風鈴回廊の神様
カラン、コロン、と下駄を転がすように歩けば、風鈴もチリン、コロン、と鳴る。
世間は夏祭りの頃合い。神も人も妖も入り交ざる。
チリン、カラン、と涼やかな音。
最近の祭には風鈴の回廊なるものが用意されている。人の子らが風鈴を慎重に吊るしてくれた。神社の境内が華やかになって嬉しい。
回廊には様々な風鈴が並びんでいる。灯に照らされた硝子の風鈴は艶やかに揺れ、夜の暑さを吹き飛ばすような涼やかな歌を奏でる。夜の風鈴の回廊は趣深い。
が、この回廊を歩いている者は少ない。皆、縁日を楽しんでいるのだろう。しばらくすれば、こちらも賑わうだろう。
ぼんやりしながら歩いていると、前方からすすり泣く声がする。進んで行くと、柱の下で泣いている少女が座り込んでいた。齢五つ頃だろうか。転んだのか、浴衣の合わせから覗く膝は怪我をしているようだった。
我は声をかけようとしたが、それを呑み込む。昔から我のことを認識する者は限られ、今となってはもういない。長いこと人と言葉を交わせていない。
誰かこの子を保護してやってほしい。どうすれば、と思案する我の耳に澄んだ音色が入る。
チリリン、リーン。
ここは風鈴の回廊。風鈴の数は五百だったか。この数を一度に鳴らせば、誰かしら気がつくだろう。
我は呼吸をして、力を放つ。
涼やかな音が響き渡る。先ほどまで静かに鳴っていた風鈴が一斉に鳴ると中々の迫力だ。
風鈴の音に驚いたのか、少女が顔を上げる。潤んだ目をまん丸にして頭上を見上げる。彼女の頭上の風鈴が一際大きく鳴っている。
そして、我を見る。偶然かと思ったが、少女の目は我のことをじっと見ている。
「おにいさん、だれ?」
風鈴の音色が収まっていく中、今度は我が目を丸くする番だった。こうして人の子としっかり目が合うのは久しい。
「神社の者だ。怪我をしたのか?」
我は平静を装おいながらしゃがむと、少女の膝に手を翳す。
「痛いの痛いの、飛んで行け」
言い終えると同時に手を空へと流す。近くの風鈴がチリリーンと鳴る。少女の膝の傷は綺麗に塞がる。
「いたくない」
「神様のおまじないだからな。そら、お迎えも来たようだ」
間もなく、人の子らが到着する。母親もその中にいて、少女を見つけると駆け寄って抱きしめる。
大丈夫。そう思った我は身を翻す。
「ありがとう!」
背後から少女の声がする。それに手を挙げて応じる。
我の下駄の音は風鈴の音色に溶け込んでいった。
神様と側仕えのお話→「雨宿りのご縁」https://ncode.syosetu.com/n9905ll/




