太陽王の疑問・1
書けるうちに書きたいものを書いておこうと思い、他のお話の更新が滞っているにもかかわらず、書いてしまいましたm(__;)m
ベタでベタなお話が読みたかったので、自分でもベタでベタなお話を書こうと思ったのですが、途中で方向性を見失ってしまい……orz
しかも、中途半端なところで終わりますが、どうぞ広い心でお許し頂けると助かります<(__)>
「陛下、これは……」
「ああ……いったい、どういうことだ」
年期を感じさせる剛堅そうな執務机の上に、広げられた大陸の地図。その地図に、ここ数週間のうちに間を置かずに記されていく丸印に、この国の宰相が戸惑ったような声を上げ、それにこの国の王が眉間に皺を寄せたまま頷いた。
ここは、地球とは異なる次元に存在する世界。この世界は現在、徐々に滅びの道へと向かっていた。
この世界は、太陽王と月姫という夫婦の神によって創られ、彼らの意を受けた光・闇・地・風・火・水の六神獣によって支えられてきた。
しかし、世界の秩序を保つために力を尽くしてきた神獣達の力は、時を経るにつれ徐々に衰えていき、やがて力を使い果たした神獣達が、ここ数百年にわたり、一体、また一体と自らの神殿に置かれている神玉の中で眠りに就くようになった。
そして、神獣の力が失われたことにより、世界は徐々にバランスを崩していき、緑は失われ、大地の実りは減り、雨が降らなかったり、気紛れに豪雨をもたらしたり、所々で嵐が起きたりと不順が多くなった。また、気候も急に暑くなったり寒くなったりと巡りが崩れ、海洋や作物、生きもの達の生活に大きな打撃をもたらしていた。
ついに最後まで残っていた闇の神獣までもが眠りに就いたとの報せがもたらされてから早数十年、人々は確実に世界の終わりをその身に感じ取っていた。
だがしかし、創造神の残した石碑の中に、救いの記述が残されていたのだ。
その内容とは、異世界にいる月姫を呼び戻し、姫により神獣へ力を与えてもらうというものだった。
月姫とは夫婦の創造神の片割れであり、伴侶である。
無であったこの世界に太陽王と月姫が舞い降り、太陽王が世界を創って、月姫が神獣を生み出して世界を調えたとされている。その為、力を失った神獣に再び力を与えることができるのは、異世界で力を蓄えながら転生を繰り返す月姫のみであると記されていたのだ。
そこで人々は古の文献を漁り、約千数百年前にも月姫を異世界から招いたという記述を発見した。そして、その方法も。
王と神殿の協力のもと、召喚の儀は行われ、無事に一人の女性を異世界から召喚することに成功した。ただ、召喚先が、予定では神殿内の祭壇の前であったはずが、城近くの森の中に召喚されてしまったというハプニングも生じたが。
召喚された女性は、マイア・シンドウといい、波うつ艶やかな亜麻色の髪の美しい女性であった。言葉は通じなかったが、魔術師の術によって話せるようになり、事情の説明もしたうえで、その役割を承諾してくれることになった。
けれど、彼女はまだこの世界に不慣れなため、世界に馴染んでもらう必要があるとの神殿側からの要望により、それぞれの神獣の眠る神殿への旅立ちは先延ばしにされていたが。
神獣の眠る神殿は、世界の中央に位置する大陸全土を治める聖王国エイクレイデアの首都エイクエートスを囲むように、大陸の東西南北に風地火水の神殿が建てられている。そして、聖王国王都の大神殿に光の神獣が眠っているのだが、ただ闇の神獣の眠る闇の神殿の所在だけは、誰も知らず、また古の文献にも記されてはいなかった。
しかし、異世界からマイアを召喚してから、一月ほど経った頃、大陸の東の端の風の神殿から連絡があった。風の神獣が目覚めたのだと。しかも、神殿に勤める神官達が気づかぬうちに、眠りから覚めていたというのだ。
この報せは、事情を知る王とその側近、そして神殿側にも大きな驚きをもたらした。何故ならば、月姫マイアは未だに王都の大神殿におり、風の神殿には訪れてはいなかったからだ。
確認の者を遣ったところ、確かに風の神獣は力を取り戻しており、誰もが事態を飲み込めずにいたが、やがて大神殿の誰かが、月姫がこの世界におられるだけで神獣に力を与えるのだと言い出した。
そのような話は聞いたことが無く、また前回召喚された月姫は各神殿を回ったとの記録が残されていたのだが、しかし誰もその説に反論できる者はおらず、それでその場は収まったのだ。
それからまた一週間近く過ぎた頃、続いて火の神殿から、火の神獣が蘇ったとの報せが届いた。そして、そのまた数日後には地の神獣が目を覚ましたと。
神殿の方では、さすが月姫だとマイアをもてはやす者が多くなったが、王やその側近達は違和感を感じていた。
というのも、神獣の目覚めの順番と、その目覚めの間隔からいって、何者かが移動しながらことを行っていると考えられたからだ。しかも、神獣が蘇ったと思われるのは、深夜や明け方など、人目に付かない時間帯であり、案の定神獣が目を覚ます瞬間を見た者はいなかった。
これらは単なる偶然にすぎないのか。それとも、月姫マイアでない何者かが、神獣に力を与えて回っているのだろうか。しかし、それは可能なのだろうか。可能だとするならば、いったい誰がどうやって行っているのか。なぜ、人目に付かないように行っているのか。
さらに、謎はまだあった。それは、各神殿は大陸の端にあるため、その間にはかなりの距離がある。けれど、神獣の目覚めの間隔はそれほど開いてはいない。馬や馬車のような普通の移動手段では、どうやっても移動できない日数なのだ。それを、どのようにして移動しているのか。
やはり神獣の目覚めの順番は偶然で、月姫がこの世界にいるというだけで、神獣は目覚めるのか。しかし、ならば何故一番近くにいる光の聖獣は目覚めないのか。
多くの謎が残ったままであったが、少しでも事実を突き止めようと、王は残る水と光の神殿の監視の強化を命じた。
神獣を目覚めさせている者がいるのならば、その者の行為を邪魔することなく、ただそれがどのように行われているのかを確かめるように、と。
そんな中、監視をさせていた者から、水の神獣が蘇ったとの報告が届いた。
しかし、水の神獣はどうやら深夜に目覚めたようなのだが、それがどのようになされたのかは、やはり分からなかったというのだ。何故ならば、監視者や警護の者達すべてが、その時間帯に眠ってしまっていたからだと。
だが、これは奇妙なことだった。監視者と警護をする者を合わせれば、十数人の者達が神殿内やその付近にいたらしい。その全員が、しかも深夜の警護に慣れた者達で、さらに順番に仮眠をとり体調も万全であったにも関わらず、いっせいに寝てしまうものだろうか。
神獣が自ら蘇る姿を見せないようにしたのではないかとの意見も上がったが、それは即座に否定された。古の文献にも神獣がそのようなことをしたという記録は無かったし、何より水の神獣に人を眠らせる力は無いと言われているからだ。
そうして、全く事態のつかめないまま、残されたのは光と闇の聖獣のみとなった。