第5話 同行希望者
「すいませんけど、ちょっといいですか?
あなた方ヒトガタが出る山から降りてきましたか?」
急に俺の倍近い体格の旅人に話しかけられ狼狽えていると、
「そうだけど、何か問題でもあるのかね?」
ディッドが答える。
「ああ、イヤイヤ、変に絡んでるわけじゃ無くて、もし、ヒトガタを討伐した後の冒険者だったら、街まで安全のために一緒に帰ってもらえないかと思って……ダメですか?」
「…コッチは別に構わないよ。
確かにここら辺も魔物や獣が出ることもあるらしいしね。」
(獣を撲殺する奴を襲ったとしても返り討ちになるだけだろうし、そんな悪そうな人間には見えないし問題はないだろう。)
やや怪しい風体の人物だが、俺も特に反対する事もなく街に一緒に帰ることを了承した。
「私はラックバードと言います。よろしくお願いします。」
「よろしく。俺はアルゼ。」
「コッチはディッドだ。よろしく。」
軽く紹介を終えつつ気になった事を聞いてみる。
「ところでどこからの帰りなんだい?」
俺が切り出す。
「私が登ってたのはあなた達のいた山のもう一つ向こう側にある山です。
そこには前人未到の崖があり、そこを制覇した者に最高の名誉が約束されているのです!」
熱く語り目が輝いている。俺は一応確認した。
「で、その挑戦をしてきたって事?」
「はい!行ってきました!失敗しましたけど、この格好ではとても寒すぎました。」
__上下ピチピチの服、そこらをランニングしてきた様な格好__
計画性無いのか?というか、一人で行って登頂の認定を誰がするのだろうか?
「その話は街の誰が取り仕切ってるんだ?」
聞き返してもきっと満足行く回答は帰ってこないだろう。何故かそんな予感がする。
いや、今までの経験上、同じ様な感覚をいつも味わっている。
…ある意味確信と言うやつだ。
「街の外れのレストランで隣の席の客が話してたのが耳に入ってきたんですよ!その内の屈強な男が熱心に仲間内から挑戦を勧められていたので、これは私も負けてられない!どうしても先に挑戦し、勝利を掴まねば!と逸る心を抑えつつ山へと向かった次第です!」
抑えられてないよな。信憑性も全く無い。
しかも、レストランってあの場末の定食屋みたいな所じゃないか?この男の思考能力って……
ディッドが呆れて言った。
「おいおい、勢いだけで突っ走るなど愚か者じゃあないのか?
準備がどれほど重要かも分からないとはねぇ。」
…同感だ。全く同感だよ。
いつも俺は誰かさんに言ってるし、言っても無駄だし、記憶にも残ってないと思ってた。
いや、分かった上でああなのかい、愚か者め。
「まあ、今回は完敗でしたが、登頂者がでていなければまた今度挑戦したいと思ってる次第です!」
前向きなのはいいのだが、問題はそこじゃない。
一度しっかり当たって挫けた方がいいと思う。
(ウチのも含めて)
「それで、諦めて引き返そうとしたときにですね…」
やや声のトーンが低くなる。俺は少し訝しく思いながら話に集中した。
「隣の山で魔物に囲まれてる方々が見えましてね。」
背筋がゾクリとした。
隣と言っても現実はとてもじゃないが人を認識できるほどの距離では無い。しかもその後で俺達を追ってきたという事になる。
(目的は何だ?)
俺は最大限警戒して身構える。倍近くの体格の持ち主に勝てる気がしない。相方は大丈夫だ、何の心配もしていないしその必要もない。
ただ、俺はダメだ。自分の身は自分で守らないとあっという間に再起不能になってしまうだろう。
「で、何の目的でウチらに近づいてきたんだ?」
ディッドが殺気を纏いながら聞き返した。




