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春-それが初恋だから-  作者: 宮嶋 実果
8/10

〇7〇

 世の中の縁と言うモノは実に奇妙だ。

 それまで全く別の人生を歩んでいたのに、偶然が幾つも重なり、それが必然となり、やがて運命へと名前が変わっていく。


「紹介します。今日から小野田さんと一緒に働いて下さる小泉 春乃さんです。小泉さんは本社の人間ですが、先月入社したばかりなので、基本的には小野田さんと同位置です。仕事の始業は午前8時からで、15時には掃除を終わらせて下さい。15時からはその日の業務日誌を書いて提出して頂きます。――何かご質問は?」


 相変わらずのお人柄だ。

 この人は奥さんと仕事の事しか考えてないのだろうか。まぁ、それがこのヒトの普通なんだろうけど。


 私は質問は特にないと断ると、久しぶりに逢った人にぺこりと軽く頭を下げて挨拶をした。


「小野田 梅子です。宜しくお願いします。」


 初めましてとも、お久しぶりですとも私が言葉にしなかったのは、そう言う単語を選ばなくても良いと判断したからだ。それに誰だって一度食事を世話をしてくれただけの人間に馴れ馴れしくされたくないだろう。との私の心からの親切心は真正面から無視された。

 忘れていたが、相手は真夏の駅内ビルで倒れたホームレスである。まともな人である筈がなかったのだ。


「久しぶり、元気だったか?小梅」


 おい、いきなり呼び捨てかよ。

 しかもその名前すら間違ってるぞ。


 私は自分の気遣いをあっさりと払いのけてくれた家なし男を一睨みした後、仕方なく改めてぺこりと頭を下げた。

 そして、その後で。


「小泉さん、私の名前は小梅じゃなくて梅子です。私は某飴のキャラクターではありませんよ。」


 名前はきっちり訂正させて貰った。人の名前を間違えるとは何事だ。相手が私だったから良かったけど、相手が取引先のド偉い人だったらどうするつもりだ。幼児みたいにごめんなさいじゃ済まされないんだぞ?


 私のこのくどくどと年寄りくさい長話の間に、仕事人間な怖いお人は、さっさと暗い地下の部屋から退散し、小泉さんは頭にフェイスタオルをキッチリと巻き、首元にも汗用のタオルをしっかり装備していた。


 その事にまた苦言を呈せば。


「細かい事はいいじゃないか。それに梅子は小さいからやっぱり小梅だ。――行くぞ」


 最後にマスクをしたホームレス男性改め、小泉さんはひょいっと金属製の脚立を左肩に担ぎあげ、掃除道具や電球やらが詰め込まれた段ボールが乗っているカートを右手一本で押して、私に自分の後ろに着いてこいと命令してきた。

 

 私はそんな小泉さんの態度に着いては行けなかったが、とりあえず仕事をする事には反対意見が無かった為、仕方なく彼の後に着いて行き、その後直に後悔する事になってしまったのだった。

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