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10.十強名武器

「この世界で名剣、名槍などと呼ばれるものは、ざっと二、三十ある。その中でも特に名だたる十の強力な武器は、上からこうなる。

 一番は、大剣オークウィング。この剣はエジン王国の王の剣だ。斬撃時に稲妻が出るとか。

 二番は、ミスリルとオリハルコンの合金を刃として持つ槍エルケル。エジン国アーク伯爵家の家宝。

 三番は、古代テスラ王国時代、エルフが鍛えたというダガー、スクウェイヴ。ミランジェ王国の国宝だ。

 四番は、氷の剣。銘は無いが、恐らくこれも古代テスラ王国時代にドワーフが造ったものだと伝えられている。これもミランジェ王国の宝。

 五番は、水竜エイダリアの鰓の下から出て来たという、ロングソード、ウィンディア。水の魔法剣で持ち主はミランジェ王国の公爵ボンソン公だ。

 六番は、旧シールド国で発見された名槍ムーンスクウェイア。オリハルコンとゴルニア剛の合金の刃を持っている。実は、この槍だけは行方不明なのだ。最後の持ち主はエジン国の二代前の将軍オーギンス侯だったのだが。侯亡きあと、忽然と屋敷から消えたらしい」


「ぞ、賊に盗まれた、というお話も、ありましたが……」エステルが自信なさそうに言った。


「それも諸説のひとつだな。――続ける。

 七番は、小剣エイブラハム。異世界人が持っていたという伝説があるが、不明だ。シス王国の宝物にして、小剣ながら炎を纏う魔法剣だ。

 八番は、大槌ナフタリアン。古代テスラ王国時代のドワーフ王の武器だったという話だ。今はロシュタリア王国の宝物庫にあるが、何せ重すぎて、どんな大男でも、一人では持ち上げられないという難物だ」


 そこでトーリとグレイスが小さく吹き出した。


「なんで笑うんだ?」ただ重量級だという槌が、どうして女子の笑いを取るのか?


「ナフタリアンは、その重さ故に、過去に二度、ロシュタリア王宮の二階の謁見の間の床を破壊しているのです」と、笑い含みにトーリが明かした。


「そう。国賓がお出でになったと言うので、わざわざ衛兵が十人掛かりでやっと宝物庫から持ち上げて来て、いざ披露となり床に置いた途端に、どーんっ!!」


 それを一度ならずも二度も、ロシュタリア国王はやっている、とグレイス。


「そりゃ、確かに笑うわ」樹も苦笑した。


「一回やりゃあ、普通は分かるよな」


「でしょう?」と、二人はまた笑う。エステルも頬を引き攣らせていた。


「……九番は」と、アレクが少し不機嫌な声で続けた。


「大剣フレイムギア。名の通り炎の魔法剣だ。だが意思がある如く、柄を握っても何でもない人間が居る一方、鞘に触れただけで炎が噴き出し、大火傷をする者もいるという。アーケンの総合大神殿の宝物庫に保管されている」


「えっ? じゃあこんなとこまで来なくたって、そいつを最初に見せてくれれば……」


「バァカ」抗議した樹に、アレクは鼻を膨らませた。


「モノは癖の強い魔法剣だぞ? エジンの熟練の正騎士でも扱いに手こずる得物を、見習い剣士よりもまだ下手くそな勇者なんぞに触らせられるか」


 あまりに人を見下した言い方に、樹はむかっとする。


「相性があるんだろ? だったら俺と合うかもしれねえじゃんかっ。触りもしないうちからダメってなんだよってんだっ!!」


「タツキ」アレクは、小柄な身体からは想像できない程の気迫で、睨み付けて来た。


「魔法剣をなめるなっ。過去には、ろくに剣の稽古をしなかった王子が宝物庫にこっそり入り込んで、魔法剣を振ったために、王都が崩壊した国もあったんだぞ」


 魔王の剣も魔法剣なんだろう。

 でなければ、今居る旧サスワット国が瘴気が覆う砂漠になり果てる筈が無い。

 だが。


「魔王が何時現れるかって、俺まだ聞かされてないぜ? 予言の女神とやらのご宣託が遅れてるのかもしれないけど、それならそれで、早いとこ勇者の俺が使える武器を手に入れなきゃなんないだろうがっ!!」


「おまえって奴は……。ほんっとにアンポンタンだなっ!!」


 アレクがずいっ、と樹に顔を近付けた。金の瞳が怒りで大きく見開かれている。ド迫力満点の眼力を、樹は臆することなく見返した。


「だっれが、アンポンタンだよっ!! さっきも言ったろ!? さっさと武器を手に入れるのがいいんなら、魔法剣だろうが一か八か試してみなきゃ――」


「だあからっ、能天気のスカタンだって言ってるんだっ!! もし、フレイムギアがおまえを気に入らなかったら、アーケンが火の海になる可能性だってあるんだぞっ!?」


「逆もあるかもだろーがっ!!」


「んな危ない賭けして、エジンの王都を危険に晒せるかっ、アホウっ!!」


 アレクは焚火の明りでも分かるほど顔を怒りで真っ赤にして、頭二つ分は背の高い樹の襟首を掴んだ。


「これはおまえらの世界のゲームとやらじゃないんだっ。一国の、いや、メラニの全人類の命が掛かってるんだっ!! それが分からないスットコドッコイなら、勇者なんか止めて、とっとと自分の世界へ帰れっ!!」


