プロローグ
結構戦闘シーンは出てくる予定です。相手は人間、モンスター問わず。
更新は早くはない(いつもの如く~)ので、生温かい目で見てやって下さると助かります。
夜の児童公園は、ひっそりと静まり返っていた。
「……ここで、哲弥と遊んだっけな」
古い街灯が弱々しく明滅を繰り返す下の木製のベンチに腰掛け、一ノ瀬樹は、数か月前の幼い息子との幸せな時間を思い出していた。
束の間の休日に、家族でこの公園に訪れた。
散り始めの桜の木の下の滑り台に上がってはしゃいでいた、可愛い息子の笑い声。
滑り降りて来た息子を抱え上げた自分を、側で妻が笑顔で見ていた。
幸せだった。この春までは。
それから数日と経たずに、樹は不運のどん底に突き落とされた。
連鎖倒産。
父から受け継いだ、弱小ながら堅実に経営していた不動産会社は、取引先の倒産に巻き込まれた。
抱えていた物件はおろか、事務所も手放した。自宅も、事務所と兼用だったため、出ざるを得なかった。
全て会社の資産として登録していたので、倒産手続きをすれば、本来ならそれで終わりな筈だった。
が、取引先が暴力団の系列会社と関わっていたために、樹は違法な取り立て屋に追われる羽目になった。
自分はいい。しかし、妻と息子を危険に晒すわけには行かない。
嫌がる妻を説得し、離婚届を出した。息子と妻を、妻の実家に送り届け、樹はその足で、取り立て屋から逃げた。
四ヶ月の逃亡生活で、すっかり薄汚れてしまった紺のスーツを脱ぐと、樹は無造作にベンチの背に掛けた。
ぎしっ、と、背凭れが不穏な音を出す。
少し気になったが、まあいいか、と、樹は今日初めてとなる食事――アンパンとペットボトルの水を口に運んだ。
友人に頼み込んで借りた金も、そろそろ底をついている。
何処か、追っ手に見つからないところで住み込みの職でも探さなければ、この先は完全に飢え死にだ。
――いや。いっそ死んだ方が、妻にも息子にも被害が及ばないかもしれない。
どころか、自分の生命保険が、いくらでもないが妻の手に入る。
ふっと浮かんだネガティブな考えに、樹は慌てて首を振る。
ずっと前しか見て生きて来なかった自分が死を考えるなんて。
「さすがに、疲れて来てるな、俺」
ぼやいて、食べ終わったアンパンの袋をぎゅっ、と握る。ペットボトルの水を一口飲み、蓋を締めると、ベンチの上に置いた。
とにかく、今夜はここで明かそう。
明日は、また別の知り合いのところへ寄り、仕事の口が無いか訊いてみよう。
三十九歳。まだ、家族のために死ぬわけにはいかない。
樹は腹を決めると、大きく伸びをし、ベンチの背凭れに背を預ける。
その瞬間。
バキバキっ!! という不穏な音と共に、背凭れが壊れた。
「うわあっ!!」
バンザイの姿勢のまま、樹は背凭れと一緒に引っ繰り返る。
運の悪い事に、植え込みを囲むコンクリートブロックに、頭を強打した。
声も挙げられない程の激痛が、後頭部を襲う。
そのまま、樹は昏倒した。
ちょーマヌケな樹ですが、魔王と出会うまでには恰好よくなるよう仕上げたい・・・です><