第30話 七曜タスク
「そろそろ出発する?」
おい、ディッド。ふざけるな。
「お前らは一週間遊べたかも知れないけど、俺はまだ一日も休んだ感覚が無いんだよ。飯だって今初めて食ったようなもんだしな。俺の体調が回復するまではゆっくりさせてくれ。」
しかし、コイツらこんな良い生活一週間も続けてたのかよ。その上で日中何してたのか一応確認しとかないとな。
到着日、各々がバラバラに動き出した時、俺は既にベッドで横になっていた。穏やかな時間を満喫する間もなくそのまま眠りに誘われていた。
いくら起こしても起きないので、その日はそのままにされたのだが、次の日の昼を過ぎても起きる気配がなく、宿泊所の管理者が心配をして医者を呼んでくれたらしい。
心配して様子を見てくれたのはお前らじゃなかったんだな、ふーん。
1日目 ワークアウト 大胸筋
「凄いね!めちゃめちゃ良い竹いっぱいあるよ!まぐ夫!どれくらい持っていっていいの?」
「竹はすぐ生えてくるから必要な分持っていって大丈夫だよ。ただし、景観上悪くならないようにだけは注意してくれよな。」
「OKOK!んふふふふ。」
この日は吟味した竹を収穫しただけで終わったらしい。
2日目 ワークアウト 広背筋
「まぐ夫、加工できる道具ってある?」
「勿論。ここは何でも揃ってるよ。工作室もあるから後で案内してあげよう。」
「ホント!いいね、いいね。最高の柱シリーズを作っちゃうよー!」
こいつらが俺が起きてない事に気付いたの、この日の夕飯時だったらしいな。薄情者らめ。
3日目 ワークアウト 大腿四頭筋
「まぐ夫、柱の威力を試したいんだけど、なんか敵いない?」
「敵って……うーん、そう言えば第三研究棟の生態研究所に、捕獲したものの手につけられない魔獣がいたはず。毒が効かない麻酔も効かない、皮膚も固くて処分もできないと嘆いてたような。どうする?結構危ないかも……」
「殺る」
寧ろ強いほうが有り難いと…殺戮狂だな。
4日目 ワークアウト 大臀筋
「ディッド君。今度は自分の実験を手伝って欲しいんだけどいいかな。君の潜在能力もラックバード君に負けず劣らないようなので〜今後の〜為にもぉ〜 がふっ」
「いい加減にしな気色悪いよ。でも暇だから付き合ってあげてもいいよ。面白くなかったら埋めるからね。」
この日は2回埋めたらしい。
5日目 ワークアウト ヒラメ筋
「火薬の調合をするのでディッド君は下がっていて下さい。新しい組み合わせなので失敗しないとは、あっ……… 」
「まぐ夫〜?生きてる〜?」
「配合どこを間違えたんだかな‥…うーん。」
「あっ、生きてる。」
「大丈夫だよ、これくらい。今までずっとこうやって爆風食らってたから防御力は上がっちゃってね。まあ、攻撃は全然ダメだけどね。」
「ふーん、何か気味悪いね。」
玩具としては申し分ないけど人としては認めてないなこれは。
6日目 ワークアウト 僧帽筋
「!これは良い、良いぞ。このまま順調に反応すれば〜かつて無いぃ〜反応がぁ〜 ぎふっ」
「ラックバード君にこの弾を使って貰って、それにこれを何とか融合させられれば〜予想だとぉ〜物凄いぃ〜 ぐふっ」
「ちょっと疲れたな。仮眠でもするかな。ふぁあ〜ぁ げふっ」
「あ、まぐ夫ゴメン。間違えたよ。」
「ディッド君の〜能力はぁ〜凄いよぉ〜それをぉ〜活かしてぇ〜 ごふっ」
「ガンガンガンガン殴んじゃねえよ、クソディッド!これから死ぬほど実験に連れ出すからな、覚悟しろ がふっ」
「……… ぎふっ」
「‥‥‥ げふっ」
「・・・ ごふっ」
ここら辺だなマグがおかしくなったの。ちょっと殴り過ぎだよ、よく死なないな………マグ凄え。
7日目 ワークアウト 上腕三頭筋
(実は屋外プールは毎日いきました)
ほぼ6日目を繰り返し。この日も虫唾が走った分ちゃんとぶっ飛ばしといたよ……って。
ちょっと待て、ディッドお前何回マグのこと殴ったんだよ?そりゃいくらなんでも壊れるだろ!危ねえ、ギリギリだったかも知れない、マジで。
それと、黒バカ団子!お前は何やってたんだよ!何をしてたのかは分かった、筋肉見りゃ一目瞭然だよ!でもさぁ、お前が止めなきゃいけなかったんじゃねのかよ?ウッキウキで筋トレしてんじゃねえ!プールサイドで優雅にドリンク飲んでる場合じゃねえんだよ!ふざけんな!
