7. ヴェンツェル
ヴェンツェル自由都市連合――通称”自由都市”。
それは計7つからなる自治都市の集まりで、商人がその次代の王から許可を貰い作ったとされる。
あらゆる”自由”を謳い、中立を保つと公言している。
7人の商人――今では有力なのは3家だけだが――がそれぞれ都市を作り、大規模な国にまで発展した。
経済力だけなら、大国にも引けを取らず。武力も冒険者――参加するとは限らない――がいるので必ずしも弱いというわけでもなかった。
”自由”が守られているからなのか、”冒険者ギルド”発祥の地とも言われ、噂にすぎないが”盗賊ギルド”も存在しているとされる。
最近となっては、様々な”学院”と言われる教育機関が出来、種族問わず研究をし、この異世界で最もホットな地――それがここヴェンツェル自由都市連合。
――というのが、ケイトが港に着く直前。トーマスに自信満々に語った内容であった。
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トーマスは、ある意味初めて、この異世界の地を踏む事となっていた。
彼は心の片隅で、あの大陸を本当の意味で異世界とは思えなかったからである。
あそこは異物により呼びだされた、異質な世界。だから俺は呼び出された。
そうトーマスは思っていた。
そして異世界という事実に少し感動しながら、トーマスは再度辺りを見直す。
そこには港町故なのか、様々な見た目をした老若男女が忙しなく動いていた。
鱗の生えた男が船員らしき男と話し合い、カラフルな髪をした少年少女が露天を冷やかす。
そして、緑金色の髪をした耳の長い女性が、獣耳引っさげた女性にナンパされていたりと……実にトーマス風に言う、ファンタジーであった。
来てから戦いに明け暮れた身のトーマスとあっては、改めて異世界を実感し、どこか感慨深いものを感じていた。
ーーそれにしても、目立っているな。
全身甲冑のトーマスは、全員とまではいかないが、大部分が彼を見ていた。
見るに豪壮な騎士鎧と、異世界においても高い身長が、彼を目立たせていた。
前世では軽い視線恐怖症だった彼が、ここまで堂々としていられるのは、偏にロールプレイの一種と開き直っているからだろう。
ーーもしかしたら神様補正の様なものも働いているかもしれないが。
トーマスは兜の中で呟く。
然し一転、その場の空気が変わる。歩いてたものは足を止め、話を中断し、皆トーマスの後ろを見ている。
トーマスが振り返ると、ペドロと三人の少女――シャロン達と、その後ろをヘルフ達が若干得意げな顔をして歩いていた。
その事に、トーマスは驚く。
有名だ、とは思っていたがここまでとは思わなかったからだ。
そう思っていると、中からケイトがトーマスを見つける。すると真面目な顔から一転、満面の笑みへ変わった。
「トーマスさん!どうですかー?すごいですよね―!?すごいと思いますよね―!?」
そう言いながら、周りを跳ねまわる。
ーーいつもより4割増ぐらいで元気だ。いやもうちょっと元気かもしれない……。
随分懐かれたものだ。トーマスは兜の中で苦笑いをする。
すると、視線が一気にこちらへ向いたのをトーマスは感じた。
視線が物理的な圧力を持っているのではないか、錯覚するほどだった。
視線に込められたものも様々で、困惑、興味などがある。そして何より多いのが――嫉妬、であった。
全体の7割が、負の感情であり、有名人の知り合いって大変なんだな……少し気持ちが分かった気がした。
そんなことをトーマスに思わせた。
「ああ、こんなのを見るのは初めてだ。色々教えてもらってケイト嬢には感謝してもしきれない」
返事をしながらも、早めにペドロ達と別れようとトーマスは話を進めていく。勿論、若干騎士らしく仰々しい言葉使いをする事を忘れずに。
正直な所、面倒事が起こる気しかしないからであった。
トーマスとしては、さっさと”猿達”の行方を探して、旅に出たいというのが本音だった。
「えー、そうですかー?そうですかー?」
そう言いながら奇怪な動きを続けるケイト。その上の空具合は、トーマスの「ところでペドロ達が”猿達”を売ったのは何処なんだ?」という質問を無視するほどだった。
それに見かねたのか、ペドロが話に入ってくる。
「あー、すまん。たしかな……“リスタル商会”ってところだ」
目的地を聞いたトーマスは、足早に立ち去ろうとする。
「ありがとう。もし暇ができたら、また会いに行く」
人によってはそっけなさを感じる口調で、別れを告げる。が、しかしーー。
「まてよ、うちの若いもんでもつけるか?ヘルフとか」
「いや、そちらも用事があるだろう?子どもでもないんだ、一人で大丈夫だ」
「そうか?まあソレならいいんだが……」
無理にとは言わないのか、早々に身を引くペドロ。
「困ったことがあったら、”ギルド”に連絡してもらえれば会えますからー!」
復活したのか、最後にケイトがそういう。返事の代わりに手を振り、トーマスは背を向け歩き出した。
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トーマスは先程とは一転し、トボトボと肩を落としながら歩いている。
別れたから数時間経っているにも関わらず、トーマスは見つけられないでいた。
トーマスにとっては初めての地。ということもあるだろう。しかし、それだけではなかった。
町の人々ーーそれも旅人、冒険者までも、が明らかに冷たい態度をとることが最大の理由だ。
騎士というだけで、怯え、不審な目で見られ、酷い時には敵意を向けられる。
町の住人全てが騎士にいい思いを抱いておらず、そして見るからに騎士、なトーマスにとっては人に訊ねることすら困難だった。
結局トーマスはペドロを頼ることとなり、冒険者ギルドに向かっている所であった。
なぜギルドに向かうかというと、冒険者登録をするためである。
騎士よりは冒険者の方が、まだ外聞がいい。それに聞く所、色々(・・)便利な所があるのも踏み切った一因である。
暫く足を進めると、前方に大きな建物が見えてくる。
木造の三階建て。作り自体は無骨な、丈夫さを重視したものにだ。野太い柱、重厚な木扉。
全体的に大きく作られ、見る人によっては大雑把なものに見えるかも知れない。
トーマスは軽く緊張しながらも、中へ入っていく。
入った途端、肌をピリピリするような感覚を覚える。内部は緊張感に満たされ、トーマスは厄介事の予感を感じる。
しかし。トーマスに視線を向けられることはなく。全員の視線が一点ーーカウンター近くに寄せられていた。
人だかりが出来ており、トーマスからは何も見えなかった。
好奇心に負け、トーマスは人だかりの中心部へ向かう。
「すまない、道を開けてくれないか?」
「あぁん?――っ、すいませんしたぁ!」
強面のお兄さんにすら怯えられ、トーマスは少し沈む。
そして、それに気付いたのか。人垣が左右に割れ、さながらモーゼのようだった。むしろトーマスは心の片隅で思っていた。
トーマスはカウンターに向け歩き出す、そこには意外な事に、彼にとって見知った顔がいた。
黒い外套の少年と喧嘩――いや、一方的に捲し立てているのは、船で一緒だったヘルフ達4人組だった。




