5章
夕食の準備をする。今日もはりきってクッキング、といきたいところだが、あまりにも疲れていたので簡易バージョンにする。
袋ラーメンに、野菜炒めと卵をのせるという食事にする。一手間かけるのが、せめてもの抵抗だ。
「いただきまーす」
「いただきます」
今日も当たり前のように幸恵がいる。当然のように食卓を囲む。
「亮ちゃん、七味唐辛子はないの?」
「ないよ。欲しいなら、自宅から持ってくれば? というか、袋ラーメンなんだから自宅でメシ食った方がうまかろうに」
幸恵は美味しそうに食べてくれるが、いくらなんでも今日の料理は、他人をごちそうするにはいささか物足りない。
「いいの、いいの。作ってくれるなら、何でも美味しいから」
「タダ飯は何でも美味いとか、そういう理屈か。将来は立派な主婦になれるよ」
スーパーの試食コーナーで、美味しそうに食べている幸恵の将来を想像した。店員は迷惑そうにしている。
「将来かあ……、ねえ明日が締め切りだけど、進路予定表は書いた?」
「そういえば、そんなのがあったな」
音楽室で、姫野さんにも言われたことを思い出す。彼女は、俺に選んでほしいと言っていたが、あれはどういう意味だったのだろうか。
「何か考え事してる……。もしかして、好きな人のこと?」
「どどど、どうしてこの話の流れで、そういう結論になるんだよ!!」
「女のカン」
はっきりと言われる。
「でもさ、亮ちゃんが何を選んだって、私はそれでいいと思うから。私は味方だよ」
幸恵がラーメンの汁に、ご飯を投入する。
「行儀悪いなあ」
「いいの、それが私の選んだ選択なんだから」
◆
食事を終えた後、まったりとくつろぎタイムが発生。だらだらとバラエティ番組を二人で眺めていた。
「はー、すっかりたくましくなったよねー」
「何だよ、急に」
「泣き虫亮ちゃんの面影はなくなったよね」
昔のことを持ち出される。
「旅の邪魔になるからって、子供を一人で残していく親ってどうよ? そりゃあ、泣きもするさ」
「そうだよねえ、ウチに預けられた最初は、いっつも泣いてたからねえ」
あの頃は確かにそうだった。そんな俺の手を引っ張って、一緒に遊んでくれたのは幸恵だった。
「あー、改まって言うのも照れくさいけど、ありがとうな」
「ううん、私の方こそ、今までありがとう。そして……、さようなら」
「え?」
「何でもない、忘れて」
今の台詞が何でもなかったかのように、幸恵はいつもの様子でテレビを見ていた。
何か嫌な予感がする。けれど、それを具体的に示す証拠は何もなかった。
続く