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第28話 過去現在

「どうだい?アル君、ラックバード君。高級ホテルとまではいかないけど結構いい雰囲気でしょう、この宿泊所。」

 やっとゆっくり休めると肩の荷が下りたのだが、確かにマグが鼻高々に紹介してくれた部屋は、ホテルというか別荘みたいな感じで居心地が良さげだった。


「良いなこの部屋。でも何でこんなにお洒落なのかな。」

「研究は長い時間がかかるときが多くてね。余り追い込まれすぎると優秀な者も壊れてしまうし、できる限りの心のケアになれば。と、なるべく無機質な感じは避けリフレッシュに専念できる様にしたんだよ。」

 俺のちょっとした質問に真っ当にマグが答える。やっぱりディッドがポカスカ殴ってるのが悪影響なんじやないか?

 ここに来るまでの研究員達の反応も妙な感じだったしな。





 大きな門をくぐり、研究所の敷地に入るとすぐに建物があった。ここで入所手続きがあるらしい。全てマグに丸投げだ。


「お疲れ様です。連絡は受けてます。4名でマグさん、ディッドさん、ラックバードさん、アルゼさんで間違い無いですね。機関登録書の提示をお願いします。」

 守衛の方にお願いされたが、そんな物持ってたっけな?と思ってるとマグが全員分の書類を管理してるとの事だった。

 あれ?コイツちょっと使える?


「ありがとう。いつも済まないね。しばらく滞在する予定だから色々頼むね。」

 さらっと気遣いをする。流石にホームは違うんだな。………ん?何だ?守衛の瞳孔が開いてる。わなわなと震え始め椅子から滑り落ちた。そしてそのまま放心状態になっている。奥にある部屋から別の守衛が出てきて介抱をしだした。なんかの発作だろうか?まあ大丈夫そうだし、何もできないのでマグに続いて先に進む。


「この先の第一研究棟の中を通り過ぎた先に宿泊棟があるんだ。ちょっと距離があるから、あと少し辛抱して貰えるかな。」

 研究棟に入るとたくさんの部屋が並んでいた。カテゴリー毎に研究室が分かれているらしい。入口に近いこの棟は基本的な研究を行っているようで、敷地の奥に行けば行く程、国家機密のレベルが上がるらしい。


「お疲れさま。ちょっとお邪魔するよ。もしかしたら後で顔をだすかも知れないけど、気にしないで研究に集中してて良いからね。」

 普通の上司っぽい言葉をマグが言う。すれ違う研究員一人一人に言葉をかけなから進んで行く。何か最初のイメージと違うんだよな?変態よりかマシだから良いけど。


 と、俺達がこの建物を通り過ぎ出口のドアを締めた瞬間。恐ろしいほどのどよめきが聞こえてきた。かすかに聞こえた内容は、やれ天変地異が起こるやら、やれ空から悪魔が降りてくるやら、悲鳴とも絶望とも取れる声が響き渡っていた。

 なんかさ、俺達って拒絶されてないか?




「え…ここも、使っていいんですか!?」

「もちろんだよ。向こう側にプールやジャグジーもあるし、必要な物は自由に使っていいよ。」

 本格的なトレーニング機材の前でラックバードはプルプルしだした。あれ?いつもの小動物じゃないな……うお!身体デカくなってないか?嬉しすぎて筋肉が脈動してるぞ。気持ち悪い。


「ええっと…、それでは私はここの機材がどの程度の物か試さして貰いましょう。使い方?大丈夫です、問題無いです、分かります。あと、できればタオルやドリンク頂けますか?ああ、すいません。皆さんも一緒にどうですか?トレーニングメニュー考えるの得意なんです。どうですか?アルさん。上腕二頭筋とかやっちゃいますか?嫌ですか。」

 人格崩壊してるぞ、ラッキー。やはりお調子者でしっかりガキんちょだな。勝手に鍛えててくれ。俺は休む。


「おお〜〜!まぐ夫、あれ!あそこ!言ってたトコってアソコの事でしょ?いいの?いいでしょ?いいに決まってるよね。約束したもんね。さぁ行こうよ。今行こうよ。すぐ行くよ。」

 ダメだ、バカもグレードアップ完了だ。


「ディッド君!慌てないで!一応施設の一環だから自分が同行して確認しないと駄目なんだよ。アル君、キミはどうする?ここで休んでいるかい?」

「勿 論 で す。休んで待ってるよ。」

 即答だ、当然だな。



 あ〜静かだ。実に平穏だ。心地よい風。木々のざわめき。素晴らしい。

 皆が出払った後、この棟の管理者から飲み物を頂いたのだが、その時に過去のマグの所業を聞くことができた。特に興味は無いんだけどな。向こうの方が俺に色々聞きたかったらしい。

 で、過去のマグなんだけど……



「おぉ~い、はやく〜通して〜くれぇ〜。やっとぉ〜実験がぁ〜できるぅ〜。登録書?顔見ればぁ〜分かるでしょ〜通るからねぇ〜…………」

 守衛の人は手続きさをせて貰えなくて毎回報告書を上げなければいけなかったらしい。施設が施設なだけにかなり厳しいとの事だ。


「キミたち〜それくらいの〜実験は〜とっとと〜終わらせ〜ないと〜ねぇ〜」

 また人の研究の途中に現れては、

「ここを〜こうやって〜あれぇ〜間違えたかな〜ああ〜自分の〜研究ぅ〜したいからぁ〜。あと〜よろしくぅ〜。」

 ぐちゃぐちゃにして去っていく。何年も頑張った研究を台無しにされたこともあるらしい。


「………‥‥…ぐぅ。」

「すいません!マグさん!廊下で寝ないで下さい!お願いですから宿泊所に行って下さい!

 !臭っ!なんだこの匂い。ああ。だめです!椅子に座らないで下さい!匂いが移る!オェ……この匂い洗って落ちるのかな?…うっ、ゲェロォロロロォ…‥…」


 ………クソ野郎だな。と、今初めてみんながまともなマグと接したらしい。実験大好きらしいので研究所の近くに来ただけで興奮し、施設にいるうちも嬉しくていつも興奮しちゃうんだろうな。


 …毒?…いや、アイツが本気で殴った衝撃で……まさかな、もしかして……何回も殴っ……違う違う!そんな訳無いよな…多分……





上級研究員の脳味噌破壊したとかやめてくれよ……

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