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第31話 仲間となりて

 起きてから4日目だ。もう10日くらいになるな、この研究所きてから。


 フォネトと話を付けてから2日位であいつらは自分を取り戻してきた。ディッドとラックバードは何かしら違和感を感じてた様だが、毎日が楽しいらしく余り気になってない様子だった。




 …「アル君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、あの二人がいない所でいいかな?」

 ある程度状況を把握してる面持ちだ。研究者として実験体の状態を観察することもあるだろうし自分自身も観察できるんだろうな。いつになく神妙な雰囲気を感じた。


 別室に移動をした後、隠すこと無く俺の取った行動を伝えた。この研究所にに案内したのはマグであり、機関からの命令を受けて来た訳ではない。ここでの出来事はマグも知っとかなきゃいけないと思う。


「はぁ、そうか、そんな事が……とりあえず自分たちに思考をにぶらす薬を含ませ、ラックバード君に増強剤を……ああ、なんてことを…」

 急激に肥大させたからなのか、ここ2日であっと言う間に元のサイズに戻ってきた。日焼けで真っ黒だから本人は余り気付いてない様な気がする。まだ薬の影響で頭もはっきりもしてないだろうしな。


「申し訳ない…早くラックバード君に謝罪を…」

「ちょっと待った。それは黙っててくれないか?」

「え、なんで…?今言っても信じて貰えないかも知れないけど、自分は純粋にラックバード君の身体の、人間の潜在能力の可能性を突き止めたいだけなんだよ。そんな、生体実験や改造なんて…」

 弁明したいのは分かるけどね。でも俺はラックバードの心が心配だった。


「まず、さ。ラッキーが薬物で増強するの嫌ってたじゃん。」

 カジノで交換条件出された時を思い出す。あの時の顔を思い出すと胸が締め付けられる。実験体になることで自分の夢や信念を捨ざるを得ない覚悟の顔だった。

「で、馬鹿みたいにお人好しの所もあるよな。」


「ええ。あんなに本気で逃げ回ってた相手なのに、すぐに二人と変わらないように接してくれて……」

 いい兄ちゃんなのはマグも感じてるな。


「だから、マグが本気で謝れば謝るほど、どうしようもない事なのに自分に責任を感じると思うんだよ。」

「しかし…」

「いいんだよ、俺が伝える時が来たら伝えるから。ここまで一緒に来てマグが裏がないのも見てきて分かったしな。納得できない気持ちも俺に預けておいてくれよな。」 

 せっかく仲間として纏まりつつあるんだから壊す必要はないだろう。まあ、マグも脳ミソ弾けるくらい殴られてるんだから純粋に一番の被害者だよな。


「わか…りました。アル君に預けます。でも、必要な時は自分を糾弾して下さい。いつでも覚悟はしておきます。」

 マグはかしこまって俺に約束をした。これで一段落だな。


『ただし、フォネトに関しては上を通して始末を付けます。この研究所内にも被害者がいないとも言い切れませんので。」

 そう言えば国王とも知り合いって言ってたしな。上手くやってくれれば問題はないだろう。まあ、あれからあの医者は大人しくしてるよ。流石に俺達全員にまとめてこられたら……怖いよな。


 王都との連絡は伝書鳩を使うらしい。そうか、そうやって連絡を取ってるんだ。全く気にしてなかった。他にも色々な伝令の仕方があると言ってたが、マグに任せるので聞く気はない。出発の準備をしつつ、体調も戻ったので次の指令の討伐に向かうことになる。


「次はどこ行って何殺らしてくれるの?」

 端的に物騒だな。おまえまだ薬残ってんじゃないのか?いや、前から変わってないか。


「ここから西にある大河を目指して、その上流にあるユーエル湖に標的がいるらしいよ。何やら河の流れを変えてるような生物がいるのだけどはっきりとは分かってないので、調査と場合によっては討伐って事だね。」

 ん?川じゃなくて大河?えーと、大河の流れを変える力持った生き物って何?俺、思い浮かばないんだけど……

 ラッキーと目があった、同じ目をしている。ああ同志よ、ありがとう戻ってきてくれて。自信満々なのは似合わないぞ。俺と同じ気持ちを無くさないで欲しい。





「あの…支度した携行品なんですけど、何か物凄い大きな箱があるんですが……これも持って行くのですか?」

 基本的にラッキーがほとんどの荷物を背負っていく。だが、いくら力持ちだと言っても、持って旅をするのに許容範囲を超える大きさの物が用意されてた。


 「ああ、それね。それは自分が持って行くから安心してね。」

 ラッキーでさえ躊躇したのをマグが持っていけるのか?と顔に出たのか説明を続けられた。


「その箱はね、背負っていくんじゃなくて箱自体が動くんだよ。だから力はいらないし多少は荷物を積載して移動することもできるんだよ。」

 何を行ってるのか分からない。そんな物見たことも聞いたことも無いんだけど……


「自分の開発した自分専用の万能マシン。通称”マーシー”だ。自分がいれば燃料は必要ないから心配しなくていいからね。」

 結果何の説明にもなってないけど面倒くさいから聞かなくていいや。マグが責任持って運んでくれよな。


「長くなるなら説明はしなくていいよ。邪魔になったら捨てればいいんだしね。」

 ディッド、開発者にそれは辛辣だよ。


「ふっふっふっ、大丈夫です。自分の自信作でで最高傑作です。今の自分たちに最適に調律しましたんでね。」

 ここの所寝る間も惜しんで何かをやってるとは思ってたのだが、この機械?をいじってたようだな。表には出さないが俺もディッドに同意だな。邪魔なら河にでも流せばいいだろう。


「あの…アルさんも非道いこと考えてません?マグさんの自信作ならちゃんと私が持っていきますんで安心して下さい。」

 良かった、いい兄ちゃんに戻ってくれて。…ヤバイ、マグが背中向けてるけど感情が崩壊しそうになってる。可哀想だからフォローしてやるか。


「ラッキ―、心配しなくていいよ。マグが安心していいって言ってんだからそうなんだろうよ。信じてあげればいいよ。」

「そうです…ね。マグさん凄いですもんね。もちろん信じていますよ!」

 マグが急いでトイレに行った。とっとと顔を洗って来い。置いてくぞ。



 「ちょっと休みすぎたから身体なまっちゃったよ。チンタラしてたら怒るからね。」

 さらっと脅迫しないで欲しいな。すぐ向かうよ、分かったよ。ただ俺は完調じゃないぞ、したくてチンタラしてる訳じゃないからな。




 ちょっとは仲間っぽくなってきてるのかなと思ったのだが、もっと個人を尊重してくれよ。特に俺をな……


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