第33話 河の流れ
「なあ、ラッキー。海に着いたな。」
俺の言葉にマグが答える。
「いえいえ、ダビ川という川だね。」
聞いてない、聞こえない。
「確かに対岸があります。ちょっと遠いですけど。」
ラッキーがうっすらしか見えないのか。なら間違いないだろう、この川幅の広さがな。俺の目には海にしか見えない。
「凄いねこの川。デカいのいそうだね♪あんまし水辺で戦ったこと無いから楽しみだよ。アル、とりあえず泳いでみてよ。」
お前、俺のこと餌にして何釣ろうとしてんだよ?大体して鎧を着てるんだけど、俺沈むよ。まして生身になるのは以ての外だ、ガブッと一噛みで終了だね。絶対に嫌だ。話をさっさと進めよう。
「いいから早く湖目指そうぜ。川がこんなに広いんじゃ湖だってとんでもない大きさだろ?マジで今まで見たこと無い大物がいるんじゃないのか?」
ヤバイな、自分で言ってて怖くなってきた。水ってさ、沈むんだよ。そして溺れるよな。俺、何もできない気がしてきた。
普段通りか、問題ない自己解決した。
「水に引きずり込まれたらお終いだな。安全にキャンプできそうな場所探すとするか。」
小高い丘とかあれば良いなと辺りを見回してると、丁度真後ろが見えるかなって辺りで目を疑った。
マグがワニに襲われていた。
「ああ〜、マズい〜、川は流石に窒息する!溺死する〜!」
そうだよな、新しい弱点発見ですることができたよ。
ラックバードがすぐ反応を示していた。
「マグさん!今助けます!」
荷物を置き散らして岩を持ち上げて投げようとしている。……岩? え、自分よかデカいんじゃない?アイツのパワー異常だろ……
そりゃあワニもひと溜まりも無いな。岩と一緒にぶくぶくと河に沈んでいったよ。
というわけで、水辺は危ないと再確認できたので、結構内陸に戻ってキャンプ地を見つける事となった。
「そういやなんでディッドは助けに行かなかったんだ?」
「うーん、ちょっとね、湖で戦うのって水が関係してくるな、って考えてたら出遅れたんだよね。」
意外だな、コイツも戦略とか対策を練ったりなんてするのかな?なにやら深く考え込んでいる。
「何か問題があるのか?戦力に影響が出るなら対応策を考えないといけないんじゃないか?」
「服が濡れてくっつくの気持ち悪い。」
いい加減にしろ。お前いつも返り血でベッタベタだろが、心配した分の俺の労力返せ。
しばらく内陸に戻った所で良さげな場所を見つけた。まだ日は落ちてないが、これ以上移動してもここより良い所は見つからないだろう。
「今日はちょっと早いけどここらでキャンプするか。」
「そうだね。マーシーのメンテナンスもしたいし、お願いできるかな。」
物を名前で呼ぶのはヤメロ、俺はそういう流行りには絶対乗らないからな。
そういやマグは、いつも夜に一人でなんか一生懸命いじってたな。興味本位で近づいてみる。
「結局この機械ってなんで動いてんの?」
マグは俺に分かりやすく教えることができるのかな?聞いといて不安になった。
「えーとね、まずコレを持ってみてくれる?」
いつもラッキーに渡してる手のひら大の鉄球を渡された。
「うおっ!何だコレ!重っ!」
おかしい。見た目の何倍も重い。自分の感覚が混乱する。
「ああ、それ思った以上にずっしり来ますよね。最初びっくりしましたよ。」
コレ10kg位あるぞ?このデカブツ普通に投げてんじゃねえよ!重さもお前もおかしいんだよ。
「自分は身体能力で握力だけは自信あるんだよ。それでコレは火薬を調合して圧縮したものなんだよね。元の大きさはこの10倍弱だったかな。」
圧縮に失敗しての暴発は日常茶飯事らしい。それを繰り返して身体が鍛えられたとのことだ。ディッドには伝えたらしいがどうせアイツは覚えてないだろう。
「それで、コレが何の関係があるんだ?」
「マーシーにはポンプが付いてて、それで空気をこの鉄球みたいに圧縮してボンベに貯めるんだよ。自分の握力に合わしてるので他の人では充填できないんだよね。
その高圧縮空気を中にある原動機に噴射して動力に変換するんだよ。」
うん、マグしか使えないってことは分かった。後は知らん。
「試しにラッキーが充填してみれば?」
「はい。マグさん一人に任せっぱなしじゃ大変ですもんね。
フン!………あれ?…フウウンッ!!あれあれ?…フンガァーッアァァ!!!」
「どうした?」
「いや、全然ビクともしないんですよ……壊れちゃったんですかね…すいません。」
俺とラッキーで首を傾げているとマグが点検をする。軽くシュコシュコと空気が入っていく音が響く。
「大丈夫、壊れてないよ。やっぱりコレは自分じゃないとダメらしいね。」
マジかよ、コイツもヤバイ力持ってんじゃん…握力だけはラッキー超えかよ、アイアンクローされたら顔面潰れるんじゃないか……
あれ?ラッキー、どうした?マグに握力負けたのがそんなにショックだったのか……良かったな、まだ完全な化け物じゃなかったって事だよ、人間が残ってて本当に良かったな。デカい体でイジけてんな邪魔臭い。
「じゃあ、機械の事はいつも通りマグに任せるよ。必要なことがあれば言ってくれれば手伝うからな。」
どうせ俺は何もできる事無いだろうけど言うだけタダだ、後はラッキーに丸投げだな。
「まあ、時間があれば他の人でも充填できるように改造するよ。その時はお願いするね、ラック君。」
パワー関連で引けを取った事は無かったんだろうな。ちょっと上から発言されて更に落ち込んだようだ。
「ええ…ハイ……お役に立てるように頑張ります………」
いいから早くテントでも設営してろ。無駄にデカい筋肉なんだから力仕事に貢献してくれれば文句は無いからな。
そうして今日のキャンプは変な空気で終わったのだった。




