第8話 いつか見た夢
「それで、俺達の目指す場所はここで良いんだな?」
「そうだね、この斜面を登った先がスタート地点だよ。」
斜面ってナナメでしょ?ここは垂直だな。
広く一般では〈崖〉って呼ぶんだよ。
「私がこの間登っていた山肌は、ここの3倍くらいの高さだったので私は特に問題ないですよ。」
意図的に崖って言葉を避けてるだろ?
俺に対する気遣いができる分、幾らかマシなのかも知れない。結果は変わらないけど。
しかも、一人で、薄着で、勢いで、その山を登ってたんだってな。
……全然マシじゃ無い、注意を怠ってはダメな存在だ。
こんな奴らのペースで崖登りなんて、とてもじゃないけど付いて行く自信はない。
絶望混じりの視線を遥か上空へ向けていると…
「アルはロープで引っ張り上げるから安心していいよ。」
全く安心できないセリフを聞かされた。
ここまでの経緯を思い出して見る。
……そろそろ街を出ようと思った頃にディッドが俺達に言った。この先に昔から行ってみたいと願ってた場所があると。
何でもそこは、国宝級の価値のある〈奇跡の石〉が唯一存在する場所らしい。
怪しい情報じゃないかと疑っていたら、その街の有識者の場所まで連れて行かされた。
自分の為の段取りは随分と手際が良い。
確かな情報だとお墨付きを頂いたのだが、どうやらここ十数年、採取に向かう者は現れていなかったらしい。
嫌な予感しかしない。が、俺が意見したところで希望は通らないだろう。
「次の場所も山だからラッキーも得意そうだし、一緒に行って貰いたかったんだよね。」
要するに荷物持ちとかをメインで誘ったってことだろう。俺の役割は装備品や食糧の準備になる様子だ。
準備してあげるから街で待っててもいいか?と言おうとしたら無言のプレッシャーを発してきた。勘で俺を威圧しないで欲しい。
「それじゃあ二人ともよろしくね〜。」
上機嫌すぎて気を損ねるのが恐怖でしか無い。自分の命を自分で守れるように準備を怠らないようにしようと思った………
崖ってよじ登る時ってずっと岩を見てるもんだよな。
俺はずっと、眼下に広がる雄大な大地を見つめ続けている。
本当にロープで結ばれて引っ張り上げるんだ。確かに自分の力では踏破できそうにはないけど、ここまで正に荷物扱いだと……
いや、良いんだ、当てにしないでくれ、俺を。
「おぉ〜、やっと平地に着くぞ〜!!」
上の方から明るい声が響く。全然余裕あるんだな。釣り上げて貰ってても申し訳ないと言う気は全く起きない。
「ラックさんは大丈夫?」
荷物はほとんどこの大柄な男が背負っている。何もしてない俺が言うのも何だが…
「私はまだまだ大丈夫です。でも、登ったら少し休憩したいと伝えます。アルさんも少し休みたいですよね?」
うっ、アレとは違って俺に気遣いをしてくれる……
ちょっと心がほだされそうになったが油断は禁物だ。
程なくして、地上とは全く違う様相の崖の上に3人は登り立ったのだ。




