表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞

風鈴回廊の神様

作者: 真鶴 黎
掲載日:2025/12/07

 カラン、コロン、と下駄を転がすように歩けば、風鈴もチリン、コロン、と鳴る。

 世間は夏祭りの頃合い。神も人も妖も入り交ざる。


 チリン、カラン、と涼やかな音。


 最近の祭には風鈴の回廊なるものが用意されている。人の子らが風鈴を慎重に吊るしてくれた。神社の境内が華やかになって嬉しい。

 回廊には様々な風鈴が並びんでいる。灯に照らされた硝子の風鈴は艶やかに揺れ、夜の暑さを吹き飛ばすような涼やかな歌を奏でる。夜の風鈴の回廊は趣深い。

 が、この回廊を歩いている者は少ない。皆、縁日を楽しんでいるのだろう。しばらくすれば、こちらも賑わうだろう。


 ぼんやりしながら歩いていると、前方からすすり泣く声がする。進んで行くと、柱の下で泣いている少女が座り込んでいた。齢五つ頃だろうか。転んだのか、浴衣の合わせから覗く膝は怪我をしているようだった。

 我は声をかけようとしたが、それを呑み込む。昔から我のことを認識する者は限られ、今となってはもういない。長いこと人と言葉を交わせていない。

 誰かこの子を保護してやってほしい。どうすれば、と思案する我の耳に澄んだ音色が入る。


 チリリン、リーン。


 ここは風鈴の回廊。風鈴の数は五百だったか。この数を一度に鳴らせば、誰かしら気がつくだろう。

 我は呼吸をして、力を放つ。


 涼やかな音が響き渡る。先ほどまで静かに鳴っていた風鈴が一斉に鳴ると中々の迫力だ。

 風鈴の音に驚いたのか、少女が顔を上げる。潤んだ目をまん丸にして頭上を見上げる。彼女の頭上の風鈴が一際大きく鳴っている。

 そして、我を見る。偶然かと思ったが、少女の目は我のことをじっと見ている。


「おにいさん、だれ?」


 風鈴の音色が収まっていく中、今度は我が目を丸くする番だった。こうして人の子としっかり目が合うのは久しい。


「神社の者だ。怪我をしたのか?」


 我は平静を装おいながらしゃがむと、少女の膝に手を翳す。


「痛いの痛いの、飛んで行け」


 言い終えると同時に手を空へと流す。近くの風鈴がチリリーンと鳴る。少女の膝の傷は綺麗に塞がる。


「いたくない」


「神様のおまじないだからな。そら、お迎えも来たようだ」


 間もなく、人の子らが到着する。母親もその中にいて、少女を見つけると駆け寄って抱きしめる。

 大丈夫。そう思った我は身を翻す。


「ありがとう!」


 背後から少女の声がする。それに手を挙げて応じる。

 我の下駄の音は風鈴の音色に溶け込んでいった。

神様と側仕えのお話→「雨宿りのご縁」https://ncode.syosetu.com/n9905ll/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