俺の責任じゃないよなぁ…勘弁してくれよ。
飯食って後は寝るだけになったのだが、一つだけ確認しなきゃいけないことができた。ほぼ間違い無いんだけどバレないかどうかが問題なんだよな。
「すいません、今大丈夫ですか?」
「おお、どうしたんじゃ?どこか急に悪くなったのかのう?」
俺はひとりで医務室を訪れた。そこにはフォネトが一人だった。良かった、他の人には聞かれたくない。
「ちょっとお伺いしたいんですけど、フォネトさんってずっとお医者さんだったんですか?」
「どうしてじゃ?まあのぅ、昔は王国の医療研究所で色々やっていたこともあったがのう。今は専ら医師をやっとんじゃよ。」
機密性の高い施設だし、働く人選もなるべく決まった範囲からするだろうと予想はしていた。
「なるほど、そうなんですね。医療ってことはもしかして、人体の研究や………肉体改造とかも熟知してたりするんですか?」
「ふむ……ん…なぜそう思うんじゃ?」
一段低く落ち着いた声になり言葉を返される。一歩一歩求める答えに近づいていく。
「おかしいんですよ。どんなに鍛えたって一週間足らずであんなにはならないですよね、ラックバードの筋肉。」
あのデカブツはいい兄ちゃんだからな。わだかまりのあったマグとも、2、3日一緒にいただけで警戒心の欠片もなくなってたよ。
「流石にディッドがあんなにマグを殴ってたらラッキーは体を張ってでも止めに入るはずなんだよ。でな、ディッドも付き合い深いから分かるんだけど、あそこまで意味無く人のことを殴り続ける事はありえないんだよ。」
自問するように思い返す。逃げたいと思う瞬間はあれど、嫌いな訳では無い。だが、今日のアイツらからは嫌な感じしかしなかった。本当に嫌だったんだよな。
「だからなんなんじゃ?わしに言われてものう、あ奴らが普段どうかなんて知らないしのう。」
「そうなんだけどな、…夕飯を食べ終わった後、頭がぼんやりして、倦怠感が凄かった。
少量しか食えなかったからまだ平気だったんだろうよ。けどな、あいつらがあからさまに普段と違った。俺の知ってるあいつらじゃない。で、視界の片隅に、俺達を観察してるあんたを確認したんだよ。」
普段の違いが分かんなくても日々の違いは気になるよな、実験として。
「たまたまじゃろ?わしも気分転換で散歩とかするんじゃよ。」
「そういう事もあるだろうな。だけど俺はあいつらに比べたら大した事ないからな。できることと言ったら注意深く見るこことだけなんだよ。随分長いこと観察してただろう?俺もずっと観察してたんだよ、あんたの事。」
正直、常に敵の内面まで見透かす位注意しないと、俺なんかすぐに死んでしまうだろう。褒められる様なものではないが、今までの経験で得た唯一の俺の能力だった。
「憶測じゃろ、おまえさんの…」
「結構色々盛られてそうだからな。少しでも早く何とかしないと元には戻れなそうなんでね。どうせ検査すれば結果出んだろ?間違ってたら牢屋行きでも何でもいいよ。」
「…あ奴らと一緒で、随分とおまえさんもオカシイ奴なんじゃのう。なかなか面白いモルモット達だったのじゃがなぁ。」
確定だな。だが落ち着け、これからが大事だ。
「ラックバードはな、絶対ドーピングしないって決めてんだよ。それがあいつの誇りなんだよ。だからな、例え不可抗力だとしても、ドーピングしたって事実だけしか受け止めずに後ろめたく一生背負ってくだろうよ。俺はそんなあいつは見たくないんだよ。」
いい兄ちゃんは前を向いててくれなきゃいけないんだよ。
「ほう、ならばわしがバラしてしもうたらどうすんのじゃね?」
「開き直ってんじゃねえよ。俺達がいる間にバレないようにもとに戻せって言ってるだけだよ?それ以外の選択肢は無いんだよ。できないって言うなら………」
心から本気で言葉を絞り出した。
「必ず、地獄に落とすからな。」
言いたい事は言えた、と思う。今回はかなりマジだっなよ、俺。後先考えず動いちゃったな……
とりあえず、もうここに長居はしたくない、勿体ないけど………あいつら良いなあ、美味いもんいっぱい食べたんだろうな。 ちっくしょー。




