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第25話 回想

「そう言えば、結局何がどうなって討伐隊に任命されたんっだろう?マグさん何か知ってるんじゃないの?」

 単純な疑問だった。国王にお目通りをしたことより、拘束から解放されることが嬉しすぎてすべての条件を甘受してしまったのだ。


「ああ、皆さんで木竜山から龍の卵を持って帰ってきて売りましたよね。久し振りに市場に出たものですから興味を持って調べたんですよ、そしたらなんと、その一行の中にラックバード君が〜いるぅ〜……とと、」

 まだ変態が抑えきれて無いぞ。よっぽどその時興奮したんだな。

 ふ〜ん、あそこ木竜山っていうんだ。知らなかった。そういう事も調べる隙を与えてくれないんだよ、ウチのリーダー。


「失礼。それ以外の経歴も調べた所、他の冒険者とは一線を画す方々と思い、我が王に懐柔を提案させて貰ったんですよ。』

 お前が元凶か。


「まあ、私まで含めて討伐隊に編入させられるとは思ってみなかったですけどね。」

 お前も被害者か。


 …本人は知らないのだろうが、王国内、特に王都周辺でマグの奇行は度を越えていたらしい。実験や研究という名目で当たり構わず迷惑をかけるという事で、扱いに困っていたのだと。……押し付けられたな、俺達。


「それでも自分は嬉しいのですよ。この広い世界でまだ誰にも知られていない事を、実践を踏まえて研究ができる!なんせ、実験対象が〜こんなにぃ〜いっぱ     ごふぅ。」

 ふざけるな、バカ!俺のいない所に殴り飛ばせよ!怪我すんのは俺だけなんだからな!イテテテテ……


「お願いですから、私に変な薬とか使わない下さい。アスリートとしてドーピングとか本当に嫌なんです。私自身の努力と修練が結果になって高みを目指してこそ、沢山の方に感動を与えられると思うんです。今は冒険者になりましたけど、そこだけは絶対に譲りたくないんです………」

 ラックバードは根本的には真面目で良い兄ちゃんなんだよな。ただ、アイツと一緒のスイッチが付いてるけど。


「もちろん大丈夫ですよ。そんな事をしなくても君の身体能力は素晴らしいのです!むしろ、奇跡の芸術作品であり自分の手で汚そうなんて思うはずもない!いつも説明する前に巻かれてしまったので伝えられなかったのですが、安心して頂きたいです。」

 そりゃラッキーも逃げるよ。マジでヤバイ変態だしな。捕まったら人体実験されると思うよ絶対。


「ラッキーに変なことしたらコッチはホントに許さないからな。」

 俺は入ってないんだ。確かに研究されるような特殊能力は持ってないけど。


「大体流れは分かったな。因みにマグさんはどんな事できるの?」

 あの爆弾みたいなものは凄かったけど、本人の力じゃないしな。もしかしたら何か隠してる力があるかも知れないし…。


「研究してたのは主に火薬とか兵器関係ですけど理化学全般いけますよ。」

「それじゃあ、魔法学みたいなものは?」

 期待を込めて聞いてみた。俺の憧れだ。

「そんなものは必要ありません。自分の科学力の方が強いですから。」

 完全否定された。


「まだ言ってるの?アル。魔法なんてコッチの一発でぶっ飛ばしちゃうし、使った所で意味ないよ。」

 完全否定された。


「そうですね、そんな超能力より本当に信じられるのは自分の肉体の鍛錬と研鑽だと思います。一緒にトレーニングどうですか?」

 完全否定された。




誰でもいい。俺の夢を、憧れを肯定して下さい。




「それで、今から向かう場所はなんてところだっけ?」

 もういい、俺は討伐のことだけ考える。


「一応討伐隊と言っても、何も魔物を倒しまくるだけが仕事ではないんですよ。他の冒険者が倒しに行かないような魔物などを勿論相手にするのですが、場合によっては盗賊や侵略者等を相手したりすることもあると思います。まあ、自分は国王とは旧知の仲なので、色々やらされるだろうと思いますけどね。」

 結構話してると普通なんだよな。でも、興奮した変質者が街に出没したら周りも怖いし、国王も擁護し切れなくなったんだろうな。


「コッチは何でも相手になるぞ。早く敵をもってこい。」

 ディッドもまだまマグの事を警戒してるな。ただ変態が嫌いなだけだろうけど。


「討伐命令が出てるのは……この砂丘にいるカクレサソリという魔物です。基本単体で行動するらしいですね。その名の通り砂に隠れてるらしく交易路で旅のキャラバンが襲われて流通が止まってしまってるので早急に討伐せよとの達しです。大きさは馬車位とのことです。」

 でけえよ!ヤダよそんな虫!でも、初めての討伐だし、一匹相手ならこいつらでどうにかなるだろう。もしかして簡単な任務から渡してくれたのかとか?そうなら良いな。


「あのー、弱点とかあるのですか?もし知ってたら教えて貰えないですか?」

 ナイス、ラッキー!いいね!こういうのだよ!何か冒険パーティしてない!?これで魔法使いがいてドンパチやってくれればいいのにな。いるのは殺戮者とデカブツと変態と俺…

 よし、話を先に進めよう。


「弱点は…ですね。例に違わず心臓です。あとは………鋏の力は人の腕ぐらいは簡単に切り落とせる。尻尾の毒は100人くらい殺せる強さ。人を生きたまま捕食する。とかですね。」

 あっ、人間食うんだ。デカブツと目を合わせる。良かった、俺と同じでチビリそうな顔してるよ。普通の反応してくれると嬉しいな。俺一人ぼっちじゃ無かったよ。


「ちまちま作戦なんて練らなくていいよ。見つけたら踏んづけちゃえばいいんだよ。」

 馬車サイズの虫なんて踏んづけられるわけ無いだろが!もういい、相手してられない。




「ん?」「おろ?」「うわ。」「なななっ。」

 足元の砂がサラサラと崩れてく。ディッドは言った通り虫を踏みつけている。そして俺達全員も踏みつけている。




 馬車サイズじゃなくて民家サイズの虫を。

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