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第6話 猜疑心

 このラックバードと名乗る男は明らかに俺達を標的にして追ってきてる。

 もしかして、今迄警戒心を持たせないように愚かなフリをしていたという事だろうか?

だとしたら、俺との距離は本気でヤバイ。


 ディッドが動くよりも先に確実にやられる位置取りだ。


 滲み出る汗が冷たく背筋に伝ってゆく。

ディッドが臨戦態勢で振り向こうとした時……


「あわやと思った時に落石がありませんでしたか?

人が魔物に囲まれ襲われそうになってたので、近くにあった石を思わず投げてしまったのですが…」


 ?だからなんだと言うのだろうか。

隣の山って言ってたよな?熊だろうがヘラジカだろうが認識できる距離じゃ無いぞ… 

まして人間なんて豆粒みたいなものだろ…


「ああ、私、目がとっても良いんです。」


 補足になってない。よしんば目が良かろうがその後の行動に話の意味が繋がらない。


「一番大きな魔物の上辺りに崩れそうな岩があったのでそこに狙いをつけて……予想した通りに岩が崩れてくれたのですが、もしかして巻き添えを食らってしまったのではないかと心配になって…」


 説明になってない。


「ああ、私、コントロールも良いんです。」


 補足になってない。だから何だ?


「そうか、アルを助けてくれたのか。

どうもありがとう。感謝する。」


 物分り良すぎない?ディッド?本当に納得したの?そんな事普通はできるははず無いんだけど?


 頭の中で疑問符が飛び交い混乱が収まらない。

が、相方が納得した以上後は自分で見極めるしか無い。

 なんか、この後暫く抜毛が激しくなった気がする…





 その後、街に向かう道中では特に何も問題無かった。と、言うよりはのほほんとした空気で緊張感もまるで無くなっていた。


「ラッキー!キャッチボールしようよ〜。」


 ディッドは既に打ち解けている。

確かに目も良いこともコントロールが良いことも確認した。しかも、とても尋常な人間とは言えないレベルの能力だった。


「コッチが取れる限界まで挑戦しようよ!」

「分かりました!ディッドさんなら安心して投げられるので楽しいです!」


 俺の目の前ですべてを粉砕する勢いの球が行き交っている。巻き込まれたら弾け飛ぶだろうな、と怖い妄想も慣れるとしなくなるもんだ……


 お互い同レベルの相手など今迄出逢うことも無かったのか、無邪気に遊んでいる。

毎日レベルがものすごい勢いで上がってる気がする。


「お〜い!アルもたまには一緒にやろうよ〜!」


 …馬鹿なことを言うな、人殺しになるぞ、お前らが。


「俺は良いや。二人で遊んでてくれよ。」




 平静を装って暖かく二人を見守る。

これが俺にできる精一杯の自己防衛手段だった。

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