「俺だって、帰れりゃ帰りたいさっ!!」樹は叫んだ。


「けど、向こうの俺は、もう死んでるかもしれないっ。還れるにしても、こっちの、勇者の仕事をきっちりこなさなきゃダメかもだろーが!!」


「ああもうっ、二人共っ」グレイスが、樹の襟を掴んでいるアレクの手を軽く叩いた。


「声が大きいわよ。さっきの連中に聞こえてしまってるかも」


 アレクが、我に還ったという表情で、樹の襟を放す。


「そ、それはありませんから」と、エステルが神聖魔法で遮音結界を急いで張ったと言った。


 ヒートアップして立ち上がってしまっていた樹は、ほっとして座り直した。

 アレクも、同じように座った。


「……アレクは、勇者(おれ)に恨みでもあんのかよ?」最初から、事ある毎に皮肉や小馬鹿にしたような言動を取るのが気になる。


 アレクはむすっとした表情のまま、「別に」と答えた。


「ただ……。どうしていつも勇者が他所の人間なのかって思ってただけだ。メラニの危機なのに、メラニに住んでる私達を、神々は絶対勇者に選ばない」


「え? そうなん?」初めて聞いた話に、樹は驚く。


「ああそうだ」アレクは、吐き出すように答えた。


「もしかしたら」と、トーリが、焚火の薄明かりにきらり、と黒い目を光らせた。


「神々の何らかのご事情によるお取決めなのかも知れませんが。最初に魔王がこの世界に現れた二千五百年前も、勇者は異世界の方でした」


 ちらり、とトーリの目がエステルを見た。

 エステルはぶんぶん、と首を振った。


「わっ、私は巫女ですがっ、そういった契約の話をご宣託でも聞いたこはありません。――アーガリル様なら、ご存じかもしれませんが」


「そっかー。それが、アレクには面白くねえのか」


 樹は、正騎士として、自分達でこの国を護りたいと思っているアレクの気持ちが、何となくだが分かった。

 大雑把でぶっきらぼうで、つっけんどん。女らしい部分は欠片も無いが、武人としての誇りは誰よりも持っているアレク。

 彼女の一途さが可愛くなって、樹は我知らず笑みを零した。


「――話、それちまったけど。それで? 最後の十番目の剣ってなに?」


 アレクは、今更聞くか? と文句を言いつつも答えてくれた。


「魔王の剣、だ。ただこいつはいかんせん、人間にも勇者にも使えない。――この剣を勇者が使えたら、多分魔王どころか悪神だって殺せるかもな」


「ま、魔王の剣はっ、だから番外です」と、エステル。


「使用可能、なものとしては、名峰タイロ山から近年見つかった、古代の魔法剣カルカトーリでしょうか」


 武器の名を聞いた樹は、あれ? と思った。


「トーリの名前って……、もしかして、その武器から来てる?」


「正確には、違いますが、ある意味では。

 カルカトーリとは、古代テスラ語で『刃の花』という意味です。カルカが刃、トーリが花、です。ですので、この武器――剣は二本一組で、一本はロングソード、もう一本はショートソードだそうです」


 ロングソードとショートソードの2本1組。樹は、江戸時代の武士の刀と脇差に似てるな、と想像する。


「二刀流用か」トーリの説明に、良い武器はまだ借りられない、と言い張っていたアレクが、何故か渋い顔をした。


「あれ? って、アレクも、カルカトーリが二本だってのは知らなかったのか?」


「出所と名は知っていたが、形状までは聞いてなかった」


 珍しい、と樹が言うと、アレクは「つい十年ほど前に発見された剣だし、他国の人間の持ち物だからだっ」と唸った。


「それでも、トーリは知っていた、と」


「やかましいっ。トーリの家の仕事は、古代語呪法の研究と実戦だ。その中には、古代国家の魔法剣の研究も入るっ。――現在の持ち主は、確か、旧サスワット国西部に新しく出来た街の首長だったな」


「ガルシア・メンデス。元はロシュタリア王国の下級貴族で冒険家。カルカトーリとその他の財宝をタイロ山の洞窟から探し出して、巨万の富を得たお人でさあ」


 案内人が、我がことのように自慢した。


「もし借りられる、としても、二刀流の剣じゃあな……」呟いた樹に、アレクが鼻で笑った。


「心配しなくてもいい。絶対、借りられないから」


 またむかっとして喰って掛かろうとした樹より先に、珍しくエステルが樹を擁護した。


「そっ、それは少し、言い過ぎでは? まっ、万が一ということも、ありますし」


「何の?」アレクは、可能性など微塵も無い、と言わんばかりに、エステルのほうも見ずに鍋を掻き回す。


「そっ、それはあ……」どうも口が上手くないエステルは、それ以上反論出来ずに黙ってしまう。


「アレクは、俺が、まだ下手くそだからって、言いてえんだろ?」


 自嘲気味に言ってやった樹に、アレクは人の悪そうな笑みを浮かべる。


「分かってるじゃないか。とにかく、ニルヴァに行ってみて、新しい街だ、良い武器や武具があるだろう。タイロ山付近で少し稼いで、新調するって心積もりでいろ。その辺りで今は我慢しておけ」

ううっ……

また悪い癖で、話が中々先に進まない……


今回は、アレクと樹の口ゲンカで終わってしまいました。すいません。

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