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第4話 運と賭けは違うもの

 俺は曲がりなりにも冒険者である。

従って色々な窮地に追いやられることもある。

 腕っぷしが立つと言う訳でもなく、一人で戦える魔物も獣サイズの大きさまで。

だが、曲がりなりにも冒険者を生業としている。


 無様に騒がない。

諦めず冷静に状況を飲み込み、一筋の光明を見出し、生きて帰る。

 仲間を危機に晒さない。


 その精神を持ってここまで来た。

だから、今こそ俺の魂の咆哮を聞くがいい!




「ああぁああぁぁぁぁぁ!!

俺んトコに来んな!!勘弁してくれぇ゙〜!!

ああああああぁぁ〜!!」


 今からは素直になる。冒険者ズラして分かった様な口は聞かない。怖いものは怖いと言う。魔物なんて凝視しない。怖いから。

 背中を向けて猛ダッシュで逃げたい。

できる限り無傷で帰りたい。平穏に生き延びたい。


「お願い許して〜!!」

 立ち向かう?無理だよ!見た!?


 あの血に飢えた悪魔みたいなディッドが軽くふっ飛ばされていた。

俺ならゆうに3倍は飛ばされるだろう。


…ここ渓谷だよ、横の谷めちゃめちゃ深かったよ!?


 谷底付く前に落ちたショックで死ぬだろうな。

まあ、殴られた時点で内臓破裂でお陀仏だろうけど……


 とにかく逃げる。が、ディッドとの距離はどんどん開いてく。

無意識に谷と反対方向に来たのが悪手だった。

この先はそびえ立つ崖しか無い。登る力はもう無い。


「うわぁ~ !!!」

「アル!なんとか逃げろ!」

 なんとかって言ってもどうしようも…


(パラパラ)


 頭の上で音がする。細かい砂が落ちてくる。


 そう感じた瞬間、俺とヒトガタの間に崖から岩が転がってきた。


「なななな、何が起きた!?」

 運よく追撃を俺は躱すことができた。

そして、その一瞬でディッドはボスと対峙した。


「コッチの相棒を随分追い込んでくれたようだねぇ。許せないねぇ。」

 笑ってない笑顔でヒトガタを睨む。

ボス以外のヒトガタはもう谷底に落とされている。


「ガガガッ!」

ボスが叫び、再びカチ上げ攻撃を仕掛けてくる。


 と、ディッドはボスの拳に軽やかに飛び乗り上空へ飛ばされる。


 あれ?勢いに乗って上空に飛んだ?


ボスの真上に竹槍を持った悪魔がいる。

これから起こることを咄嗟に想像した。


 ダメだ、今日一怖い。





「アル〜!見て〜!!

青柱、命名どうりでしょ?」

 地面に垂直に突き刺さってる青竹。

でも、全然青くない。真っ赤に染まってる。


「もう暫く休んだら帰路につこうね。

アル疲れてそうだし、青柱も引っこ抜かなきゃいけないしね。」


「えっと、その竹槍持って帰るの?」


 俺の問いにきょとんとした顔で答える。

「当然だよ。ウチらの命の恩人みたいなもんじゃん。結構使い勝手も良いよ♪」

 …何か凄まじく残虐な光景を見せられたんですけど…でも文句は言えません。どうしようもなく怖かったので…


「でもさ〜、アルも運がいいよね?

あそこで岩が落ちてこなかったら腕の一本や二本は無くなってたんじゃない?」

 二本無くなったらもう腕はありません。


「アルも街に戻ったら賭場に行く?

もしかしたら大勝ちできるかも!?」

 楽しそうに話してるけど完全に無視をする。


「俺はね、ギャンブルをしないのがこの先、生き残る為のギャンブルなの。」

「ふ〜ん。よく分からないけどまあいいや。」




 なんとかミッションを終わらせ街に戻れる。

ホッとしたけどこの先不安でたまらない。

 

 小さな声が聞こえた気がした。


「アルは冒険者やめさせないよ。絶対逃さないからね♪」





聞こえない、聞こえない、聞きたくない……

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