異世界という事実に少し感動しながら、トーマスは再度辺りを見直す。

 そこには港町故なのか、様々な見た目をした老若男女が忙しなく動いていた。

 鱗の生えた男が船員らしき男と話し合い、カラフルな髪をした少年少女が露天を冷やかす。

 そして、緑金色の髪をした耳の長い女性が、獣耳引っさげた女性にナンパされていたりと……実にトーマス風に言う、ファンタジーであった。

 来てから戦いに明け暮れた身のトーマスとあっては、改めて異世界を実感し、どこか感慨深いものを感じていた。

 

 

 ーーそれにしても、目立っているな。

 全身甲冑のトーマスは、全員とまではいかないが、大部分が彼を見ていた。

 見るに豪壮な騎士鎧と、異世界においても高い身長が、彼を目立たせていた。

 

 

 前世では軽い視線恐怖症だった彼が、ここまで堂々としていられるのは、偏にロールプレイの一種と開き直っているからだろう。

 ーーもしかしたら神様補正の様なものも働いているかもしれないが。

 トーマスは兜の中で呟く。

 

 

 然し一転、その場の空気が変わる。歩いてたものは足を止め、話を中断し、皆トーマスの後ろを見ている。

 トーマスが振り返ると、ペドロと三人の少女――シャロン達と、その後ろをヘルフ達が若干得意げな顔をして歩いていた。

 

 

 その事に、トーマスは驚く。

 有名だ、とは思っていたがここまでとは思わなかったからだ。

 

 

 そう思っていると、中からケイトがトーマスを見つける。すると真面目な顔から一転、満面の笑みへ変わった。



「トーマスさん!どうですかー?すごいですよね―!?すごいと思いますよね―!?」



 そう言いながら、周りを跳ねまわる。

 ーーいつもより4割増ぐらいで元気だ。いやもうちょっと元気かもしれない……。

 随分懐かれたものだ。トーマスは兜の中で苦笑いをする。

 

 

 すると、視線が一気にこちらへ向いたのをトーマスは感じた。

 視線が物理的な圧力を持っているのではないか、錯覚するほどだった。



 視線に込められたものも様々で、困惑、興味などがある。そして何より多いのが――嫉妬、であった。

 全体の7割が、負の感情であり、有名人の知り合いって大変なんだな……少し気持ちが分かった気がした。

 そんなことをトーマスに思わせた。



「ああ、こんなのを見るのは初めてだ。色々教えてもらってケイト嬢には感謝してもしきれない」



 返事をしながらも、早めにペドロ達と別れようとトーマスは話を進めていく。勿論、若干騎士らしく仰々しい言葉使いをする事を忘れずに。

 正直な所、面倒事が起こる気しかしないからであった。

 トーマスとしては、さっさと”猿達”の行方を探して、旅に出たいというのが本音だった。



「えー、そうですかー?そうですかー?」



 そう言いながら奇怪な動きを続けるケイト。その上の空具合は、トーマスの「ところでペドロ達が”猿達”を売ったのは何処なんだ?」という質問を無視するほどだった。

 

 

 それに見かねたのか、ペドロが話に入ってくる。

 

 

「あー、すまん。たしかな……“リスタル商会”ってところだ」



 目的地を聞いたトーマスは、足早に立ち去ろうとする。

 

 

「ありがとう。もし暇ができたら、また会いに行く」



 人によってはそっけなさを感じる口調で、別れを告げる。が、しかしーー。

 

 

「まてよ、うちの若いもんでもつけるか?ヘルフとか」


「いや、そちらも用事があるだろう?子どもでもないんだ、一人で大丈夫だ」


「そうか?まあソレならいいんだが……」



 無理にとは言わないのか、早々に身を引くペドロ。



「困ったことがあったら、”ギルド”に連絡してもらえれば会えますからー!」



 復活したのか、最後にケイトがそういう。返事の代わりに手を振り、トーマスは背を向け歩き出した。

 

 

 

▼▼▼




 トーマスは先程とは一転し、トボトボと肩を落としながら歩いている。

 

 

 別れたから数時間経っているにも関わらず、トーマスは見つけられないでいた。

 トーマスにとっては初めての地。ということもあるだろう。しかし、それだけではなかった。

 町の人々ーーそれも旅人、冒険者までも、が明らかに冷たい態度をとることが最大の理由だ。

 

 

 騎士というだけで、怯え、不審な目で見られ、酷い時には敵意を向けられる。

 町の住人全てが騎士にいい思いを抱いておらず、そして見るからに騎士、なトーマスにとっては人に訊ねることすら困難だった。

 

 

 結局トーマスはペドロを頼ることとなり、冒険者ギルドに向かっている所であった。

 なぜギルドに向かうかというと、冒険者登録をするためである。

 騎士よりは冒険者の方が、まだ外聞がいい。それに聞く所、色々(・・)便利な所があるのも踏み切った一因である。

 

 

 暫く足を進めると、前方に大きな建物が見えてくる。

 木造の三階建て。作り自体は無骨な、丈夫さを重視したものにだ。野太い柱、重厚な木扉。

 全体的に大きく作られ、見る人によっては大雑把なものに見えるかも知れない。

 

 

 トーマスは軽く緊張しながらも、中へ入っていく。

 入った途端、肌をピリピリするような感覚を覚える。内部は緊張感に満たされ、トーマスは厄介事の予感を感じる。

 

 

 しかし。トーマスに視線を向けられることはなく。全員の視線が一点ーーカウンター近くに寄せられていた。

 人だかりが出来ており、トーマスからは何も見えなかった。

 好奇心に負け、トーマスは人だかりの中心部へ向かう。

 

 

 

「すまない、道を開けてくれないか?」


「あぁん?――っ、すいませんしたぁ!」



 強面のお兄さんにすら怯えられ、トーマスは少し沈む。

 

 

 そして、それに気付いたのか。人垣が左右に割れ、さながらモーゼのようだった。むしろトーマスは心の片隅で思っていた。

 

 

 トーマスはカウンターに向け歩き出す、そこには意外な事に、彼にとって見知った顔がいた。


 黒い外套の少年と喧嘩――いや、一方的に捲し立てているのは、船で一緒だったヘルフ達4人組だった。



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