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太陽王の疑問・2



 執務机に広げられた地図には、蘇った風地火水の神獣の神殿に丸印が描かれていた。その地図を眺めながら、王はとりあえず王都の大神殿の監視を強化するように指示する。


 神獣を目覚めさせる行為は世界の救いになることであり、現に蘇った神獣の影響で、気温や天候は元のように安定するようになってきている。農作物の実りや、森林の減少、砂漠化への影響は、もうしばらく待たなければはっきりとした状況は分からないだろう。けれど、確実に世界は救われようとしているのだ。

 神獣を蘇らせてくれていることは、ありがたいことには変わりはないが、それでもその原因がつかめないというのは落ち着かないものがあり、また今後の対策のとりようもなかった。



「陛下、月姫様からお茶会への招待状が届いております」


 そう言って差し出された封筒に、聖王国エイクレイデアの現王リーフリッドは眉根を寄せた。

 王の頭を悩ませている現状のもう一つが、これである。


 古くから伝わる伝承では、世界を創った太陽王と月姫は、共に地上に降りてこの聖王国を建国し、太陽王が初代国王に、月姫が王妃の座に就いたとされている。そして、月姫が異世界で輪廻を繰り返すように、太陽王も聖王国エイクレイデアの王族のなかに生まれ変わると言われている。現に、前回月姫が召喚された際に、王位についていたのが太陽王の生まれ変わりであり、二人は再び夫婦となったとされる。

 太陽王の特徴は、その歴代王の中でもずば抜けて強い魔力であると言われているが、太陽王であることを決定づけるのが、月姫との関係なのだという。なんでも、太陽王と月姫は、一目まみえるだけで恋に落ち、どのような状況にあっても互いに惹かれあう運命にあるらしい。


 話を聞くだけならば、そんなことがあり得るのかと疑わしく思えなくもなかったが、前回の月姫と太陽王も、召喚によって月姫が現れ、王と目を合わせた瞬間に、魂が引き合うように寄り添い、婚姻を交わし、死ぬまで深く愛し合い傍に居続けたのだという。まるで、離れ離れになった半身が一つになり、ようやく満たされているかのように。


 その話を聞いたマイアは、リーフリッドが自分の夫になるのを当然だと思っているらしい。実際に、召喚され、自分を見つけ出したリーフリッドを見て、その場で恋に落ちたのだから、と。

 しかし、リーフリッドはマイアに惹かれはしなかった。美しい女性だとは思ったが、愛おしいというような感情は沸かなかった。そのことは、宰相にしか告げてはいないが。


 もしかしたら、自分は太陽王の生まれ変わりではないのかもしれないとも考えた。だが、リーフリッドは歴代のなかで、初代国王に並ぶと言われるほどの純粋で膨大な魔力の持ち主である。そして、現在確認されている範囲では、リーフリッドを超える魔力の持ち主は存在しない。

 ならば、どこかに間違いが生じているのだろうか。それは、古くからの伝承にか、リーフリッドにか、それとも、月姫とされているマイアにか。



 現在、マイアは大神殿に身を置き、神官や巫女達によって世話をされている。

 こちらの都合で、無理矢理生まれた地から連れてきてしまったのだから、最大限の配慮をもって、何不自由ない衣食住を提供するのは当然だと、リーフリッドも考えている。その為には、多少の散財も、我が儘も構わないと。


 しかし、こちらに来てしばらくしてからのマイアの行為は、少し度が過ぎているように思うことが多々あった。

 しばしば商人を呼びつけては、大量のドレスを作らせ、宝石を買い漁り、派手な装飾品を身に着けた。身の回りは見目の良い神官に任せ、彼女に付いた巫女や下働きの女が粗相を犯せば手ひどく罰した。気に入らない者は、神殿の上層部の者に命じて神殿から追い出したことも何度かある。

 そして、貴族等を呼びつけては、日々派手なお茶会や夜会を繰り広げている。何度か、リーフリッドも参加を求められたが、最初の頃に数回参加しただけで、後は仕事を理由に断っていた。


 まるで女王にでもなったかのように振舞うマイアに、大神殿側は彼女を褒め称え擦り寄り、王の側近達は嫌悪し眉を顰めた。月姫だとすれば仕方がないが、彼女がこの国の王妃になることに不安を漏らす者も多くいる。

 この派手な豪遊が、マイアが家族から引き離されてしまった寂しさを紛らわすためのものだとするならば、やがて収まるだろうと静観している状況ではあるが。


 また、マイアがこの世界にやって来て一向に月姫としての役割を果たさなかったことも、王の側近達の不信を煽る要因の一つになっていた。

 というのも、マイアがこの世界に来た時点で、世界は終焉に向かって、各地で巨大な竜巻が起こり、勢力の衰えない嵐によって民家や畑が流され、また干ばつや砂漠化が進行するなど、様々な自然災害に苦しめられていたのだ。呼び出して間もないうちに重要な役割を負わせることに、彼女には申し訳ないと思いつつも、せめてここにある光の神獣だけでも蘇らせて欲しいと頼んだ。

 しかし、彼女はそれを拒否し、その気にならないからと先延ばしにした。しばらく経っても、豪遊に耽ることにのめり込み、他の神殿へ向かうことも嫌がった。


 それでも、徐々に神獣は蘇っている。それが彼女の力によるものだというならば、我々は僅かにも彼女を疑ったことを謝罪し、月姫として敬意を払って接して行かなければならない。



 そう思いつつも、リーフリッドは手元にあるお茶会の招待状に目を落とした。

 色々と謎は多いが、今すべての神獣が目覚めつつある。にもかかわらず、彼女のこれほどまでの神獣達への無関心さは何故なのか。彼女に直接聞けば、この謎は明らかになるのだろうか。


 頭に、以前会った時の、豪奢な彼女の姿が過る。

 これが、半身に抱く想いなのか。ずっと語り継がれてきた太陽王と月姫の永遠で至高の愛。それは、こんなにも味気なく、無感動なものなのか。


 やはり俺は太陽王ではないのだろう。

 本当の太陽王が見つかったときの譲位の可能性も考えておかなければと、リーフリッドは深く息を吐いた。



 召喚した側の事情なので、身勝手だと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが……(;^_^)a

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