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4章

 職員室パート3。いいかげん、周りからの視線が痛い。


 事情聴取じじょうちょうしゅということで、その場にいた二見ふたみと二人で並んで話を聞いていた。イジメていたと思われる、女子生徒のむれは、雲散霧消うんさんむしょうしていた。


「大王丸君、キミには勉強をしてほしいと、あれほど言ったばかりなのに……」


 校長先生が、わざとらしく大きなため息をつく。


「校長先生、誤解です!! 俺は、イジメの現場を押さえたんです!!」


「きしゃーっ!!」


 校長先生が、威嚇いかくの声を上げる。初めての体験だった。


「イから始まる三文字の言葉はNGだと、あれほど言ったのが分からないのか!! キミは社会勉強という名目で隔離かくりされたいのかね!!」


「通報ですか!?」


「私は責任問題に発展するのを回避したい。後は、さっしてくれるね?」


「俺、頭悪いんで何の事だか分からないです」


「いや、キミは賢い。実に賢いな。で、何が欲しいのかね?」


「は?」


 校長先生が、くるりと背を向けて、誰にともなく語り始める。


「進学のための内申点、ないしは校長推薦がいいかな? それとも、複雑な経路で渡っていく、贈り物という名の金銭的やり取りがいいのかね?」


 汚い大人の本領発揮ほんりょうはっきだった。


「そんなんじゃありません!! 俺はただ……」


 抗議の声を上げたところで、それまで沈黙を保っていた二見さんから、突然手を握られる。


「え……」


 驚いて二見さんを見つめると、小さく横に首を振る。


 校長先生が振り返って、二見さんを見る。


「ああ、もちろん彼女の分も用意させてもらうよ」


「分かりました、では何もなかったことにします」


 本人がこれ以上騒ぎたくないというなら、そうせざるを得なかった。


「そうか、分かってくれて嬉しいよ。ところで、ハムとお菓子ではどちらが好みかね?」


「いりません!!」





 何だかもう、ぐったりと疲れて教室に戻る。今日の授業も終わりだった。


「掃除か……」


 今日は、音楽室を掃除する当番になっていた。


 音楽室に入ると、そこには同じ当番の姫野ひめのかおるさんがピアノの前に一人で座っていた。


「あ、あの他の人はまだ来ていないのかな?」


「他の方々でしたら、本日はご用があるから、いらっしゃれないと言ってましたわ」


 分かりやすくいうとサボりだった。


「そうなんだ。き、今日は二人きりだね」


「ええ」


 姫野さんが、ウェーブのかかった髪をゆらしながら、おっとりとうなずく。


「頑張ってやらないとね」


「ええ、頑張ってくださる?」


 命令形&疑問文で返される。ピアノの前から、動き出す気配は見えない。つまりは、そういうことだ。


「頑張らせていただきます」


 その王族的なオーラに圧倒され、うやうやしくへりくだってしまう。根っからの庶民体質だ。


 床を掃いてゴミを集め、雑巾を絞って窓を拭く。その間、姫野さんはピアノを引いて、作業用BGMを流してくれた。役割分担が出来ていた。


「ところで、姫野さんは進路予定表に何て書かれたのでしょうか?」


 この前の幸恵との会話を思い出して、お尋ねしてみる。姫野さんはピアノを演奏する手を止め、考え込む。


「いえ、まだですわ」


「姫野さんは、どこでもいけるから迷われるのですね」


 学校の成績もよければ、お金もある。自分とは違って、選択肢が多すぎて悩んでしまうタイプなのだろう。うらやましい話だ。


「私は、あなたに選んでほしくて」


 こっちを、じっと見つめて言われる。


「えっと、それは多すぎて選びきれないからダーツを投げて決めるように、適当に選んでくださる? という話ですか」


 姫野さんは、イスから立ち上がってこっちに近づいてくる。


「いいえ、真剣に選んでほしいのです。あなたがもっとよく考えて、もっとよく私を見て、選択してほしいのです」


 じっとこっちの目を見つめて言われる。その澄んだ瞳を見ていると、何だかドキドキとしてきた。


「コラー!! まだ掃除が終わらないのかー!!」


 音楽室の掃除を監督している、体育教師が入ってくる。俺は慌てて、視線を逸らす。


「また、近いうちに……」


 姫野さんは、小さな声でつぶやいた後、先生に会釈して、音楽室を去っていく。俺は、一人残される形になった。


「どうした大王丸? 顔が赤いぞ」


「いえ、何でもありません」


 俺は、さっき言われた言葉がどういう意味なのか、まだ理解できずにいた。





 どうにか掃除を終え、音楽室を出たところで声をかけられる。


「キミは、大王丸だいおうまるりょう君だね?」


 声をかけてきたのは、どことなくキザな感じをただよわせた男子生徒だった。


「えーと、どこかで見たことがあるような……」


「隣のクラスの陣内じんないだ。キミは、姫野さんとどういう仲なのかな?」


「クラスメイトで、今日はたまたま同じ掃除当番だったのですが」


 チッチッチ、と指をふって否定される。動作がいちいちカンにさわる男だった。


「違う違う。とてもそんな風には見えなかったな。キミは、ひめれているのだろう?」


 いきなり親しげな愛称で呼び始める。


「あなたには関係のない話ですね」


「関係大ありさ! 分かった、率直に言おう。姫から手を引きたまえ!」


 ビシッ、と決めポーズと共に指を指される。


「別に従う理由もないんで、それじゃあ失礼します」


 俺はさらっと受け流して、帰宅することにした。


「待ちたまえ!! もっと他人の話を聞きたまえ!!」


「他人の話は聞き飽きたので、もう充分です」


「それはキミの勝手な都合だな。いいから、僕の話を聞きたまえ」


 勝手な都合を押しつける男、陣内だった。


「あ、今日は早く帰ってたまげっちに餌をやる予定なんですいませんけど」


 適当な嘘を言って、走って逃げる。これ以上変人とはかかわり合いになりたくなかった。



続く


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